魔法省を悩ませる謎の病は私の力が原因でした

さくらぎしょう

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24.予想外の来訪者

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 話を終えた私とラミは、ラムセーレ養護施設の玄関でユグレに別れの挨拶をしていると、背後から予想もしていなかった人物に声を掛けられた。

「やっぱりサンシャインとラミも来てたのか。なら一緒に来させて貰えばよかった」
「オーケ!? 何でここに?」

 驚く私とは対照的に、ラミの方はオーケの来訪を予想していたかのようだった。

「オーケも気づかれたのですか?」
「ラミはいつ気づいた?」

 ラミとオーケの間に立つ私は、一人会話が飲み込めず戸惑い、二人の顔を交互に見ている。

「薄々もしかしたらと思っていましたが、確信したのは姉と話してからです」
「シェニアさんだな!」

 シェニアさんの名前を口に出すだけで顔を綻ばせるオーケに、ラミは苦笑いする。だけど、苦笑いの視線の先はオーケではなく、その更に後方にあるように思える。

「いえ、次姉です。ほら、噂をしてしまったから、すぐそこに」

 ラミがオーケの後ろ、養護施設敷地外の道路を指差すと、そこにはスーツ姿の女性と亜人男性の姿が見えた。
 女性はカチッとしたパンツスーツ姿で、金色のショートヘアー、凛々しい眉に涼しげな目元をしており、男装の麗人といった感じである。
 隣に立つ亜人男性は、頭に犬のような耳があり、肩下あたりまである黒髪に褐色の肌、黒い瞳で、神秘的な雰囲気のある体格の良い美丈夫だった。
 
「メルヴィ姉さん」

 ラミはこちらに向かって歩いてくる女性に向かってそう呼んだ。

「エドヴァルドからラミはここに行っていると教えてもらって、追いかけて来たんだ」
 
 長姉のシェニアさんは薔薇の香りのような女性フェロモンを放出する、色気溢れる女性だったのに対し、メルヴィさんは女性を惹きつけるスマートな立ち振る舞いの王子様の様な女性だった。

「その子ね」

 ふいに私は王子様に見つめられてしまった。どことなくラミと似た顔で見つめられると少しドキドキしてしまう。

「初めまして。私はラミの姉でメルヴィといいます。魔法省の外務部科学界課で勤務している。こっちは私の同僚で、あなたと同じ魔水晶と同じ振動数が出せるファリード」

 紹介されたファリードは私に向かって軽く会釈し、品良く微笑んでくれた。こちらはこちらで遠い異国の王子様のようだった。

「プルム・サンシャインです。プルムと呼んでください」
「じゃあプルム、単刀直入に話すけど、あなたの力はこのファリードと同じであって同じではない。今解術するのはとても危険だから待ってほしい」
「危険……なんですか?」
「自身で振動数を生み出す者は大昔はそれなりにいたけど、現代では稀だ。魔法省が確認出来ている現存する人数はプルムとファリードの二人だけ。
 歴々の能力の持ち主たちは、自分も周りも早い段階の幼少期頃までには他とは違う事に気づき、魔水晶に影響を与え出す思春期を迎える前には適切な処置と訓練がされる。ファリードがそうだ。でも、プルムの場合は術で封じ込められていたから、誰も気づく事が出来ず、力が増幅し始める思春期を迎えてしまったんだよ。
 今、プルムの中には振動が適切に放出されず、力を溜め込んでいる状態だ。制御装置もない状態で解術したら、魔水晶と大きな共鳴を始めて、この地域の振動数を大きく乱し、サラトゥースの人々の魔力が失われるかもしれない」

 ファリードがプルムの前に出て、獣の耳につけているリングピアスを指し示して説明してくれる。

「これは自分の作り出す振動数と魔水晶の振動数が共鳴しないようにしてくれている。でも、私は幼いころから自分でコントロールが出来るよう訓練しているから、これを外してもよほどのことがない限り共鳴しないよ。魔力は魔水晶からではなく、基本自分の生み出す振動数から生み出すんだよ」
「自分の中で振動数を出して魔力を生み出す……そんな事が出来るんですね。それに、それがあれば、私の周期性発熱症候群が治るんですよね?」
「身に着けるだけじゃなく、そのあと術を解術して初めて治るよ。でも、順番を間違えれば先ほどメルヴィが言った通り、魔水晶と共鳴して周りに甚大な被害を及ぼす可能性がある」
「ええ、理解したわ。順番を必ず守る」

 オーケが慌ててメルヴィさんとファリードさんに話しかけた。

「すいません、私はサラトゥース地方局の生活課課長オーケ・ブラッドショーと言います。ずっとサラトゥースの謎の病を追っているんですが、やはりサンシャインが影響を与えていたんですか?」

 メルヴィさんは先ほどまでの紳士的な態度から打って変わり、急に冷え切った視線をオーケに向けた。

「振動数を生み出す人間がいる可能性をなぜ長年見過ごしていた」
「それは……伝説的な話すぎて、サラトゥースのような地方では神や幽霊や宇宙人と同じ様に、存在はし得るだろうが、目に見えて実在はしないだろうと思われるようなものだからです」
「そう。私が畑違いの部署で良かったね。もしもこの問題に関する部署の人間だったら君はたっぷり絞られただろう」
「はい……」

 ラミが大きな溜息をついてメルヴィを止める。

「はぁ……メルヴィ姉さん、たとえ地方局がすぐに振動数を生み出す者がいる可能性を考えたとしても、術で封じられたプルムを見つけ出すのは至難の業だったと思うよ。たった十年でプルムを見つけられた事に安堵しなきゃ」
「確かにそうだな。魔法大臣すら今更サラトゥース地方に振動数を出す者がいるんじゃないかと疑い出していたくらいだものな。まあ、大臣の場合は選挙前にここの問題を片付けたくて、やっと真剣に取り組み出したのだろうが。まさかラミがキスした相手がドンピシャでそれとは、我が弟は中々やるものだ」
「ちっ……シェニア姉さんめ、速攻メルヴィ姉さんにキスの話をしたな……」
「そりゃ私達は姉妹だ。可愛い大切な弟の情報を共有するさ。私もその話を聞いて、弟がやっと恋する年齢になったのかと感慨深く嬉しく思っているのに、その態度は悲しいね」
「そういう姉さん達こそ、いつになったら父と母に恋人を紹介するんだよ」
「私は今は仕事第一だからな。シェニア姉さんなんてあの様子だと特定の恋人すらまだまだだろ。だから、父と母を安心させる為にも、私達に矛先が向かない為にも、ラミがさっさと結婚してくれ」
「姉さん……」
 
 メルヴィさんの前ではラミが少し幼く見えて可愛らしかった。二人の様子を微笑ましく見ていれば、メルヴィさんが私に視線を戻す。

「そうそう、ちなみに振動数を出せる者は、魔法省が設立されてから、確認出来ているのは亜人だけだ」
「亜人だけ? ん? つまり???」
「そう、つまり、プルムはおそらく亜人じゃないかな?」
「え!? そうなんですか!!」

 私には尻尾も耳もなく、見た目に亜人の要素がないので、かなりの衝撃だった。

「ご両親を探すヒントになれば幸いだ」

 メルヴィさんはそう言って私にウインクした。

 そして、この時、招かれざる客がもう一人施設の入口で隠れていた事を、私達は会話に熱が入り過ぎて気づかなかった。

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