魔法省を悩ませる謎の病は私の力が原因でした

さくらぎしょう

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25.停

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 周期性発熱症候群を発症する予定日をだいぶ過ぎたが、体調の変化は未だ見られなかった。ファーストキスをした日以降、ラミにキスはされていない。
 たった一度のキスは今でも私の胸を焦がしている。正直なところ、発熱の兆しがあればもう一度キスをして貰えるんだと少し期待して待ってしまっていた……。
 ラミは手のひらを相手に向けるだけで振動吸収は出来ると言っていたから、もしかしたら私の知らないうちに、吸収してくれていたのかもしれない。
 そんな事を街中で悶々と考えていれば、いつの間にかラミとの約束の時間になっていたようで、ふわりと肩に手が乗せられたのがわかった。

「難しい顔して、何を考えていたの?」

 手が乗せられた方へ顔を見上げれば、ラミが優しく笑って私を見ていた。今日はメルヴィさんとファリードさんが、完成した制御アクセサリーをラミの家まで持ってきてくれることになっている。二人にお礼のケーキを買ってからラミの家に向かうと伝えたら、ラミも私と一緒に買いに行くと言うので待ち合わせしたのだ。             

「発熱の兆しがないなぁ……って」
「ああ、それなら良かった。発熱しないようにプルムから出来る限り毎日振動吸収してるんだ。術が掛けられてて中々スムーズに流れてこないから少しずつの吸収だけど、効果が出てるなら安心した」
「あ……やっぱりそうなのね……」
「あれ? 何だか嬉しくない様子だね??」

 ラミの視線は歯痒い。本当は全てを分かっている気がする。

「実は……キスを期待してました……」

 言ったはいいが、恥ずかしすぎて即両手で顔を隠した。
 ラミは何も言わないので、不安になって指の間を少し開けて覗き見たら、困り顔のラミと目が合ってしまった。

「見えてるよ」
「すいません……」

 私は両手をおろすと、ラミがその手を握ってくれた。

「キスしたら……また暴走したら、プルムに避けられるかもしれないから、我慢してるんだよ……」
「暴……走……」

 その言葉にファーストキスの夜を思い出す。あの夜はラミがいつものラミじゃなくなって、朝まで眠らせてもらえなかった……。確かに暴走か。そして、その後私は恥ずかしくてラミを避けてしまった……。

「す、好きな人と、初めてあんな夜を過ごせたら、胸がドキドキして顔を合わせられなくなるものでしょ?」

 顔を真っ赤にしてラミに伝えた。チラッとラミを見れば、彼も耳まで赤くなっている。なんだかその姿が可愛くて、少し意地悪がしたくなってしまった。

「ラミ、じゃあさ……」
「うん、なに?」
「ちょっと屈んでくれる?」
「こう?」
「いや、もう少し」

 背の高いラミが、私の顔の高さまで屈んでくれた瞬間、私はラミに軽く触れる位のキスをした。
 
 ら、ラミの長い腕が私に撒きつき、がっつりと捕獲され、気づくと転移魔法でラミの部屋に転移させられていた。

「我慢してるって言ったじゃん」
「へ?」

 ラミの目付きは完全にスイッチが入っており、ギラギラと獰猛な光を放つ。

「ラミ、時間ないわよ!? メルヴィさん達が来ちゃうっ!!」
「大丈夫。ほんの少しだから」

 ラミは擦り寄る様に唇を重ねて来た。我慢していたというのは本当だろう。唇がしっかりと重なり合ってしまえば、あとは息継ぎが大変なくらい、ラミのキスが止まらない。これのどこがほんの少しなのか。そう思いつつも私も止められず、身を任せてしまう。ラミはそのまま私をベッドの上に押し倒し、子犬の様にじゃれてきた。そして甘えるようなキスをしてきたかと思えば、私の上にラミの体重がのしかかって来る。

「ラミ、だめ、それ以上は……って……お゛……重……」

 私はラミの愛を受け止めていたはずだが、気がつけば彼の全体重を受け止めていた。
 このままでは圧迫死しそうなので、両手を使い、なんとかラミをベッドの上に滑らせると、ラミはころんと仰向けになってスース―眠っていた。

「ええ?」

 ラミの肩をゆするが、起きる気配がない。どうしたものかと、頭を真っ白にすれば、丁度メルヴィさん達が到着し、ラミの部屋まで尋ねて来てくれた。

「メルヴィさん! ラミが突然眠ってしまって……」

 メルヴィさんにそう言うと、とても慌てた様子でラミに駆け寄り、状態を確認し始める。その様子から、只事ではないのだと心に不安が広がり始める。

「プルム、ラミは眠る前に君に何かした?」

 それには心当たりがありすぎるが、恥ずかしがっている場合ではないので、羞恥心を捨て、か細い声だが素直に答えた。

「……キ……スです」
「……遅咲きの我が弟は暴走が激しかろう……」
「私も経験がないもので、何が標準なのか……」

 ファリードさんが苦笑いしながら声を掛けてくる。

「さすがに今日のキスだけで倒れないでしょ。普段からプルムさんから振動吸収していたんじゃないかな?」
「ええ、可能な限り毎日してくれていたようです」

 私は超真面目に答えたのに、なぜか二人はニヤニヤと笑い出す。

「え? あ、違いますよ!! キスは今日で二回目で、普段は何かしらの方法で私の気づかないうちに吸収してくれていたそうです!」

 メルヴィさんは何に頷いているのかわからないが、首を縦に振りながら私の肩をトントン叩く。

「二人が仲が良ければ私は嬉しい限りだよ。どんどんキスをして弟を結婚まで導いてくれ。ただし、プルムの術を解術して、振動数が落ち着いてからの方が、ラミの身体の負担を考えれば適切かな。それにしても弟を昏睡状態にまで出来るほどの振動数とは、随分と大きな力だ。解放されるのが少し怖い」

 メルヴィさんの言葉で、自分のせいでラミを危険な目に合わせていたのがわかり、とても怖くなった。このままラミが目覚めなかったら、きっと後悔だけじゃなく、私の心も死んでしまうだろう……。

「メルヴィ、もう制御アクセサリーは完成してる。解放しても問題ない」

 ファリードさんがメルヴィさんに小さな宝石箱を渡した。

「そうだな。ではまず持って来た制御アクセサリーをつけよう。それから私の魔法でラミを治療すればすぐに目覚める。私の治癒魔法は一級品だよ」

 メルヴィさんは宝石箱を開けて、中を見せてくれた。ファリードさんと同じ金の輪っかのピアスが入っているかと思えば、中にはシルバーのシンプルな腕輪が入っていた。

「これをつけて、メルヴィさんが治癒魔法をラミに施してくれたらラミは目覚めるんですね……ああ、良かった……ラミが目覚めなかったらと思ったら……」

 ホッとして気が緩んだら、急に目から涙が溢れてきてしまった。メルヴィさんは笑いながら私の涙を拭いてくれていると、ふと外が騒がしくなっていることに気がつく。
 何事かと首を傾げながら三人で視線を交わし、窓の外を覗けば、街は冷静さを失っており、大混乱に包まれていた。
 いつもは空を飛び交っている箒も一本も飛んでいない。稼働中は輝く魔導具も、全て暗く沈んでいる。街を行き交う人々は皆驚きや戸惑いの表情と叫び声を上げていた。

「なんだこれは……」

 メルヴィさんが食い入るように窓に手を当てて外を覗き見ると、階下からバタバタと慌てた足音が駆け上がってくる。扉を勢いよく開けたのはメイドのサンナで、顔を真っ青にしていた。

「お……お嬢様……振動数が……魔力が……」
「サンナ、どうした? はっきり言うんだ」
「魔法が使えません」



 




 
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