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26. 糸口を探る
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メルヴィさんはラミに駆け寄り、急いでスーツの内ポケットから杖を出して治癒魔法を始める。だが、杖はただの枝に成り変わっていた。
「……魔水晶から振動数を感じない。魔力に変換出来ない」
メルヴィさんはファリードさんに手招きする。
「ファリードなら自分で振動数を出せるから魔法が使えるはずだ。ラミに治癒魔法を施してくれないか?」
だがファリードさんは難しい顔をして動こうとしない。
「メルヴィ……ラミほどの大魔法使いを目覚めさせるとなると、低度治癒魔法では無理だ。かなりの魔力を消費する高度治癒魔法になる。ラミを運よく治癒出来たとしても、負荷が大きすぎて魔力供給が一時停止する。私自身もしばらく魔法が使えなくなる。魔水晶の振動数が通常時なら、魔水晶側に切り替えて魔法を使えばいいだけだが、今回はそれは出来ない。街の様子からも、おそらく魔法が使えるのは振動数が生み出せる私だけだ。ラミはこのままでも命には別条はないのだから、魔法を何に使うかは慎重にならないと、私まで魔法が使えなくなったら、本省に助けも呼びに行けなくなる」
「そうか……無駄に力だけ強い弟が、この時ばかりは憎たらしい……」
メルヴィさんはふいに私に視線を移すと、何かに気づいたようにぱっと目を輝かせ、大喜びで私に駆け寄って来て両手を握った。
「プルム! 君も振動数が出せるじゃないか!! 治癒魔法はどの程度出来る?」
「……あ……あの……私……魔法がぽんこつで……低度魔法でも危ういレベルです……」
「なんと!!」
メルヴィさんは口をポカンと開けて暫く私を見たまま固まってしまった。
「たっ、試しに、魔力供給が停止しないレベルで何かやってみてくれないか? それで、ファリードの使える魔法と合わせて、今後の動きを考えよう」
「たっ、試しですか??? えっとじゃあ……そのコップに水を注ぎます」
「キンダーレベルだな……ま、まあ、無駄に魔力を使うよりはいいな。よし、やってみてくれ」
私はポケットから杖を取り出し、コップに向かって杖を振った瞬間、瀑布のような激しい水流が轟々と物凄い音を部屋中に響かせながら、真っ白な水しぶきをあげて真っ逆さまにコップに向かっていき、あまりの水圧の強さにコップもろとも床をズガンッと突き破って落下していった……。
メルヴィさんは呆気にとられながら、声を振り絞る。
「プルム……今のは、高度魔法の水龍だね……」
「すっ、水龍!?」
そんなものを出した事は一度もない。私のポンコツ魔法はどこまで暴れん坊なのだろうか。コップに水を入れようとしただけで、水龍がコップごと床を突き破るだなんて……恐ろしすぎてもう二度と魔法が使えない。
突然、ファリードさんが声を上げた。
「ああ!! 解術だ!!」
「え?」
「プルムに掛けられていた術が何かしらで解術されたんだよ」
「解術!? だって、ユグレからはまだ何の返事もきていないわ」
「でも、君が解術されたなら辻褄が合う。君から放出された振動数と、サラトゥース地方をカバーする魔水晶が共鳴し、その負荷で振動停止してしまったんだ。だから、振動数を生み出せる君と私だけは魔法が使えるし、君にいたっては、力の解放で高度魔法が使えるようになってる。でもそうとなれば、魔水晶を復旧させない限り、やはりこの地方で魔法は使えない。他地方から誰かが応援にきても、サラトゥース地方に入ればやはり魔法は使えなくなるから、本省に助けを呼びに行くのも無意味かもしれない」
メルヴィさんが手をポンッと叩いて納得した。
「なるほどな。魔法がぽんこつだったのは、今まで力を抑えつけられていたからで、急に開放された力は強すぎて、まだプルムにコントロールが出来ないんだな。では、やることは決まった。制御アクセサリーをプルムは身に着け、ファリードが魔水晶の場所まで転移して復旧させてこい。制御アクセサリーがあれば、魔水晶が復旧してもプルムと共鳴しない。順番が逆になって街は混乱したが、制御アクセサリーはもうあるから、混乱もすぐに解消できる。良かったな」
メルヴィさんはそう言うと、宝石箱から腕輪を取り出して私の左腕につけてくれた。するとシルバー色だった腕輪が、ファリードさんのピアスと同じように金色に染まっていく。
「良かった。無事に作動した」
腕輪の色の変化に安堵しているメルヴィさんに、ファリードさんは戸惑いながら声を掛ける。
「おいメルヴィ、魔水晶の復旧って……どうやるんだ?」
「知らん。本省の経済産業部の技官なら知っているだろうが、魔法が使えないから連絡が取れない」
「おいおい、だから無駄に魔力使うと、私だって使えなくなるって言ってるだろ。魔水晶まで転移して何も出来なかったら、魔力の無駄遣いだろ」
私もメルヴィさんとファリードさんの間に入った。
「やっぱりファリードさんが本省に転移して、経済産業部の人達をサラトゥースの魔水晶のところまで連れて来てもらえばいいんじゃないですか?」
「だから、サラトゥースに入った段階で魔法が使えなくなるんだから、ファリードが本省までは行けても、経済産業部の者と共に転移魔法で魔水晶までは辿り着けない」
「何か魔法を使わないで経済産業部の人を連れてくる手段はないでしょうか……?」
「プルム……本省からサラトゥース隣接地方まで転移したとして、そこから五百マイル近くを徒歩で来るとしたら、休憩も入れて一~二週間はかかる」
「それは確かに時間が掛かりすぎますね……」
私はラミを見つめた。私のせいでサラトゥースは混乱し、ラミは眠りについてしまった。そう思うだけで罪悪感に苛まれ、冷静さを失いそうになるほど、悲しみが襲ってくる。
(考えないと……落ち着いて……)
周期性発熱症候群から解放されても、サラトゥースを犠牲にして一人だけ病を治すなんて後味が悪すぎる。健康になったとしても、ラミがいなければ何の意味もない。ずっと病を追って仕事漬けだったオーケには何て言って謝ればいいか……。
「ん? オーケ? そうだわ!!」
私の大声にメルヴィさんとファリードさんが驚いていた。
「オーケの家のガレージに科学界の乗り物、バイクがあります!! あれが動かせれば、歩くよりも速いはず!!」
「何!? バイクだって!?」
「ええ、そうです! 一度オーケの家には行った事があるので座標もわかります」
「よし、バイクがあれば五百マイルなんて一日もかからない! ファリード、すぐに私達も一緒にオーケの家まで転移してくれ」
「いや、ラミじゃないんだから、私が複数人転移なんて出来るわけないだろ」
「水龍が出せるほどの魔力の持ち主がここにいるだろ。ファリードが特異体質の先輩としてプルムに力の使い方を教えて、三人転移をさせろ。オーケの家まで着けばバイクがあるんだから、力を使い過ぎて魔力が遮断されても問題ない」
ファリードさんは天井を虚しそうな顔で見上げ、私にしか聞こえない大きさでぽそりと呟いた。
「すげぇ女王様だろ?」
「あー……えーっと……そう、ですね」
ファリードさんは私の手を握る。
「仕方ない。メルヴィはああなったらもうこっちの意見は聞かない。プルム、私がコントロールするから、君は座標を念じ、自分の中に流れる振動数を感じ取る努力をするんだ」
「振動数を感じ取る……出来るかしら……」
「するんだ。ラミを助けたいだろ?」
「もちろんです」
目を瞑り、オーケの家の座標を頭に浮かべ、振動数を感じ取る努力をする。だが、開始早々、ファリードさんが手を離してしまう。
「だめだ、メルヴィ。彼女の力を閉じ込めているのは術だけじゃない。何か、もっと別の身体的特徴だ。魔水晶に関してはプルムが制御アクセサリー装着と、経済産業部の技官がいればどうにかなるが、彼女が魔力を自在に操れるようになるには、やはり両親を探して彼女の身体に生まれながらの何か秘密が無いか確認しないと」
「……とにかく、今は魔水晶だ。プルムの魔力コントロールはそれが解決してからちゃんと考えよう。経済産業部へは私も一緒に行った方がスムーズだが……ファリード、君だけでオーケの元に転移して、本省に向かって欲しい」
「いえ、私は科学界の乗り物を運転出来ません。なので、メルヴィを転移させますので、オーケと二人で行って来てください」
「お前! 何年外務部の科学界課で働いてるんだ! 運転ぐらい出来るようになっておかなくてどうする」
「ええ、この事態が収拾したら教習所とやらに通ってきます。プルム、メルヴィに座標を渡して」
「あ、はいっ!」
私は急いで手書きの地図を書き、座標を記入した。
「では、メルヴィ、よろしく」
ファリードが若干面白がった顔で杖を振り上げた。メルヴィさんは表情を切り替え、私達に向かって凛々しい笑顔で軽く敬礼をすると、一瞬で消えた。
「……魔水晶から振動数を感じない。魔力に変換出来ない」
メルヴィさんはファリードさんに手招きする。
「ファリードなら自分で振動数を出せるから魔法が使えるはずだ。ラミに治癒魔法を施してくれないか?」
だがファリードさんは難しい顔をして動こうとしない。
「メルヴィ……ラミほどの大魔法使いを目覚めさせるとなると、低度治癒魔法では無理だ。かなりの魔力を消費する高度治癒魔法になる。ラミを運よく治癒出来たとしても、負荷が大きすぎて魔力供給が一時停止する。私自身もしばらく魔法が使えなくなる。魔水晶の振動数が通常時なら、魔水晶側に切り替えて魔法を使えばいいだけだが、今回はそれは出来ない。街の様子からも、おそらく魔法が使えるのは振動数が生み出せる私だけだ。ラミはこのままでも命には別条はないのだから、魔法を何に使うかは慎重にならないと、私まで魔法が使えなくなったら、本省に助けも呼びに行けなくなる」
「そうか……無駄に力だけ強い弟が、この時ばかりは憎たらしい……」
メルヴィさんはふいに私に視線を移すと、何かに気づいたようにぱっと目を輝かせ、大喜びで私に駆け寄って来て両手を握った。
「プルム! 君も振動数が出せるじゃないか!! 治癒魔法はどの程度出来る?」
「……あ……あの……私……魔法がぽんこつで……低度魔法でも危ういレベルです……」
「なんと!!」
メルヴィさんは口をポカンと開けて暫く私を見たまま固まってしまった。
「たっ、試しに、魔力供給が停止しないレベルで何かやってみてくれないか? それで、ファリードの使える魔法と合わせて、今後の動きを考えよう」
「たっ、試しですか??? えっとじゃあ……そのコップに水を注ぎます」
「キンダーレベルだな……ま、まあ、無駄に魔力を使うよりはいいな。よし、やってみてくれ」
私はポケットから杖を取り出し、コップに向かって杖を振った瞬間、瀑布のような激しい水流が轟々と物凄い音を部屋中に響かせながら、真っ白な水しぶきをあげて真っ逆さまにコップに向かっていき、あまりの水圧の強さにコップもろとも床をズガンッと突き破って落下していった……。
メルヴィさんは呆気にとられながら、声を振り絞る。
「プルム……今のは、高度魔法の水龍だね……」
「すっ、水龍!?」
そんなものを出した事は一度もない。私のポンコツ魔法はどこまで暴れん坊なのだろうか。コップに水を入れようとしただけで、水龍がコップごと床を突き破るだなんて……恐ろしすぎてもう二度と魔法が使えない。
突然、ファリードさんが声を上げた。
「ああ!! 解術だ!!」
「え?」
「プルムに掛けられていた術が何かしらで解術されたんだよ」
「解術!? だって、ユグレからはまだ何の返事もきていないわ」
「でも、君が解術されたなら辻褄が合う。君から放出された振動数と、サラトゥース地方をカバーする魔水晶が共鳴し、その負荷で振動停止してしまったんだ。だから、振動数を生み出せる君と私だけは魔法が使えるし、君にいたっては、力の解放で高度魔法が使えるようになってる。でもそうとなれば、魔水晶を復旧させない限り、やはりこの地方で魔法は使えない。他地方から誰かが応援にきても、サラトゥース地方に入ればやはり魔法は使えなくなるから、本省に助けを呼びに行くのも無意味かもしれない」
メルヴィさんが手をポンッと叩いて納得した。
「なるほどな。魔法がぽんこつだったのは、今まで力を抑えつけられていたからで、急に開放された力は強すぎて、まだプルムにコントロールが出来ないんだな。では、やることは決まった。制御アクセサリーをプルムは身に着け、ファリードが魔水晶の場所まで転移して復旧させてこい。制御アクセサリーがあれば、魔水晶が復旧してもプルムと共鳴しない。順番が逆になって街は混乱したが、制御アクセサリーはもうあるから、混乱もすぐに解消できる。良かったな」
メルヴィさんはそう言うと、宝石箱から腕輪を取り出して私の左腕につけてくれた。するとシルバー色だった腕輪が、ファリードさんのピアスと同じように金色に染まっていく。
「良かった。無事に作動した」
腕輪の色の変化に安堵しているメルヴィさんに、ファリードさんは戸惑いながら声を掛ける。
「おいメルヴィ、魔水晶の復旧って……どうやるんだ?」
「知らん。本省の経済産業部の技官なら知っているだろうが、魔法が使えないから連絡が取れない」
「おいおい、だから無駄に魔力使うと、私だって使えなくなるって言ってるだろ。魔水晶まで転移して何も出来なかったら、魔力の無駄遣いだろ」
私もメルヴィさんとファリードさんの間に入った。
「やっぱりファリードさんが本省に転移して、経済産業部の人達をサラトゥースの魔水晶のところまで連れて来てもらえばいいんじゃないですか?」
「だから、サラトゥースに入った段階で魔法が使えなくなるんだから、ファリードが本省までは行けても、経済産業部の者と共に転移魔法で魔水晶までは辿り着けない」
「何か魔法を使わないで経済産業部の人を連れてくる手段はないでしょうか……?」
「プルム……本省からサラトゥース隣接地方まで転移したとして、そこから五百マイル近くを徒歩で来るとしたら、休憩も入れて一~二週間はかかる」
「それは確かに時間が掛かりすぎますね……」
私はラミを見つめた。私のせいでサラトゥースは混乱し、ラミは眠りについてしまった。そう思うだけで罪悪感に苛まれ、冷静さを失いそうになるほど、悲しみが襲ってくる。
(考えないと……落ち着いて……)
周期性発熱症候群から解放されても、サラトゥースを犠牲にして一人だけ病を治すなんて後味が悪すぎる。健康になったとしても、ラミがいなければ何の意味もない。ずっと病を追って仕事漬けだったオーケには何て言って謝ればいいか……。
「ん? オーケ? そうだわ!!」
私の大声にメルヴィさんとファリードさんが驚いていた。
「オーケの家のガレージに科学界の乗り物、バイクがあります!! あれが動かせれば、歩くよりも速いはず!!」
「何!? バイクだって!?」
「ええ、そうです! 一度オーケの家には行った事があるので座標もわかります」
「よし、バイクがあれば五百マイルなんて一日もかからない! ファリード、すぐに私達も一緒にオーケの家まで転移してくれ」
「いや、ラミじゃないんだから、私が複数人転移なんて出来るわけないだろ」
「水龍が出せるほどの魔力の持ち主がここにいるだろ。ファリードが特異体質の先輩としてプルムに力の使い方を教えて、三人転移をさせろ。オーケの家まで着けばバイクがあるんだから、力を使い過ぎて魔力が遮断されても問題ない」
ファリードさんは天井を虚しそうな顔で見上げ、私にしか聞こえない大きさでぽそりと呟いた。
「すげぇ女王様だろ?」
「あー……えーっと……そう、ですね」
ファリードさんは私の手を握る。
「仕方ない。メルヴィはああなったらもうこっちの意見は聞かない。プルム、私がコントロールするから、君は座標を念じ、自分の中に流れる振動数を感じ取る努力をするんだ」
「振動数を感じ取る……出来るかしら……」
「するんだ。ラミを助けたいだろ?」
「もちろんです」
目を瞑り、オーケの家の座標を頭に浮かべ、振動数を感じ取る努力をする。だが、開始早々、ファリードさんが手を離してしまう。
「だめだ、メルヴィ。彼女の力を閉じ込めているのは術だけじゃない。何か、もっと別の身体的特徴だ。魔水晶に関してはプルムが制御アクセサリー装着と、経済産業部の技官がいればどうにかなるが、彼女が魔力を自在に操れるようになるには、やはり両親を探して彼女の身体に生まれながらの何か秘密が無いか確認しないと」
「……とにかく、今は魔水晶だ。プルムの魔力コントロールはそれが解決してからちゃんと考えよう。経済産業部へは私も一緒に行った方がスムーズだが……ファリード、君だけでオーケの元に転移して、本省に向かって欲しい」
「いえ、私は科学界の乗り物を運転出来ません。なので、メルヴィを転移させますので、オーケと二人で行って来てください」
「お前! 何年外務部の科学界課で働いてるんだ! 運転ぐらい出来るようになっておかなくてどうする」
「ええ、この事態が収拾したら教習所とやらに通ってきます。プルム、メルヴィに座標を渡して」
「あ、はいっ!」
私は急いで手書きの地図を書き、座標を記入した。
「では、メルヴィ、よろしく」
ファリードが若干面白がった顔で杖を振り上げた。メルヴィさんは表情を切り替え、私達に向かって凛々しい笑顔で軽く敬礼をすると、一瞬で消えた。
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