魔法省を悩ませる謎の病は私の力が原因でした

さくらぎしょう

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28.科学界へ

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「ラミ……なぜここに転移したの?」
「プルムの解術についても、君の身体についても知ってるとしたらここだと思うから」

 ラミは真剣な表情でラムセーレ養護施設を見ていた。

「魔水晶はいいの?」
「それは、メルヴィ姉さんがやってるんだろ? 魔法省の経済産業部技官を呼ぶ必要があるなら、やっぱり日頃から関わりのある姉さんにしか出来ないよ。それに、今オーケと車で移動してるなら、座標がわからないから迎えにも行けない。彼らを信じて任せよう」

 ラミは歩き出し、ラムセーレ養護施設の玄関をノックする。
 中からは魔法が使えず、憔悴しきったユグレが出てくる。

「まあ、二人ともどうやってここへ?」
「ユグレさん、プルムの解術について何か知りませんか?」
「解術? ええ、頼まれた通りプルムの父親が解術したと思いますが、無事に出来ましたか?」
「解術をした? 解術の為に連絡を取れないかお願いしていた段階で、ただちに解術する事はお願いしていなかったはずですが」
「え? いえ、だって、お二人と魔法省の皆さんが来た日に確かに頼まれましたよ。皆さんが帰った直後に、一人だけすぐに戻ってきて、オーケさんからの伝言だと言われました。その際名刺をくださって、念の為確認魔法を掛けましたが、名刺は本物で、ちゃんと魔法省の地方局の方でした」
「その名刺、見せて頂けますか?」
「ええ、こんなところではなんですから、部屋で待っていてください」

 私とラミは養護施設に入り、部屋でユグレが戻るのを待った。すぐにユグレはパタパタと戻って来た。

「名刺がありましたよ。この方です」

 ユグレに渡された名刺を見て二人で絶句する。その名刺はオーケの元カノである、ヤーナさんのものだった。

「ユグレ、ヤーナさんは何て言ってた?」
「オーケさんからの伝言で、プルムの親には解術がただちに必要だと伝えてくれと。もしも遠隔で解術が出来るなら、プルムに会う必要はなく、素性を明らかにする必要もなく、そちらで解術だけしてもらえたら大丈夫だと言われました」
「それで……制御アクセサリー装着前に解術されて、魔水晶が振動を停止してしまったんだな」

 ラミの言葉を受け、ユグレもやっと事態が掴めたようで、両手を口に当てて絶句してしまった。

「ユグレさん、そのヤーナという女性は、プルムの問題にも、オーケにも関係ない人物です」
「そんな……どうしましょう。名刺も本物で、訪ねてきたのもあなた方と同じタイミングだったからすっかり信じてしまって……」
「もちろん、ユグレさんは悪くはない。全てヤーナの問題です。ただ、プルムさんは今も術以外の何かの力で覆われていて、魔法がうまく使えません。やはり我々はプルムさんのご両親に会って話が聞きたいんです。どうか、協力してもらえませんか?」
「ええ……実は、プルムの親からは、解術して自分に用がなくなった後、もしもプルムがその後も会いたいと言えば、その時は居場所を教えてもらっていいと返事を貰っていました」
「どこですか?」
「それが……科学界です」
「「科学界……?」」

 半信半疑な私達に向かって、ユグレはしっかりと頷いた。

「科学界は座標ではなく、住所というものがあります。それを書いて渡すので、ラミさんが魔法を使えるなら、そちらに行って尋ねてみるといいわ」
 
 ユグレは机に置かれていた紙とペンを取り出し、科学界の住所とやらを書いてくれた。そしてそこには“ユリウス・モルフォ”とある。

「この名前って……」
「あなたのお父様の名前よ」

 喉元が熱くなるのがわかった。込み上げてくる感情を抑えながら、父親の名前が書かれた紙を見つめ続けた。

「プルム、早速行こう」

 ラミは私の手を握り、そう言ってくれた。

「うん、お願いします」

 ラミがユグレにお礼を伝えると、その場から一瞬で転移し、目の前にはユグレではなくシェニアさんが座っていた。そこは豪華な執務室で、大きな窓ガラスの外は、箒が飛ばない青い空と、初めて見る建物が沢山建ち並び、下の方に見える道路には科学界の車がいくつも走っていた。

「やだわ、驚いた」

 驚き方も優雅なシェニアさんは私達を見て、ゆっくりと持っていたカップをソーサーにカチャリと戻す。

「その様子だと只事ではなさそうね」
「ああ、姉さん、サラトゥース地方の魔水晶が振動を停止して、地方に住む人々の魔力が失われたんだ」
「まあ、それじゃあ、プルム用の制御アクセサリーには意味がなかったということ?」
「制御アクセサリーをつける前に解術されたんだ。それで、今メルヴィ姉さんが復旧にむけて動いている」
「ああ、だからメルヴィから返事が来なかったのね」
「それで、僕たちは科学界に住むプルムの父親に会いたいんだ」

 ラミは私から住所が書かれた紙を受け取ると、それをシェニアさんに渡した。

「ああ、ここならそんなに遠くないわね。連れて行ってあげる」
「良かった、住所の読み方がわからなかったから助かるよ」
「そうね、座標と違って位置が特定しづらいわよね。じゃあ、車を出すからついてらっしゃい」

 立ち上がったシェニアさんの後ろを私達はついて行く。廊下を出て、エレベーターに乗り込むと、動力が違うだけで、魔法界のものと良く似ていると感じた。

「ねえ、ラミ? ここまで転移魔法で来れたってことは、科学界でも魔法は使えるんでしょ?」
「ああ、こちらにも魔水晶はあるからね。こちらの人々は振動数を感じ取れなくて、感じ取れたとしても、それを魔力に変換できる身体の構造ではないから使われていないけど、我々なら使えるよ。ただ、いくら魔法が使えても、住所というものだと、この世界の細かい地図が頭にないと位置がわからないから転移が出来ないんだ」
「それでシェニアさんに頼るのね」
「そうだ。姉さんはもう長い事こちらで生活しているから、かなり詳しいよ」

 駐箒場ならぬ、駐車場に着き、シェニアさんの車の後部座席に乗せてもらう。シェニアさんは車に動力を送り、手慣れた操作で車を発進させた。



 

 





 

 
 
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