異世界転移したので動画投稿したいと思います!

間宮 雫

文字の大きさ
2 / 2

第2話

しおりを挟む
 弁当も作り終え森の入り口の前に到着する。見通しはいいし道もある。安全そうだな。……なんかちょっと残念。

「アリサー!カメラの用意はいいかー?」

「はーい!大丈夫ですよー!」

 よし。じゃあまずは挨拶だな。名前はセーヤでいいか。一応色々と考えてはいたのだがイマイチだったからな。アリサにかっこ悪い所は見せられないしビシッと決めないとな。それに自分が楽しまなきゃ見てる人が楽しめるわけがない!

「どうも皆さん初めまして! セーヤです! 実は今僕、異世界に来ているんですよー!!」

 信じてもらえなくたっていい。ただのそういう設定だと思われてもいい。その上で楽しませてやる。

「異世界の素晴らしさを皆に伝えたいと思ってこの動画を撮っています! 僕もこの世界に来たばかりなので素晴らしさとかはよく分からないんですけどね! どうですかこの美しい木々! 空気も美味しくてとても清々しい気持ちになれます!」

 異世界の素晴らしさ。そんなもの来たばかりの僕には分からない。気の利いたコメントも出来ない。
 だけどアリサは笑顔で言ったんだ。この世界を沢山知ってもらいたいと。きっと素晴らしいことが沢山あると思う。
 視聴者と一緒に知って行けばいいだろう。共有は大事だ。

 画面越しにもこの世界の美しさは伝わったのではないかと思う。まだ木と青空しか映ってはいないが、それだけでも充分なくらいに綺麗なところだ。スマホはあっても車とかはないから排気ガスで空気が汚れていたりはしないんだな。大袈裟かと思われるかもしれないが本当に空気が美味しい。

「今日はこの森の先にある湖に行ってみたいと思います! 一人でハイキング? 違います。 異世界に来て何故一人でハイキングしないといけないんですか! そう! 僕にはこの異世界で出会った頼もしい仲間がいるんです!」

 アリサからスマホを受け取り、その可憐な猫耳少女にカメラを向ける。

「アリサです! セーヤさんの妻です! よろしくお願いします!」

 とにかく可愛い。妻とか言ってしまってよかったのだろうか。なんか恨まれそうな気もする。その前にまだ結婚はしてないよね? オーケーはしたけどまだ結婚はしてないよね? 異論はないけど。

 アリサにスマホを返し再度僕にカメラを向けてもらう。

「え、えーと、はい!嫁です! どうですか? 猫耳少女ですよ? コスプレとかじゃないですからね! 本物の猫耳少女です! 異世界ですからね!」

 アリサはキョトンとしている。元の世界には本物の猫耳少女はいないんだよ。と心の中で呟く。

「それでは早速森の中に入って行きましょう!異世界の森ってモンスターとか出てきそうなイメージがあるんですけど実際はどうなんでしょうか?」

「出ますよ」

「え?」

「出ます」

 ……出るんだ。やばい実際に出ると聞くと汗が出てきた。はっ、この気持ちをどうやって伝えれば!

「え、あの、マジすか」

 やべぇぇ!何もコメント浮かばねぇぇ!やばいどうしよ怖いよなんでアリサそんなに平然としてるの?あれでも顔を下に向けながら肩と猫耳がプルプル震えている……やっぱり怖いのかな。こういうのは僕が格好いいところを見せないと!

「まぁ、よよよ余裕ッスよ。 さっきはちょっと動揺しちゃったけど? まぁ、余裕ッス。」

 あー……もう死にたぁい。動画どころじゃない!アリサがずっとプルプルしている。

「クッ……もうダメです……プッ! アハ、アハハハハ! セーヤさん大丈夫ですよ! この森に出るのはスライムだけですから! 産まれたばかりの赤ちゃんでもない限り襲われても死ぬことはないです! ニャハハハ!」

「……」

 無言になるしかなかった。最初に言ってくれよ!怖すぎて自然なリアクションどころじゃなかったよ!



「はい!ということで森の中はずっと木しか映ってなかったのでカットします! 湖に到着でーす!」

「ほんとは怖すぎて湖に着くまでずっと泣いていたのが恥ずかしいんですよね! 可愛いです!」

「ちょ!? 言わないでよ!……ゴホン。 えーこの湖を見てください! とても綺麗で水が透き通ってますよ!こんなの初めて見ました……凄い綺麗ですん!」

 ドボン!!

 後ろから何か押されて僕は湖に落ちた。アリサの笑い声が聞こえる。犯人はあの猫耳少女だと言うのか!?湖があまり深くなくて助かった。湖から顔を出して僕が落ちる前にいた場所を見てみると1匹のスライムがポンポン跳ねていた。

 アイツか。倒そう。

 そう思って僕はスライムに走り出した!また湖に落とされた。スライムが飽きて帰るまでこのやり取りは続いた。

 僕はびしょ濡れになりながら一部始終を撮っていたアリサに近づく。

「アリサぁ……気付いてたなら教えてよ!」

「こちらの方が動画的には美味しいでしょ?」

 アリサ。いつからそんな娘に……嬉しいような悲しいような。

「と、とにかくスライムは追っ払ったしご飯でも食べますか!」

 アリサは笑っていた。

 ここで一旦撮影を中止する。今のうちに着ていたものを乾かしながら昼食にする。言うまでもないがアリサの手作り弁当は美味しかった。

 動画の撮影だけじゃなくデートも楽しんだ。アリサは始終笑顔でいてくれたし、僕ももちろん楽しかった。本当はこの笑顔だけは独り占めしたい。だか彼女と一緒に動画撮っていくのも悪くないだろう。元の世界の人間だって可愛いものは好きなのだ。共有は大事だ。

 撮影を再開しようと思った時には夕方になっていた。その夕焼けはとても綺麗だった。アリサにスマホを持ってもらい撮影を頼む。僕も画面に映り込む。

「昼食も食べて服を乾かしていたらこんな時間になってしまいました! でもこの景色……とても綺麗だとは思いませんか? 異世界に来なければ決して見ることが出来なかった。でもこうやって動画にすれば色々な人この景色を楽しめる。 僕、これからも動画投稿します! 色々なことを皆さんと一緒に楽しみます! 動画に関しても異世界に関してもまだまだ初心者ですが一生懸命頑張りながらも楽しんでいけたらなと思っています! 」

「そうですね……私もセーヤさんと一緒に動画を撮っていてとても楽しかったです。 これからも一緒に仲良く頑張っていきましょうね」

 そう言ってアリサは僕の頬にキスをした。

「フフッ。照れてるセーヤさん可愛いです」

「うっ、これは夕日のせいで……そう!夕日のせいだ!」

 このままだとアリサとの甘い時間が始まりそうだし早目に動画を終わらせないとな。

「この動画を見てくれた人はコメントや評価などよろしくお願いします!」

「よろしくお願いしますね!」

「それでは次の動画お会いしましょう!アリサとセーヤでした!」



 ふぅ、なんとか撮り終えたな。正直上手く出来たとは思えない。だがありのままを伝えられたのかなとは思う。少しでも楽しんでくれる人がいるといいな。アリサに助けられた部分もあったけどなんとかやっていけそうだ。

 ――さぁ、これからも面白い動画を撮れるようにアリサと頑張るぞ!








 今回、誠也が投稿した動画は数日と待たずに世界中に拡散されることになる。再生数は伸び、評価もかなりの量が付き、コメント欄にも沢山の感想などが寄せられる。

 もちろんあれだけリア充をぶちかましていたのだから妬みや嫉妬などもあった。だがしかしイタズラで低評価などを付けるものはいなかった。彼が本心から楽しんでいることが分かったのだろう。

 コメント欄にも動画に対する率直な感想から「ここをもっとこうすればよくなる」といったアドバイスまでしてくれる人もいる。

 彼はあの動画だけで他の大手動画投稿者に並ぶことになる。それは彼が異世界という夢の世界に転移し夢の様な少女との出会いがあったから……それも大きな理由の一つだと思うがそれだけが全てではない。もちろんネタとしてはこれ以上ない環境だろう。

 与えられたチャンスを活かすも殺すも自分次第だということだ。彼が最初に投稿した動画を撮影した時の気持ちを忘れなければ必ず大勢の人を楽しめることが出来るはずだ。

「何となく」ではなく「楽しませたい」と思うことが大事なのだ。笑顔は伝播する。動画でも同じだと思う。楽しそうに動画を撮れば、楽しそうに見てくれる人はきっといる。



 まだ彼の異世界動画投稿生活は始まったばかりだ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...