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しおりを挟む「何んですか、叔母上 」
「リシェさんのお名前を、きちんと教えてちょうだい 」
「だから、先程紹介すると…… 」
「フレデリック! 」
肩を竦めたフレデリックはリシェにだけ分かるように、『大丈夫だよ 』と口だけで形作る。リシェから視線を外さないロズヴィータには、見えていない。
けれど、たったそれだけの、この内緒話のような遣り取りがどれだけ心強くさせるのか。
「こちらが私の妃となる、フェルネのルージェ伯爵の第一女、リシェ・ド・ルージェ嬢です 」
ロズヴィータが目を瞠るのが分かる。リシェは慌ててお辞儀をした。
「そう、貴女が《フェルネの聖女》、リシェ・ド・ルージェ伯爵令嬢 」
「直ぐに、リシェ・ド・グラヴェロットになりますけどね 」
フレデリックを軽く睨むと、ロズヴィータは額に手をやり、ハァと溜息を吐いて頭を振った。
「そうね、そういう事だったの。フレドったら、早馬を寄越したのはいいけれど、『花嫁を連れていく』としか伝えないんですもの 」
「流石、叔母上。話が早くて助かります 」
「貴方は言葉が足りな過ぎるわ。兎に角、詳しい事は中で聞きましょう 」
ポーチの石段を登りながら、「こんな事だったら、城の方へ来てもらうんだったわ 」と言うロズヴィータの声が聞こえる。
どうやら、追い返されることはないらしい。
「ほら、大丈夫だったろう? 」
ホッとしながらも、頭上から飄々としたフレデリックの声がしてムッとした。
「だから、私は一刻も早くブーランジェへ向かおうと言いました! 」
すると、目を丸くしたフレデリックがフッと楽しげに笑った。
「いいね、リシェ。まるで俺達、もう夫婦みたいだな」
「ふっ?! 」
どうして、そんな話になるのか? 斜め上からの発言に、思考がついていかない。
フレデリックに、「どうぞ 」と手を差し出され、誘われるままにその手を取る。
ロズヴィータに続いて、石段を2人で登りながらも、変わらずに整った横顔から視線を外せずにいると、フレデリックがまた笑った。
「何が可笑しいのですか? 」
「だってねぇ、リシェがあんまり俺の事を見るから 」
「私には話が飛躍し過ぎて、意味が分からないのですが? 」
「何?そんなに気になる? 」
「私は怒っているのに、何故そんな風に思うんです? 」
「分からない? 」
「分かりませんわ 」
「君はあの馬鹿王子に婚約破棄された時だって、アイツらに怒りをぶつけたりしなかっただろう? 」
「それは…… 」
言われれば、確かにそうだ。でも、それは相手が王子だったからで、身分を考えれば、怒るなんてしてはいけないことだった。そう教えられてきたのだ。
でも、だったら今は?
「俺に対して怒れるという事は、それだけ心を許し始めてるんじゃないかと思うね。俺にとっては嬉しき事だ」
丁度、石段を登りきったところでそう言うと、フレデリックがリシェの手を思い切り引いた。足がよろけて、全身をフレデリックに預ける形となる。
「……っ!! 」
「 言っただろう? 俺は君が気に入っている。本気で口説くよ 」
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