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しおりを挟む当たり前だ。 ずっと二海人が好きで二海人しか見てない。世の中には、発情期の辛さを収める為に誰とでも寝るΩもいるが、真祝はどんなに辛くてもそういうことは好きな人としかしたくなかった。
だから、駆け引きなんて知らないし、こういう時にどうやって相手をまたその気にさせればいいのかも分からない。さっきまで、キスさえ知らなかったのだから。
当然のことを聞かれ、キョトンとする真祝を見て、二海人がため息を吐く。
「……レが、……して、どうするよ 」
片手で顔を隠して落とす、自嘲的な呟きはハッキリとは聞こえない。 ただ、後悔していることだけは分かって、胸がずくんと痛む。
真祝はすがるように、二海人のシャツの袖を摘まんだ。
「ねぇ、二海人。俺、構わないよ 」
「俺は構う 」
キッパリと返答されて、どうやら、もうこれ以上は流されてくれないらしいと悟る。
こんなにしんどい状態になっても、二海人は自分のことを抱きたくないのだと思ったら、喉の奥が掠れたように痛み始めた。
情けないのは、悲しくて泣き出したいのに、それでも身体があさましく熱を持ったままだということだ。
「……逃げんの? 」
だから、涙を誤魔化して睨みながら恨めし気に言った言葉は、八つ当たりだとの自覚はあった。 驚いたのは、聞き流すと思っていた二海人がその言葉に反応したこと。
普段は何事に置いても冷静な二海人が、僅かに肩を揺らした後、黙ってしまったことに、いつもと違う空気を感じる。
「二海人?」
真祝が思わず名前を呼ぶと、二海人が、自分を落ち着かせるみたいに大きく息を吐き、自分の顔を覆っていた手をゆっくりと外した。
その下から現れたのは、普段は真祝にはあまり見せることのないきつく強い眼差し。
「……いいんだな 」
「えっ…… 」
「本当に身体だけでいいんだな 」
「い、いよ……っ!? いいって、さっきから言ってるっ!」
低く、迫力のある声で確かめるように問われて、どちらが正解なのかも分からずに真祝は焦りながら答えた。
それを聞いた二海人の眼光が、一際鋭くなる。
「俺とお前は、この先、ずっと一緒には居られない 」
「……っ?! 」
「それでもか? 」
「どうして、そんなこと二海人に分かるんだよっ 」
いつも優しい二海人の突き放した物言いに、心臓が切られた気がした。もしかしたら、意趣返しかもしれないと思いつつも、それは二海人の本心だと、次に放った言葉で確信する。
「俺が決めているからだ 」
いつかは振り向いて貰えると、抱いていた僅かな望みも呆気なく砕かれた。
「俺が、男だから? Ωだ、から? 」
二海人は何も言ってくれない。でも、そんなのはどっちでも大した差は無いのかも知れない。
今までの付き合いで嫌という程分かっている。 この頑固な男は、1度自分で決めたことは決して覆さない。
……酷い男だと思った。
こんなに好きだと言っているのに、人の気持ちを知った上で他の相手にしろと言うのも、二海人にとって真祝は何処まで行っても友達であって、それ以上にはなり得ないからだ。
心臓が、どくどくと真っ赤な血を吹き出す。
けれど、酷い男は更に追い討ちを掛けるかのように言った。
「それでもいいなら、楽にしてやるよ 」
怒っていながらも、友達としての真祝を見捨てられない、突き離せない。
想いは無いくせに、同情という名前のもと最大限の譲歩をしてくれようとするから、尚更質が悪い。
しかも、自分はその甘い提案を拒めない。
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