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しおりを挟む暫く泣いて、ようやく落ち着いてきた京香は、薬も体に合ったらしく震えも収まり、先程より顔色も良くなってきた。
真祝は京香に唯一連絡の取れる家族の兄に連絡を取らせて、説明させようとしたが、妹の状況を知っての動揺は酷く、今から直ぐに迎えに行くと言って聞かないようだった。
困ってしまった京香からスマホを受取り真祝が代わって説明をしたが、思い切り不審がられ、兎に角そこに行くと言って聞かない。 初めは丁寧な口調で話していた真祝も呆れて「アンタ、馬鹿か? 」と言ってしまった。
「お兄さんさ、発情期のΩと会ったことないの? ここにαが来ても役に立たないどころか、迷惑なだけ。出来れば発情が収まるまで1週間くらい、どっかに行ってて欲しいけど…… 」
そこまで一気に言って、「いけね」と京香を見て片目を瞑ると、京香も苦笑した。真祝はコホンと1つ咳をして言葉を直す。
「家族ならそうもいかないだろうから、家の中で彼女を隔離させるのが一番いいと思いますよ」
電話の向こう側で唖然としているその人に、京香の部屋に鍵が掛かることを確認する。
「それなら大丈夫ですね。 俺は今の京香さんを電車移動させるのは危ないので、今から自分の車を取ってこようと思っています。家まで送って行きますから、お兄さんは京香さんが部屋に入るまで外出していてください 」
1人でここに置いておくのは心許ないけれど、それが最善策だろう……、心の中で確認した時、 「僕には何も出来ることはないっていうのか…… 」と京香の兄が呟いた。
その絞り出すような声を聞いて、仕方ないとはいえ京香を思う気持ちに真祝も胸が痛くなる。
「いいお兄さんですね 」
真祝がそう言うと、スマホの向こう側から自嘲的なため息が聞こえた。
暫くの沈黙。 その後、ため息の主が話し出す。
「妹を助けて下さってありがとうございます 」
「?!、え……」
突然の礼に、真祝は驚いてしまう。 それに気付いているのか、いないのか、京香の兄が続けて話してきた。
「柚井さんと言われましたよね? 初めてお話する柚井さんに、こんなお願いをするのは大変申し訳ないのですが、妹に、京香に付いていてくださいませんか? 」
「はい、勿論そのつもりですけど…… 」
「いえ、先程車を取りに行って下さるということでしたが、京香が1人になるのは心配なのでこちらで車を用意します 」
「はぁ? 何言って……っ 」
こちらの言っていることがまだ通じていないのかと、真祝が食って掛かろうとすると、その前に「違います 」と制される。
「僕ではなくて、信用のおけるβの者をそちらに迎えに行かせます。柚井さんには申し訳ないのですが、一緒にその車に乗って京香を家まで送って頂けませんか? 」
確かに、αであるこの兄が来ないのであれば、自分が車を取りに行くのよりずっといい。
それならと了承すれば、あからさまに相手がホッとするのが分かった。
……そりゃ、相手にしてみれば、素性の分からない真祝なんかより信用できる人に頼む方が安心だろうけれど。
そう思ったら、少しだけ心がささくれる。
「じゃあ、俺は要らないですね 」
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