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しおりを挟む「あぁ、あぁ、あー……、ひっでぇ車。 びしょんこじゃん 」
がしがしと、先ずは整った綺麗な顔を拭いてやる。
「うわっ、ぷ! 真祝さん! 」
「ハハッ、こうなったら折角の二枚目も台無しな 」
背伸びして頭も拭いてやれば、間近になった央翔の瞳が見開かれた。
見つめる視線が刺さる。
どくんと跳ねる心臓。
気付かない振りをして拭き続けたけれど、じっと自分を見ているのが分かる。
「……これ、早く何とかしないと染みになるんじゃ 」
視線の痛みに耐え兼ねて、踵を下ろし、スーツの濡れたところを拭こうと屈むと央翔に腕を掴まれた。
そのまま、引き上げられて正面を向かされる。
「な、何……」
「真祝さん 」
真剣な想いを孕んだ瞳と、掠れた声。
受け止めきれなくて目を逸らすと、もう1度、名前を呼ばれた。
「真祝さん 」
駄目だ、そんな目で見るな。そんな声で呼ぶな。
「え、あ……、ふざけて悪い。ごめんな、俺の為にこんなんなったんだもんな 」
「真祝さん 」
話を逸らすのを許さないとでも言うように、腕を掴む力が強くなる。
「……痛って、おい! 」
「真祝さん……っ 」
「……っ?! 」
突然に抱き締められて、持っていたタオルが水溜まりに落ちた。白いタオルが、雨水に染まってゆく。
「おまっ、タオルが!」
反射的に拾おうとするけれど、背中で交差するように回された長い腕はほどけない。
央翔の肩越しに、通行人がこちらをじろじろと見ながら過ぎて行くのが見えて、かぁっと頬が熱くなった。
「おい、久我。 皆、見てるから…… 」
「構わない 」
真祝の肩口に顔を埋めた央翔が、「お願い…… 」と震える声で囁いた。
「真祝さん、俺の番になってよ 」
一瞬、何を言われたか分からなかった。
「え……? 」
言われた言葉を、頭の中でゆっくりと反芻する。
けれど言われた意味を理解した途端、ぶわっと全身の体温が上がるのを感じた。
いつも央翔には《運命の番》だとは言われるが、実際に《番》になるということはまた意味合いが違う。
俺が? 番? コイツと?
「な、何、言ってんだよ。」
こんなの、プロポーズじゃないか!
身体を捩れば、逃がさないと言うかのように抱きすくめられた。
「ふざけるのも……っ 」
「ふざけてなんか、ないっ! 」
強い口調にビクッと身体が震える。 それに気付いた央翔が、ハッとしたのが分かった。
「……ごめん 」小さな声で謝ってくる。そして、その後に掠れたあまい声で囁かれる。
「ねぇ、好きだよ。僕と結婚して下さい。……真祝さんの全部を、僕に頂戴。」
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