月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【本編完結。アナザーストーリー連載中★】

山葵トロ

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 「あぁ、あぁ、あー……、ひっでぇ車。 びしょんこじゃん 」

 がしがしと、先ずは整った綺麗な顔を拭いてやる。


 「うわっ、ぷ! 真祝さん! 」

 「ハハッ、こうなったら折角の二枚目も台無しな 」


 背伸びして頭も拭いてやれば、間近になった央翔の瞳が見開かれた。
 
 見つめる視線が刺さる。 

 どくんと跳ねる心臓。

 気付かない振りをして拭き続けたけれど、じっと自分を見ているのが分かる。


 「……これ、早く何とかしないと染みになるんじゃ 」

 視線の痛みに耐え兼ねて、踵を下ろし、スーツの濡れたところを拭こうと屈むと央翔に腕を掴まれた。
 そのまま、引き上げられて正面を向かされる。


 「な、何……」

 「真祝さん 」

 真剣な想いを孕んだ瞳と、掠れた声。
 受け止めきれなくて目を逸らすと、もう1度、名前を呼ばれた。

 「真祝さん 」


 駄目だ、そんな目で見るな。そんな声で呼ぶな。

 「え、あ……、ふざけて悪い。ごめんな、俺の為にこんなんなったんだもんな 」

 「真祝さん 」


  話を逸らすのを許さないとでも言うように、腕を掴む力が強くなる。


 「……痛って、おい! 」

 「真祝さん……っ 」

 「……っ?! 」


 突然に抱き締められて、持っていたタオルが水溜まりに落ちた。白いタオルが、雨水に染まってゆく。


 「おまっ、タオルが!」

 反射的に拾おうとするけれど、背中で交差するように回された長い腕はほどけない。
 央翔の肩越しに、通行人がこちらをじろじろと見ながら過ぎて行くのが見えて、かぁっと頬が熱くなった。


 「おい、久我。 皆、見てるから…… 」

 「構わない 」

 真祝の肩口に顔を埋めた央翔が、「お願い…… 」と震える声で囁いた。


 「真祝さん、俺のつがいになってよ 」


 一瞬、何を言われたか分からなかった。


 「え……? 」

 言われた言葉を、頭の中でゆっくりと反芻する。

 けれど言われた意味を理解した途端、ぶわっと全身の体温が上がるのを感じた。
 いつも央翔には《運命の番》だとは言われるが、実際に《番》になるということはまた意味合いが違う。


 俺が? 番? コイツと?


 「な、何、言ってんだよ。」

 こんなの、プロポーズじゃないか!


 身体を捩れば、逃がさないと言うかのように抱きすくめられた。


 「ふざけるのも……っ 」

 「ふざけてなんか、ないっ! 」

 強い口調にビクッと身体が震える。 それに気付いた央翔が、ハッとしたのが分かった。

 「……ごめん 」小さな声で謝ってくる。そして、その後に掠れたあまい声で囁かれる。


 「ねぇ、好きだよ。僕と結婚して下さい。……真祝さんの全部を、僕に頂戴。」




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