月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【本編完結。アナザーストーリー連載中★】

山葵トロ

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 自分で自分の言ったことにビックリする。二海人も、透明なレンズの奥で瞳を見開いている。

 「いや、随分と雰囲気変わったからっ。もしか、しなくても、そのコに合わせたのか、と…… 」

 言えば言う程、墓穴を掘っているのを自覚する。そして同時に、自分の本当に知りたかったのはそれなのかと愕然とした。
 京香のためとか思っていた自分が恥ずかしい。俺はこんなにも偽善的で、自分のことしか考えていない。


 「え、あ、何言って……、俺。ごめん 」

 焦る真祝を見ながら、何故だか二海人が楽しそうにこっちを見ていた。


 「何だよ 」

 「……大丈夫か? お前、顔赤いぞ? 」

 「この部屋、暑いんだよ。ほっとけ 」


 ぷいっと横を向けば、クックッと二海人が笑う。


 「まぁな、付き合ってはいないけど、大事なコならいるよ 」

 ギシ……と、胸が軋む音がした。


 「付き合ってないのに大事なの? 彼女じゃないのに、大事なのか?」

 すると、ふむ……と、二海人が何かを考えるように顎に手をやった。

 「……お前さ、さっきから、彼女、彼女って、あの坊っちゃんから聞いた? 」

 小さなため息と指摘が、央翔を責めているようで、告げ口をばらした気になってしまう。
 心の咎めを誤魔化すように、真祝は、その言葉を突っぱねた。

 「そんなん、どうでもいいだろ! 俺が聞いてんだから! 」


 二海人が、『まぁ、いいけど 』と、呆れた口調で肩を竦める。

 「そうだな、大事だよ。少なくとも自分よりかは 」

 「……っ!? 」


 声色を変えた挑むような言い方に、そんなにも想うコがいただなんて、真祝はショックを受ける。
 真祝が想いをぶつけている間も、ずっと真剣にそのコのことが好きだったのかも知れない。それなら自分の想いなんて、鬱陶しかったに決まってる。遠ざけたくなったって、仕方がない。


 「ごめん、二海人。いつからなの? 」

 「ん? 」

 「 誰? 俺の知ってるコ? 」

 立て続けに質問をぶつけたら、「久し振りに会って、酔ってもいねぇのにコイバナかよ、容赦ねぇな 」と大きな手に頭をくしゃっと撫でられた。それだけで、ほわっと胸の奥が熱くなる。

 「一目惚れだったよ。出逢った時から、馬鹿みたいにソイツだけだ。表情がくるくると変わって、見ていて飽きなくて、可愛くて堪らない。ソイツのためなら、何でもしてやりたい 」

 淡々と語る情熱な言葉に、泣きたくなってしまう。聞きたいけど、聞きたくない。 知りたいけど、知りたくなんかなかった。


 「けどそれだけ好きなのに、付き合ってないってどういうことだよ。ちゃんと自分の気持ち、伝えたのかよ 」

 「お前、俺がフラれたってことは考えないの? 」

 二海人を拒む人間が、この世に居るとは到底思えない。だけど真祝は、苦笑する二海人に念のため聞いてみた。


 「フラれたの?」

 「……言ってない 」

 「やっぱり……。何で? 好きなんだろ! 」

 「好きだよ。けど、好きよりもっとだ。愛してるでも足りない。だから、言えない 」

 「はっ? そんなに好きなのに、言えないってことあるかよ!」

 すると二海人は、ふっと瞳を細め、思い出した様にボトムのポケットを探って、入れていた加熱式煙草を「いい? 」と掲げる。真祝が頷くと、ドア部分をカチリと開き、マットゴールドのホルダーを取り出しながら言った。


 「何でもしてやりたいって言ったろ? 自分がそのコのためにならないって分かってるのに、気持ちなんて伝えられない 」

 節の長い綺麗な指が、ホルダーを口元へ運ぶ。二海人が煙草を吸っているところなんて、真祝は見たことが無かった。


 「煙草、吸ってんだ…… 」

 「そうだな。少し、気分を変えたかったんだ。切り替えたかった。もう無理して格好付ける必要も無いしな 」


 そう言って、旨そうに煙を吐き出す。
 


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