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井ノ上

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花蕾は仲春に燃ゆ

本庄舞依 2

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転校する高校へ挨拶に行った。
新しい生徒手帳を受け取り、職員室を出ると、舞依は思わぬ二人と出くわした。
一人は、昨年の後夜祭で、舞依と大吉が一緒に居るのを見て走り去っていった女子生徒だ。
森宮春香という名だった。
春香は、束早という、大吉の妹を連れていた。束早の方は私服で、舞依と同じ来客札を首にかけている。
話してみると、すぐに打ち解けた。
束早は、今年からこの高校に通うらしい。それで春香は、春休みの間に、束早に校内を案内しようと連れてきたのだという。
二人と学校を見て回るのは、楽しそうだと思った。舞依がうずうずしていると、春香の方から誘ってくれた。
三人で、校内を回った。
春休みでも、部活動のため登校している生徒はちらほらといた。
楽しそうだと思うと、舞依の足はすぐそちらに向いてしまう。なにかするのに、あまり物怖じした経験はない。
軽音部、書道部、ダンス部、体育館ではバスケ部に混じり、1 on 1ワンオンワンをさせてもらった。
春香と束早を振り回していたが、二人は少しも嫌な顔をしなかった。
「舞依ちゃんが運動神経いいのはテレビで知ってたけど、ギターも弾けたんだね。書道まで上手なのは、びっくりしちゃった」
校舎脇の道を歩るいていると、春香が言った。運動部が活動している校庭の方は賑やかだが、この辺りは落ち着いた雰囲気だった。
「書道は慶くんに教えてもらったんだ」
「慶くん?」
「舞依の叔父さんなの。いーっぱい色んなこと知ってて、仕事のこととか、よく相談に乗ってもらったりするんだ」
「頼りになる人なんだね」
「でも、この前相談しに行った時は、いじわるだったの」
「その相談って、この高校に転校してきたことと、もしかして関係あるのかな?」
春香が遠慮がちに訊く。
舞依は指で摘むような仕草を交えて、ちょっとね、と答えた。
「お母さんは、舞依がテレビに出てるのを見るのが、楽しみみたいなの。マネージャーもね、いまが大切な時期だって、どんどん仕事を持ってきたくれるんだ。それは楽しいしんだけど、なんか違うな、って思うようになったの。そしたら、仕事に集中できなくなっちゃって」
「違う、って?」
「む~、それがよくわからないから困ってたの。なのに慶くん、自分で考えた方がいい、って突き放すし。今までは、どんなことでも、どうしたらいいか教えてくれたのに」
「そうなんだ」
「それで、時間が欲しくなって、仕事を減らすことにしたの。そうしたら、お母さんが、どうせなら環境も変えてみたらって勧めてくれて。それで、ならこの高校に通いたいなって思って、転校してきちゃった」
「行動力がすごいなぁ」
春香が目をぱちくりさせる。
「舞依は、春香の方がすごいって思うけどな」
「え?」
「春香って、よく人を見てるでしょ。さっき体育館で、たくさんのボールを運ぶの大変そうにしてた一年生にすぐ気づいて、手伝ってたでしょ。その前にも、花壇で困ってた園芸部の子に気づいて、話しかけてたし。ね、束早、春香っていつもこうなの?」
「ええ。子どもの頃からずっと」
「やっぱり、春香の方がすごいの。なんか、大吉が春香を選んだのもわかる気がするな」
後夜祭でのことは、舞依の心にひっかかってはいた。
けれど、杞憂だった。
舞依が後夜祭で勘違いさせたことを謝ると、春香は気恥ずかしそうにしつつも、大吉と男女交際てしいるのだと話してくれた。
安堵する一方で、一抹の淋しさも感じた。
春香と大吉は、幼馴染らしい。もし自分がそうだったら、大吉に選んでもらえたのか。
そんな想像は、ないものねだりでしかない。
ひっそりとした茂みの前を歩いていくと、分かれ道に差しかかった。
左に行くと、裏門のようだ。右の雑木林の奥に、建物の屋根が見える。
春香に訊くと、武道場がある、と教えてくれた。
行ってみたい、と思った。
春香と束早の手を引いた。
舞依の足は、すでに武道場に向かっていた。

学校に行こうとすると、アサリも付いてこようとした。必要ないと言っても、聞き入れてはもらえなかった。
「私は外で警戒している」
武道場の前で、アサリが立ち止まる。
大吉は一人で、道場に入った。靴を脱ぎ、下足箱の位置を手で探る。
道場の匂い。久しぶりだった。
ここへ来たのは、身体を動かしたくなったからだ。
このところ、じっと考えることが多かった。
休日に出かけても、瑞希やアレッシオたちと、御三家に対する戦略を話し合ってばかりいた。
三学期の途中から、平日はできる限り学校に通った。
学校には、体育の時間がある。しかし、失明している大吉は配慮され、休んでいた間の出席を補う補習授業が用意されていた。
それで身体を動かす機会がなかったのだ。
上り框を跨ぎ、大吉が道場の扉に手をかけると、中で話し声がした。
「ね、春香、優しくね。痛くしたらヤなの」
「え、でも、私もはじめてだから、上手にできるかな」
「少し怖くなってきちゃった」
「えぇ、舞依ちゃんがやりたいって言ったのに」
「それなら、本庄さんから攻めて、春香が受けたら?」
「束早。そうだね、舞依ちゃん、そうしようよ」
大吉は、扉に手をかけたまま固まった。
中で、なにをしているんだ。
確かめたいような、確かめるのが怖いような、よくわからない気持ちになった。隙間を空けて覗こうにも、目は見えないのだ。
「大吉、待て」
大吉が躊躇っていると、アサリの声がした。
「中に人の気配がする。刺客の待ち伏せかもしれん、下がれ」
「わ、ばか」
外で警戒に当たっていたはずのアサリが、飛び込んできて、道場の扉をばっと開け放つ。
「わっ、びっくりした。アサリさんに、大吉?」
「春香、その、なにしてるんだ」
「剣道だけど? 授業で使う防具とか借りて。でも、竹刀って持つのもはじめてだから、結構緊張しちゃって」
大吉は、溜息をついた。
「大吉! 会いたかったの!」
舞依の声。なぜ舞依がここにいるのか。
春香が説明してくれていると、懐に、なにかがぶつかってきた。シャツ越しに、体温が伝わってくる。束早の匂いがした。
「大吉、ごめんなさい」
束早がなにを謝っているのかは、なんとなくわかった。
カムリとの戦闘で、天逆毎の力を暴走させた。その時のことは、おぼろげな記憶しかなく、後になって概ね秋久から聞いていた。
「いや。むしろ、辛い思いをさせてすまなかった」
大貝丘の運営にかまけて、束早を気にかけてやれなかった。母を失ったのは、束早も同じだった。春香といれば平気だと、思いこもうとしていた。
束早はずっと、大吉に刃を突き立てたことを、気にしていたのだ。
「ありがとな、束早。おかげで俺は、春香を傷つけないで済んだ」
束早の肩。かすかに震えていた。
大吉が片腕で抱き寄せると、その震えが止まった。
「ねぇ、春香、二人ともなんの話をしてるの?」
舞依に小声で訊かれ、困る春香の顔が、脳裏に浮かんだ。
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