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君のための新食感
【SIDE テレコ】尻尾
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テレコは諜報院から報告書を受け取った。
それによれば、確かにセントラル・バルから灼熱酒場に移った多くの冒険者が粉状の何かを受け取ったことがきっかけらしい。
その粉は『香味アジノ乇卜』と呼ばれ、セントラル・バルの料理に振りかけて摂取するとのことだ。実際それを口にすると、舌から恐ろしいほどの快感がほとばしり、意識を保つのが難しいほどの絶頂に至るという。
これは明らかに魔法薬を使用していると思われる。セントラル・バルのオーナーの話は正しかったのだ。
魔法薬の使用が認められれば、その時点で取り締まることは可能。ただし、単に営業を停止させるだけでは不十分だ。
そこで行われているサラサ・グリムブラッド・ガブリエラのパーティメンバー集め。
もし本当にサラサが勇者を目指しているのだとすれば。
確実に潰すために、再起不能にまで評判を落とさなければ。
だからこそ、テレコは王女である自ら乗り込んで裁定を下すことにした。
諜報院の報告では、サラサはただの店の給仕のようだった。それでも、テレコが実際に見ればまた別の光景があるだろう。
セントラル・バル付近から客を吸い上げる導線をすべて自分自身で確かめ、サラサの強固な関わりを見つけ出す。そして完膚なきまでに断罪し、その名声を亡きものとするのである。
◆ ◆ ◆
今現在も、日々灼熱酒場の従業員がセントラル・バルの周りで営業活動を行っているとのことだ。
サラサのパーティメンバーは前衛を求めているので、テレコは大剣を担いで真新しいリネン地の服を纏い、いかにも新人剣使いといった変装でギルドからセントラル・バルに向かって歩いた。強者に見せるため、多少の殺気を漏らすことも忘れない。
それは、すぐに成果に繋がった。
フードを被った男がテレコの方へ近づいてきた。
「お嬢さんは、冒険者ですか?」
あっさりと掛かった!
テレコは興奮しながらも、それを必死に堪えた。
相手の顔はフードで隠れていてよく見えない。細身でやや猫背。喋り方こそ歯切れは良いが、少し頼りない印象の男。
「これから食事? ああいや、ナンパってわけじゃないんだけど」
テレコはなぜか、強烈な違和感を覚えた。
違和感の源泉はなんだろう、と辿り、それは声なのではないかと思い至る。
そしてフードの奥の男の表情が微かに見えた。
「……え——嘘でしょ?」
「い、いや! 本当だよ、決してナンパなんかじゃないよ!」
目の前で意味不明に慌てふためく男のことを、テレコは知っていた。
転生戦士——シロだ。
テレコが自らの魔法でこの世界に呼び寄せた貧弱で雑魚スキルのハズレ冒険者。
ロードウルフの森で処分したはずの人間廃棄物。
しかし彼はどこかで生きていることが判明し、そして目の前に現れるだなんて!
「セントラル・バルにはよく行くの? あそこの肉はシンプルで美味しいけどさ、もっと良い食べ方があるのはもちろん知ってるよね?」
ヘラヘラした表情で呑気に何かを喋っているシロを、テレコは信じられなかった。戦士の放つ魔力や闘気の結晶であるオーラが見えるわけでもなし、運動能力の高い肉体であるわけでもなし。
だからこそ、この男が生きているはずがない。
もし生きているとすれば。
「あなたは、とても幸運な方なのかしら?」
「…………あ、ああ。そうかな? そうかも」
何やら照れ笑いを浮かべながら、シロは頬を掻いた。
「よくわかるね」
「ええ。私には鑑定の目がございますので」
「ただの剣士じゃないってわけか」
テレコはそこで自分が剣士のふりをしていたのを思い出したが、過ぎたことだと諦め鑑定士として話を進める。
「……何か、命の危機を脱した経験がおありですか?」
「あはは。そうなんだ。ついこの前、魔物の山から女の子に救われてね。その子と一緒にいまは働いているんだ」
ヘラヘラと嬉しそうに、シロは言った。
それにしても、魔物の山でシロを救った女の子と一緒に働いている?
「その子の名前は、サラサ・グリムブラッド・ガブリエラですか?」
「……知ってるの?」
繋がった。
同時に、戦慄した。
——サラサはこのお荷物を抱え、ロードウルフの森から脱出したの?
舞踏会で見た頼りないサラサ。
渦のような才能を内に秘めながら、一切の闘気を見せなかった深層の令嬢。
それが今、冒険者として花開こうとしているとすれば。
勇者に届きうる可能性を、自身に見出しているとすれば。
どくん、と心臓が跳ね、そしていつもの言葉がテレコの頭に響く。
——手段を選んではいけないよ。君が世界を救うんだよ
「ええ、昔お目にかかったことが」
「そうなんだ! 彼女は貴族だと言ってたし、有名なのかな。そのうち紹介したいところだけど、まずはお近づきの印に」
シロはなにやら小袋を取り出し、テレコに握らせた。
「これは香味アジノ乇卜っていうんだ。よかったら、セントラル・バルの食事にかけてみてよ」
シロはくしゃりと笑った。
それは無邪気にも邪悪にも見えた。
そしていま、テレコはサラサを破滅させるチャンスを得ていた。この目の前の、得体のしれない男を媒介にして。
「シロ、あたしが誰だかわかる?」
テレコは変装を解く。
シロは目を見開き、それに気がついた。
「——え!? テレコ?」
「そう! やっとあんたを処分できるわ!」
それによれば、確かにセントラル・バルから灼熱酒場に移った多くの冒険者が粉状の何かを受け取ったことがきっかけらしい。
その粉は『香味アジノ乇卜』と呼ばれ、セントラル・バルの料理に振りかけて摂取するとのことだ。実際それを口にすると、舌から恐ろしいほどの快感がほとばしり、意識を保つのが難しいほどの絶頂に至るという。
これは明らかに魔法薬を使用していると思われる。セントラル・バルのオーナーの話は正しかったのだ。
魔法薬の使用が認められれば、その時点で取り締まることは可能。ただし、単に営業を停止させるだけでは不十分だ。
そこで行われているサラサ・グリムブラッド・ガブリエラのパーティメンバー集め。
もし本当にサラサが勇者を目指しているのだとすれば。
確実に潰すために、再起不能にまで評判を落とさなければ。
だからこそ、テレコは王女である自ら乗り込んで裁定を下すことにした。
諜報院の報告では、サラサはただの店の給仕のようだった。それでも、テレコが実際に見ればまた別の光景があるだろう。
セントラル・バル付近から客を吸い上げる導線をすべて自分自身で確かめ、サラサの強固な関わりを見つけ出す。そして完膚なきまでに断罪し、その名声を亡きものとするのである。
◆ ◆ ◆
今現在も、日々灼熱酒場の従業員がセントラル・バルの周りで営業活動を行っているとのことだ。
サラサのパーティメンバーは前衛を求めているので、テレコは大剣を担いで真新しいリネン地の服を纏い、いかにも新人剣使いといった変装でギルドからセントラル・バルに向かって歩いた。強者に見せるため、多少の殺気を漏らすことも忘れない。
それは、すぐに成果に繋がった。
フードを被った男がテレコの方へ近づいてきた。
「お嬢さんは、冒険者ですか?」
あっさりと掛かった!
テレコは興奮しながらも、それを必死に堪えた。
相手の顔はフードで隠れていてよく見えない。細身でやや猫背。喋り方こそ歯切れは良いが、少し頼りない印象の男。
「これから食事? ああいや、ナンパってわけじゃないんだけど」
テレコはなぜか、強烈な違和感を覚えた。
違和感の源泉はなんだろう、と辿り、それは声なのではないかと思い至る。
そしてフードの奥の男の表情が微かに見えた。
「……え——嘘でしょ?」
「い、いや! 本当だよ、決してナンパなんかじゃないよ!」
目の前で意味不明に慌てふためく男のことを、テレコは知っていた。
転生戦士——シロだ。
テレコが自らの魔法でこの世界に呼び寄せた貧弱で雑魚スキルのハズレ冒険者。
ロードウルフの森で処分したはずの人間廃棄物。
しかし彼はどこかで生きていることが判明し、そして目の前に現れるだなんて!
「セントラル・バルにはよく行くの? あそこの肉はシンプルで美味しいけどさ、もっと良い食べ方があるのはもちろん知ってるよね?」
ヘラヘラした表情で呑気に何かを喋っているシロを、テレコは信じられなかった。戦士の放つ魔力や闘気の結晶であるオーラが見えるわけでもなし、運動能力の高い肉体であるわけでもなし。
だからこそ、この男が生きているはずがない。
もし生きているとすれば。
「あなたは、とても幸運な方なのかしら?」
「…………あ、ああ。そうかな? そうかも」
何やら照れ笑いを浮かべながら、シロは頬を掻いた。
「よくわかるね」
「ええ。私には鑑定の目がございますので」
「ただの剣士じゃないってわけか」
テレコはそこで自分が剣士のふりをしていたのを思い出したが、過ぎたことだと諦め鑑定士として話を進める。
「……何か、命の危機を脱した経験がおありですか?」
「あはは。そうなんだ。ついこの前、魔物の山から女の子に救われてね。その子と一緒にいまは働いているんだ」
ヘラヘラと嬉しそうに、シロは言った。
それにしても、魔物の山でシロを救った女の子と一緒に働いている?
「その子の名前は、サラサ・グリムブラッド・ガブリエラですか?」
「……知ってるの?」
繋がった。
同時に、戦慄した。
——サラサはこのお荷物を抱え、ロードウルフの森から脱出したの?
舞踏会で見た頼りないサラサ。
渦のような才能を内に秘めながら、一切の闘気を見せなかった深層の令嬢。
それが今、冒険者として花開こうとしているとすれば。
勇者に届きうる可能性を、自身に見出しているとすれば。
どくん、と心臓が跳ね、そしていつもの言葉がテレコの頭に響く。
——手段を選んではいけないよ。君が世界を救うんだよ
「ええ、昔お目にかかったことが」
「そうなんだ! 彼女は貴族だと言ってたし、有名なのかな。そのうち紹介したいところだけど、まずはお近づきの印に」
シロはなにやら小袋を取り出し、テレコに握らせた。
「これは香味アジノ乇卜っていうんだ。よかったら、セントラル・バルの食事にかけてみてよ」
シロはくしゃりと笑った。
それは無邪気にも邪悪にも見えた。
そしていま、テレコはサラサを破滅させるチャンスを得ていた。この目の前の、得体のしれない男を媒介にして。
「シロ、あたしが誰だかわかる?」
テレコは変装を解く。
シロは目を見開き、それに気がついた。
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