水魚の交わり~Love only on the surface~

すず×あん

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1章

1話 (あんぱん)


人から向けられる好奇の目は、嫌いだ。
通い慣れた通学路を一人歩いていると、必ずどこからともなく声が聞こえてくる。

「あの子のお姉さん、自殺したんだって」

そんなこと、私が一番理解しているよと唇を噛みながら、ただ歩を進める。あの葬儀から2週間。私はなぜ姉が自殺という道を選んだのか必死に考えていた。なにか彼女をひどく傷つける出来事があったのではないか、と。しかし、どれほど考えても答えは出なかったのだ。だって姉は、私には何ひとつとして弱音を吐かない人だったから。それが姉の、美点でもあり汚点だ。


「.............お姉ちゃん」

学校から少し離れた桜並木。姉はこの場所が好きだった。いつも春が近づくと、まだ咲かないかと楽しみにしていたのだ。姉は満開になった桜を見ることは、二度とない。あれ程までに楽しみにしていたはずなのに、.......姉の恋人、平沢湊士と一緒に花見をすることを心待ちにしていたはずなのに、どうして自殺なんてしてしまったの。釈然としない表情で私は足早に並木を離れた。







好奇の目は、教室に入っても変わらなかった。いや、むしろ居心地が悪い。変に気を使われ、敢えて話題に触れようとしないのが私の機嫌を悪くする。それが優しさだと分かっていても、だ。この頃やはり余裕というものを失っている気がする。それは、もちろん姉の死に関係しているのだが、.......私自身、それだけでは無いと感じている。



平沢湊士の存在だ。
もしかすると、私よりも姉の死を悲しんでいたのかもしれない。彼はとても姉が好きだったから。葬儀中の取り乱し方は異常だった。けれどそれを、誰も責めることが出来ない。


「..............」

平沢湊士は、葬式場から退場する間際、私をたしかに一瞥したのだ。その表情は、脳裏に浮かんでくる。顔を青白くし、生気のこもらない瞳でこちらをただただ見詰め、私に何を言うでもなく彼は踵を返した。


.............本当は駆け寄って抱き締めたかった、といえば姉はどんな顔をするだろう。実姉の、しかも故人である姉の恋人に手を出すなんて最低だと罵られるかな。嗚呼いや、姉は優しいからきっと何も言えない。私はそれを知っていて、平沢湊士に懸想する。

これが傷の舐め合いだとしても、もうどうしようもなかった。希望の残滓は、何処にもない。
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