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1章
4話(あんぱん)
しおりを挟む無い体力を使い切って辿り着いた先は、平沢湊士の教室だった。ほんの少し涙が零れたため、泣いたことがバレると思ったが、走り去っている時の風で乾いてしまったらしい。それを指摘されることは無かった。
「.......あ、.......千里の、妹ちゃん」
勢いで来てしまった為、教室前で立ち往生してしまった。そこに、いつか見た姉の友人である生徒が声を掛けてくる。その顔はとても悲壮感に満ちていた。
「えっ…と…」
「わざわざこんな所まで…どうしたの?」
優しく問う先輩に、私は無意識に背筋をぴんと伸ばした。
そうして、二、三度目を彷徨らせたあと、小さく答えた。
「平沢…平沢湊士先輩は、来てますか」
先輩は目を少し見張って、ゆっくり首を振る。
その動作に、私の目にはまた涙が込み上げてきた。それを必死に抑えて、続く先輩の言葉を聞く。
「湊士ね、もうずっと来てないんだ。そりゃそうだよね…大好きだった千里があんなことになったんだもん…あ、…ごめんね、.......そういう訳だから、多分…まだ来ないんじゃないかな…」
申し訳なさそうに言った先輩に向かって、私は震える声で「そうですか。ありがとうございます」と返した。
頭は妙に冴えている。しかし、私は全身に走る震えを堪えることは出来なかった。
だとすれば、することはひとつしかない。
平沢湊士の家は知っている。
私はそこへ向かうことにした。
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