海棠睡未だ足らず〜Più forte del sangue〜

1話(あんぱん)

にゃあん、と小さく黒猫が鳴いた。
 


チクリ、と首筋に痛みが走ったが、私にとってはそんなもの造作もない。当の本人は満足そうにニヤリと笑っているが、その笑顔は妙に腹が立った。

「.......はあ.......」

小さくため息をついて指を鳴らす。
すると、男は身動きが取れなくなったようで、まるで人形のように固まった。それでも意思疎通はできないと困るので、顔の拘束だけは解く。

「.......え？.......え、は？お前、.......人間じゃ.......」
「誰もそんなこと言ってないわ。随分警戒心の甘い吸血鬼だこと」 

男.............恐らく、吸血鬼だろう。年齢は、3000歳ほどと見た。吸血鬼は青い顔をさらに青くして、私に問うた。
か弱そうな人間に化けた私を見てすぐにでも血を吸えると勘違いしたのだろう。.......まあ、少し油断していたせいで、牙を立てられてしまったのだけれど。




にゃあん、私の後ろから猫が二匹現れた。この子達は私の使い魔だ。黒猫のネロ、そして白猫のビアンコ。ネロの方は男が嫌いなためか、吸血鬼を威嚇していた。