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1話(あんぱん)
しおりを挟む地下の床はとても冷たい。
叩かれたあとの熱を冷ますのに十分な冷たさだった。
この村は、おかしい。村の安寧のためにとまだ20歳にもなっていないただの女を生贄として捧げる。その風習はもう何百年と前から続いていたようだが、結果ここまで過疎が進んでしまったのだ。あまり意味が無いのは明白だった。
「.......痛、.......」
捻った足と、叩かれた腕が酷く傷んで、中々入眠できないそんな夜だった。月明かりが私の目に映り、その美しさに涙が一筋流れる。私も月のように美しく、強くあれたら良かったのに。そうすれば何事にも動じず、恐れを成さず、たった一人で生きていくことを決意できたのに。
私はここまで酷い仕打ちを受けていながら、まだ両親が私の名前を呼んで愛してくれると期待しているのだ。
「..............お狐様.......」
私が生贄として嫁ぐ先は、白狐の神だと聞いている。
ここから随分と離れた山奥。神は住んでいるのだと。
このまま決められた人生を歩んで、決められた日に生贄に出されて、双子の妹は私を侮蔑の目で睨みながら幸せになる。そんなことが許されるのか、それを許していいのか。
「わたしも.......」
私も幸せになりたかった。
いや、今でも、そうだ。幸せになりたい。もしもこの世のどこかに私に情けをかけてくれる方がいらっしゃるのなら、どうか私を.......。
そこまで思って唇を強く噛んだ。
何かを始めるには、…いや、何かを終わらせるには自ら動かなくてはならない。誰かを待つのは、もうやめだ。
痛む足を引き摺りながら、私は窓に手をかける。
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