日焼け防止魔法を吸血鬼姫様のために

黄崎うい

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1章 アマリリス姫様

10話 授業-1

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「わかった。窓側の一番前空いてる? 」

「空いてますよ。あれ? ケイジュ君はおやすみ? 午後テストがあるけど……」

 日が当たってポカポカとする窓際で目が見えなくてもなんとかなる窓側の一番前は席が決まっていないこの教室でもツユの指定席になっている。ちなみにその隣はケイジュだ。

 ツユの横にも前にも後ろにもいないケイジュを目でよく探してからローメリックはツユに尋ねた。

「ええ。何か用事があるみたいで午後には来るって言ってた」

「そう。ならいいですけど……黒板見えます? 」

 席と教卓の間を堂々とテクテク歩きながら答えるツユを心配そうな笑顔で見ながらローメリックが聞いた。

「見えない」

「はは~、今日はお話だけでできる授業にしますか」

 単調に答えたツユに苦笑いを浮かべながらローメリックが今日の授業の内容を決めた。

「偉そう」
「流石サイレゴシェル様(笑)」
「やっぱり横暴吸血鬼様は私らとは違いますわ」
「あれ家の婆ちゃんより年寄りらしいぞ」

 ツユの態度が気にくわない生徒の一部はいつも通り一番後ろの席でコソコソコソコソ話している。かなりボソボソと話しているからツユはよく聞こえていないが、ローメリックにはよく聞こえている。ツユが気にしていないので強くは言わないが、内容がただの侮辱になったときに魔法も使ってキツく叱ったことがあるので、しばらくニッコリと見つめていれば黙ってくれるから助かる。

「さて、ホームルームを始めるから少し黙りましょうねぇ」

「……」

 普段どんなにおっとり優しく穏やかに見えてもローメリックは七十年以上教師を勤めている。人間が多いこの職業では大ベテランだ。ここにいるのは五十年も生きていない子供ばかりでそれを黙らせるなんてローメリックには簡単だ。

「そうね。今日の午前は九十六年前の革命のお話をしましょうか。だけど午後は事前に予告していた通りテストをしますから、勉強しておいてくださいね」

 それだけ伝えて黒板に大きめの文字で『自習』と書くと、ローメリックは教室から出ていった。扉が閉められると、緊張の糸が切れたように生徒が少しずつ話し始めた。

「あ、あの、ツユ様」

「うん? 何? 」

 ツユが少し寝ようかと机に手を置き、そこに頭をのせようとすると、斜め後ろから机に体重をかけて前に乗り出している少女が話しかけてきた。まだたった十歳の人間の子供だ。

「私前に座ってもいいですか? 」

「いいよ。あとツユって呼んでよ、貴女いつも話しかけてくれるし。えーっと……」

 明るい笑顔で少女はツユの隣に座った。

「サクラです、ツユ様」

 名前通りの淡い桜色の髪をポニーテールを揺らして笑顔でツユに教えた。呼び方がまだ様付けのことにツユが少しだけ不機嫌そうに首を傾けながら桜に言った。

「何でサクラは私に様なんて付けるの? 」

「だってツユ様はあのアヤメ様の娘なんですよね! 私アヤメ様がかっこ良くて大好きなんです! だからツユ様も大好きなんです! 」

 そう言われると少し照れ臭くなり、ツユは俯いた。でも悪い気はしないのでバッと頭を上げて笑いながらツユも言った。

「ならいいかな。でもできればツユって呼んでほしいから十年になる前にはそう呼んでね」

 学校はサボることが多く、普段の目付きが悪く、態度も良い方ではないツユに友達らしい友達はあまりいない。周りで陰口を言う柄の悪い人か遠巻きに様子をうっとりと見ているファンしかいない。ほぼ常にツユの近くにはケイジュがいたので気になったことはないが、こんなに他の人と楽しく話していて気がついた。ツユには友達がいない。

「はい! 」

 サクラが元気に答えるのと同時に教室の後ろの方から声が聞こえた。

「まーたお貴族様が偉そうにしてる」

 ツユの耳はローメリック程ではないが人間よりは良い。目の前のツユにワクワクしているサクラには聞こえなくてもツユの耳にはハッキリと届いた。慣れているからどうとも思わないが、ツユは貴族と呼ばれたくない。

「サクラ、ちょっと七年の教室行ってくるからこの席守ってて」

 まだホームルームの終了を告げる鐘は鳴っていないのに教室から出ていくツユをいつものこととして笑顔で見つめるサクラの後ろを通ってツユはリンドウに確認するために七年の教室に向かった。
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