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1章 アマリリス姫様
29話 約束-6
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「なあ、アマリリス」
先にケイジュがそう尋ねた。
「何? ケイジュ」
アマリリスがその言葉に警戒するように、それでも優しく答えた。
「リャウナムレミングの姓について何処まで知ってる」
「夢人族の貴族で魔法使いの貴族のムイフランジェルと一緒にお姉様に力を貸していた。あたしはそれしか知らないわ」
厳しい声で尋ねるケイジュにアマリリスは優雅に答える。柔らかく、敵意など全く感じさせないようにふんわりと。目を瞑ってその声だけを聞けば舞っているのではないかと思えるほどに柔らかい。
「……そっかぁ」
手を顎に当ててケイジュは何か考えているようだ。そして、ニコリと口角を上げてまた尋ねた。
「じゃあ、昨日言っていたアヤメ=クイオヴァンジっていうのはアマリリスのお姉さんで革命を起こした張本人、アヤメ=サイレゴシェルで間違いない?」
確信が持てているのかケイジュはどうやら楽しそうだ。アマリリスはそのケイジュの笑顔に不信感を持っているようだが、それを顔に出さないように優しい笑みを浮かべ続けた。アマリリスも少し考えているようだが、それもやめて答えた。考えなしのようにも見えるが、思考の回転が速いだけなのかも知れない。
「そうね、お姉様は長いこと作戦を考えてそれを実行したみたい。好きな人がどうとかで反対していたお母様とお父様を殺そうとしていたみたいだけど二人ともあたしを連れて逃げたわ。お母様はそのあとに動くことをやめて魔力とか妖力とかそういう"流れ"が止まっちゃって死んだけどね。お父様は要らないって言ってるのに時々森で獣を狩って持ってきてくれるわ。まだ生きてるらしいわね。いつも血まみれだから自殺しようとしているみたいだけど……。ふふふ」
誰かに話すことが楽しいのかアマリリスは笑いながら話した。内容は穏やかでないのにアマリリスはまるで昨日あったパーティーの話をするかのように穏やかな声と口調、笑顔と手振りで話す。流石にケイジュもゾッとしているようだ。一歩下がって苦笑いを浮かべている。
「フフフフ。あたしね、月の光でも灰になっちゃうくらい日の光が苦手でずぅっと外に出れてないの。これからもそうなのでしょうけど安心ね、あたしには溢れてしまうほどの魔力があってそれを石にする以外の使い方ができる。三十年は退屈しなくて済みそうだわ。うふふふふふ」
独り言をぶつぶつと言うようにアマリリスはツユとケイジュに言った。楽しそうで何よりだが、ツユもケイジュのようにアマリリスの事を不気味に思ったようでアマリリスの方をキツい目線で見る。いや、どんな顔をして話しているのかが気になって良く見ようとしているだけ、か。
そこで初めて気づいたようにアマリリスがハッとした顔をしてツユとケイジュを見た。流石に話しすぎたかと視線をずらしたが、それもすぐにやめてまた話した。
「魔法使いは魔法使い同士で離れていても話せるのよ。しかも片方の魔力が高ければもう片方はほとんど消費しなくて済むし、便利なの。見たところ二人とも魔法使えそうだから退屈しないって言ったのよ。二人ともそう思わない?」
「僕は思わないよ。会って話せるなら会って話せばいいし、僕たちは三十年やそこらでは死なない。だからもっと退屈しなくなるよ」
ニコッと笑ってケイジュは答える。さっきまでの苦笑いとは全く違う。ツユもそのケイジュの笑顔があると安心するのか、笑ってアマリリスに言った。
「私も。そう簡単には死なないよ。私には日光から身を守る術だってあるんだし、直接当たっても長時間じゃなければ平気だしね! ……そう言えば、アヤメ=サイレゴシェルっていうのは私のお母さんなんだけど、アマリリスはお母さんのこと嫌い?」
元気良く言っていたツユも眉を寄せて心配そうに尋ねた。いくらアマリリスと仲良くなりたくても自分の母の事を恨んでいたり嫌っているのであれば、それが気になってしまうかもしれない。どうでもいいことにも思えるが、ツユにとっては重要なことだった。
「嫌いな訳がないじゃないの。お母様たちには知らないけどあたしにはとっても優しかったのよ、お姉様。あたしが日光に当たらないようにって窓の無い部屋から出られないように閉じ込めていたお母様たちとは違ってあたしの好きな食べ物とか綺麗な服とかくれたし、話し相手にもなってくれたのよ。お姉様が原因でこんなところにいるけど、そんなことでお姉様を嫌いになんてならないわ」
宙を仰ぐように何処か何処でもない場所を見つめるようにしてアマリリスは懐かしそうに言った。ツユの目が少しだけ光る。本人はもちろん気が付かないが、アマリリスも見ていなかった。その目を見ていたのはケイジュだけ。その目を見ながらケイジュを一瞬だけ気付かれないように笑顔を消した。
先にケイジュがそう尋ねた。
「何? ケイジュ」
アマリリスがその言葉に警戒するように、それでも優しく答えた。
「リャウナムレミングの姓について何処まで知ってる」
「夢人族の貴族で魔法使いの貴族のムイフランジェルと一緒にお姉様に力を貸していた。あたしはそれしか知らないわ」
厳しい声で尋ねるケイジュにアマリリスは優雅に答える。柔らかく、敵意など全く感じさせないようにふんわりと。目を瞑ってその声だけを聞けば舞っているのではないかと思えるほどに柔らかい。
「……そっかぁ」
手を顎に当ててケイジュは何か考えているようだ。そして、ニコリと口角を上げてまた尋ねた。
「じゃあ、昨日言っていたアヤメ=クイオヴァンジっていうのはアマリリスのお姉さんで革命を起こした張本人、アヤメ=サイレゴシェルで間違いない?」
確信が持てているのかケイジュはどうやら楽しそうだ。アマリリスはそのケイジュの笑顔に不信感を持っているようだが、それを顔に出さないように優しい笑みを浮かべ続けた。アマリリスも少し考えているようだが、それもやめて答えた。考えなしのようにも見えるが、思考の回転が速いだけなのかも知れない。
「そうね、お姉様は長いこと作戦を考えてそれを実行したみたい。好きな人がどうとかで反対していたお母様とお父様を殺そうとしていたみたいだけど二人ともあたしを連れて逃げたわ。お母様はそのあとに動くことをやめて魔力とか妖力とかそういう"流れ"が止まっちゃって死んだけどね。お父様は要らないって言ってるのに時々森で獣を狩って持ってきてくれるわ。まだ生きてるらしいわね。いつも血まみれだから自殺しようとしているみたいだけど……。ふふふ」
誰かに話すことが楽しいのかアマリリスは笑いながら話した。内容は穏やかでないのにアマリリスはまるで昨日あったパーティーの話をするかのように穏やかな声と口調、笑顔と手振りで話す。流石にケイジュもゾッとしているようだ。一歩下がって苦笑いを浮かべている。
「フフフフ。あたしね、月の光でも灰になっちゃうくらい日の光が苦手でずぅっと外に出れてないの。これからもそうなのでしょうけど安心ね、あたしには溢れてしまうほどの魔力があってそれを石にする以外の使い方ができる。三十年は退屈しなくて済みそうだわ。うふふふふふ」
独り言をぶつぶつと言うようにアマリリスはツユとケイジュに言った。楽しそうで何よりだが、ツユもケイジュのようにアマリリスの事を不気味に思ったようでアマリリスの方をキツい目線で見る。いや、どんな顔をして話しているのかが気になって良く見ようとしているだけ、か。
そこで初めて気づいたようにアマリリスがハッとした顔をしてツユとケイジュを見た。流石に話しすぎたかと視線をずらしたが、それもすぐにやめてまた話した。
「魔法使いは魔法使い同士で離れていても話せるのよ。しかも片方の魔力が高ければもう片方はほとんど消費しなくて済むし、便利なの。見たところ二人とも魔法使えそうだから退屈しないって言ったのよ。二人ともそう思わない?」
「僕は思わないよ。会って話せるなら会って話せばいいし、僕たちは三十年やそこらでは死なない。だからもっと退屈しなくなるよ」
ニコッと笑ってケイジュは答える。さっきまでの苦笑いとは全く違う。ツユもそのケイジュの笑顔があると安心するのか、笑ってアマリリスに言った。
「私も。そう簡単には死なないよ。私には日光から身を守る術だってあるんだし、直接当たっても長時間じゃなければ平気だしね! ……そう言えば、アヤメ=サイレゴシェルっていうのは私のお母さんなんだけど、アマリリスはお母さんのこと嫌い?」
元気良く言っていたツユも眉を寄せて心配そうに尋ねた。いくらアマリリスと仲良くなりたくても自分の母の事を恨んでいたり嫌っているのであれば、それが気になってしまうかもしれない。どうでもいいことにも思えるが、ツユにとっては重要なことだった。
「嫌いな訳がないじゃないの。お母様たちには知らないけどあたしにはとっても優しかったのよ、お姉様。あたしが日光に当たらないようにって窓の無い部屋から出られないように閉じ込めていたお母様たちとは違ってあたしの好きな食べ物とか綺麗な服とかくれたし、話し相手にもなってくれたのよ。お姉様が原因でこんなところにいるけど、そんなことでお姉様を嫌いになんてならないわ」
宙を仰ぐように何処か何処でもない場所を見つめるようにしてアマリリスは懐かしそうに言った。ツユの目が少しだけ光る。本人はもちろん気が付かないが、アマリリスも見ていなかった。その目を見ていたのはケイジュだけ。その目を見ながらケイジュを一瞬だけ気付かれないように笑顔を消した。
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