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1章 アマリリス姫様
39話 ケイジュ-3
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「……ケイジュに使えない魔法なんてあったの?」
そう尋ねたアヤメは驚いたと顔に書いてある。
「俺を何だと思ってるんすか?」
その反応にケイジュは呆れたようにアヤメを見ながら尋ね返す。どうせこの国一の魔法使いか何かだと思われてるんだろうが、ケイジュはそんな大層なものではない。
「この国一の魔法使いだと思ってるわよ」
「その称号ならリンドウとかヒスイとかクランリドルのやつらにあげてください。流石にあの家には敵わねぇんで」
言うだろうと想像していた通りのことをアヤメが言ってくれてケイジュは楽に返事をすることができた。ようやくこの部屋にも慣れてきて軽く笑いながら話すが、ケイジュはやはりもう外に出たい。
「仕方ないわね……。アテンマ」
これ以上何か言っても誤魔化されるだけだとアヤメがケイジュの方を見ながらアテンマの名前を呼んだ。無能なアテンマへの頼み事なんて状況にもよるが、一つしかない。
「かしこまりました。万が一何かあったら姫様に痛み止めと治癒魔法をかけます。なので姫様、安心して私の手を握っていてください」
その事を誰よりもよくわかっているアテンマが少し目を伏せながらアマリリスに手を伸ばした。怖くない、一緒にいると言うような優しい微笑みをアマリリスに向ける。
「昔のアテンマならいいけど今のアテンマは嫌よ。信用ならないわ」
よくやく口を開いたアマリリスはアテンマを見ないようにしてそう言った。強がりにも聞こえるが、限りなく本心に近い言葉だろう。
「何故です?」
アテンマが本当にわかっていなさそうに尋ねた。
「ケイジュよ。ケイジュは苗字を偽ってまでアテンマの弟であることを隠してるし、お姉様を主としているなら私のことを知っているはずなのにそれも隠していたでしょう?」
「それは弟の罪にしてください、姫様」
自分が悪いと思っていたのに、アマリリスの口から出てきたのは弟であるケイジュのことだけだった。確かにアマリリスが言っていることは事実でしかないが、それでアテンマのことを信用できないと言われるのは流石に納得できるわけがない。
「兄なら責任を背負いなさいよ。あと昔と違ってなんかアテンマ胡散臭いのよ」
「胡散臭っ!」
アマリリスは少し強めにアテンマに言った。そして、その言われたアテンマはあり得ないと言うように顔を歪めながら確かなショックを受けていた。
「兄さんが胡散臭い……。ハハハハッ、良いこと言うな」
ケイジュはツボにはまってしまったようで、腹を抱えて笑っている。今にも崩れそうに足を震わせて息もしずらそうになるほどの大笑いだ。そして、笑っているのはケイジュだけではない。アヤメが上品だが、蔑むような視線をアテンマに向けながら口元を隠しながらクスクスと笑っている。
「あらあら」
「特に髪が変よ。何であたしより手入れがなってないのよ」
百年ほど前の記憶ではあるが、アマリリスが以前に見たアテンマの姿はキチッとしたものだった。髪は整えられ、服装も今のように緩いものではない。一国の姫の婚約者だと言われても誰も疑わないだろう正当な貴族の格好だった。
それが今になって例え好みが変わっていたりしていても、今のアテンマは変わりすぎだ。昔はキチッと整えていた前髪が今では長く延びすぎたものを後ろに上げて噛み止めで止めているだけ。切り揃えていた紙も伸び放題で束ねているだけ。スーツか貴族が着るのに差し支えない服しか着なかったアテンマが、今では白いシャツと黒いズボンに汚れているのか灰色がかった白衣を着ている。そんな変わってしまったアテンマが胡散臭いとアマリリスは思うのだろう。
「それはね、アマリリス。仕方ないのよ、ツユを欺くためだったんだから」
笑いがおさまってきたアヤメが目を微笑ませて言った。
「敵を騙すならまず味方からって言うでしょう?」
楽しそうにその言葉をアヤメは言ったが、ケイジュとアテンマは思わず顔が強ばってしまった。
「どういうことなの? お姉様」
アマリリスが今度はきちんとアヤメの目を真っ直ぐ見て尋ねた。その言葉に微笑み、アヤメは答える。その答えを言い終えると、自分だけは満足したようで、姿勢を正すとケイジュの方を見て微笑んだ。
「さて、そろそろ上に行きましょうか。もちろん、アマリリスもよ」
そう言ってアヤメは一足先にこの地下から出る階段に向かった。ケイジュはそのすぐ後に続き、アテンマはアマリリスの手を取り案内するようにそっと後ろから支えて歩いた。
そう尋ねたアヤメは驚いたと顔に書いてある。
「俺を何だと思ってるんすか?」
その反応にケイジュは呆れたようにアヤメを見ながら尋ね返す。どうせこの国一の魔法使いか何かだと思われてるんだろうが、ケイジュはそんな大層なものではない。
「この国一の魔法使いだと思ってるわよ」
「その称号ならリンドウとかヒスイとかクランリドルのやつらにあげてください。流石にあの家には敵わねぇんで」
言うだろうと想像していた通りのことをアヤメが言ってくれてケイジュは楽に返事をすることができた。ようやくこの部屋にも慣れてきて軽く笑いながら話すが、ケイジュはやはりもう外に出たい。
「仕方ないわね……。アテンマ」
これ以上何か言っても誤魔化されるだけだとアヤメがケイジュの方を見ながらアテンマの名前を呼んだ。無能なアテンマへの頼み事なんて状況にもよるが、一つしかない。
「かしこまりました。万が一何かあったら姫様に痛み止めと治癒魔法をかけます。なので姫様、安心して私の手を握っていてください」
その事を誰よりもよくわかっているアテンマが少し目を伏せながらアマリリスに手を伸ばした。怖くない、一緒にいると言うような優しい微笑みをアマリリスに向ける。
「昔のアテンマならいいけど今のアテンマは嫌よ。信用ならないわ」
よくやく口を開いたアマリリスはアテンマを見ないようにしてそう言った。強がりにも聞こえるが、限りなく本心に近い言葉だろう。
「何故です?」
アテンマが本当にわかっていなさそうに尋ねた。
「ケイジュよ。ケイジュは苗字を偽ってまでアテンマの弟であることを隠してるし、お姉様を主としているなら私のことを知っているはずなのにそれも隠していたでしょう?」
「それは弟の罪にしてください、姫様」
自分が悪いと思っていたのに、アマリリスの口から出てきたのは弟であるケイジュのことだけだった。確かにアマリリスが言っていることは事実でしかないが、それでアテンマのことを信用できないと言われるのは流石に納得できるわけがない。
「兄なら責任を背負いなさいよ。あと昔と違ってなんかアテンマ胡散臭いのよ」
「胡散臭っ!」
アマリリスは少し強めにアテンマに言った。そして、その言われたアテンマはあり得ないと言うように顔を歪めながら確かなショックを受けていた。
「兄さんが胡散臭い……。ハハハハッ、良いこと言うな」
ケイジュはツボにはまってしまったようで、腹を抱えて笑っている。今にも崩れそうに足を震わせて息もしずらそうになるほどの大笑いだ。そして、笑っているのはケイジュだけではない。アヤメが上品だが、蔑むような視線をアテンマに向けながら口元を隠しながらクスクスと笑っている。
「あらあら」
「特に髪が変よ。何であたしより手入れがなってないのよ」
百年ほど前の記憶ではあるが、アマリリスが以前に見たアテンマの姿はキチッとしたものだった。髪は整えられ、服装も今のように緩いものではない。一国の姫の婚約者だと言われても誰も疑わないだろう正当な貴族の格好だった。
それが今になって例え好みが変わっていたりしていても、今のアテンマは変わりすぎだ。昔はキチッと整えていた前髪が今では長く延びすぎたものを後ろに上げて噛み止めで止めているだけ。切り揃えていた紙も伸び放題で束ねているだけ。スーツか貴族が着るのに差し支えない服しか着なかったアテンマが、今では白いシャツと黒いズボンに汚れているのか灰色がかった白衣を着ている。そんな変わってしまったアテンマが胡散臭いとアマリリスは思うのだろう。
「それはね、アマリリス。仕方ないのよ、ツユを欺くためだったんだから」
笑いがおさまってきたアヤメが目を微笑ませて言った。
「敵を騙すならまず味方からって言うでしょう?」
楽しそうにその言葉をアヤメは言ったが、ケイジュとアテンマは思わず顔が強ばってしまった。
「どういうことなの? お姉様」
アマリリスが今度はきちんとアヤメの目を真っ直ぐ見て尋ねた。その言葉に微笑み、アヤメは答える。その答えを言い終えると、自分だけは満足したようで、姿勢を正すとケイジュの方を見て微笑んだ。
「さて、そろそろ上に行きましょうか。もちろん、アマリリスもよ」
そう言ってアヤメは一足先にこの地下から出る階段に向かった。ケイジュはそのすぐ後に続き、アテンマはアマリリスの手を取り案内するようにそっと後ろから支えて歩いた。
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