射れ変わりの法則

金棒ぬめぬめ

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第1章:夏休み

第18話 初めての女湯へ。

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「んじゃあ、夜の十時頃に迎えにくるから」


 芽衣めい(俺の身体)と、一通りの話をし終わってから、兄貴は帰っていった。義姉あけみさんと離婚したこと、その原因が義姉さんの浮気にあること、義姉さんは親権を放棄したこと。自分一人で育てられるか、正直自信がないこと。


 そして、兄貴と一緒に住むことになったため、たびたび俺に預けるかもしれない、ということ(を、芽衣に向かって)。


 兄貴は俺だと思って話していたわけだから、娘のことを気にしつつ小声になりながらも、かなり踏み込んだ内容だった。俺に話していなくてごめん、と兄貴に謝られた。


 もともとは、どれだけ勉強を熱心に教えていたとしてもとがめる気はなく、離婚するつもりもなかったらしいが、浮気の現場をたまたま目撃したのが引き金となったらしい。


 もともとは仕事にかまけて、ろくに家に戻らなかった兄貴にも原因はあるかもしれないが、寂しさゆえだとしても、浮気は一線を越している気もする。


 どっちが悪いかなんて偉そうなこと、家庭を持ったことのない(彼女がいたことすらないけど)俺がとやかく言うことではないだろう。


 兄貴がいなくなったあと、しばらく考え込んでいた。子供なりに、いろいろ思うところがあるのだろう。あまり踏み込んだことはかないことにしよう。そう考えあぐねていると、切り替えられたようで、冷蔵庫の中を探りながら俺に訊いてきた。


「これから、ご飯を食べるんですけど、叔父おじさんは食べましたか?」


 自分の身体から出ているとは思えない口調に違和感を覚える。俺って、こんなに声が野太かったのか。返答がなかったからか、芽衣はいぶかしげに振り返った。こっちに俺の顔を向けんな。


「あ、ごめんなさい。稼いで返します」
「ん?」
「叔父さんのお財布から、勝手に使っちゃって」


 飯の話をしているのか。俺が難しい顔をしていたから、そこを糾弾されるのではないかと危惧したのだろう。確かに、俺の身体越しに見える冷蔵庫の中身は、いままでで一番充実していた。


「いや、別にそれはいいけど。食べなきゃ生きていけないだろ?」それを聞いて、少しは安心したようだ。俺は話題を変える。「仕事といえば、昨日きのうはどうだった?」


「……みなさん、良くしてくださってます」


 それは嘘じゃないか? 仕事内容は事前に言っていたとはいえ、初めてするには要領のつかめない仕事のはずだ。ただでさえ、空気のような存在なのに。仮に記憶喪失になったとしても、周りが丁寧に教えてくれるはずもない。


 芽衣へ押しつけてしまったことに、いまさらながらに罪悪感を覚える。


「……無理、しなくていいんだぞ」


 休みたかったら休んでも。そう言おうとして、自分の弱さに気づいた。


 芽衣は笑顔で、俺に言った。「大丈夫です」


 ……こんな屈託のない笑顔、俺にもできるんだな。


 それから、自分で調理した飯を食べ、それを片づけ、芽衣はひとりで家事をこなした。俺が住んでいたときより、部屋が小綺麗こぎれいになっている。


 数時間後、芽衣はトイレへ向かった。男の身体には、だいぶ慣れてきたようで、排泄は軽くこなしている。俺がついていかなくても心配はないな、と思って安心しきっていた矢先、芽衣は口をモゴモゴさせながら言いづらそうに話し始めた。


「あの、その……お風呂って……」
「……ん? 前に行っただろ? あそこを使え」
「いや、その。男湯……」


 あー。言いたいことが、なんとなくわかった。さすがに風呂は、男女共用を使うのは難しいのだろう。トイレみたく、各部屋に一つついているならまだしも、自分の性とは別の銭湯には入りづらい。


「一週間くらい風呂に入んなくても平気だ」
「……はい」


 俺がそうだから、芽衣に押しつける形になって申し訳ないが、そこまで無理して風呂に入る必要もない、と思った。芽衣と会ったはいいが、特になにか困ったり不便になっているわけでもないらしく、ただただ談笑しているうちに時間ばかりが過ぎていく。


 もうすでに俺も芽衣も、異性の身体に順応しつつあったようだ。……俺、別にくる必要なかったんじゃないかな。


 心の中では、さっさと部屋に戻って、オナニーの続きをしたい、そのことばかりを考えていた。女子の身体は絶頂を迎えても、すぐにムラムラが再燃してしまうようで、際限なく性欲があふれ出してくる。


 どうしてだろう? 女の子のほうが性欲は収まると思っていたのに、男の身体でいたときよりも、一日についやすオナニーの時間が増えてしまった。心なしか、男のときより、女の子の身体でオナニーするほうが、気持ちよく感じる。


 そういえば銭湯の話をしてて、最近は行っていないことを思い出した。なぜか、どういうわけか股間の奥が熱くなり、ないはずのアソコがってしまいそうになる。


 よし、決めた。きょうは、もう銭湯に行っちゃおう。芽衣には「男湯に慣れる訓練」などと適当な理由をつけて、俺はタンスの奥からタオルを引っ張りだす。引き出物でもらったヤツがあったはず。


 俺がいつも使っている、身体に馴染なじみきったヤツは芽衣へ渡し、結婚式から帰ってきてそのまま放置していた新品を開封する。そして意気揚々と、銭湯へと向かった。


 子供料金を番台へ支払い、青と赤に色分けされた暖簾のれんの前で、不安そうな表情の芽衣とは別れる。頑張れー。自分の高鳴る鼓動を押さえつつ、俺は芽衣へ建前上のエールを送る。


 幼児期に入ったかどうかは記憶にないが、少なくとも成人してからは初めてなのは間違いない。ましてや、少女の姿で堂々と入る経験など、世界広しといえどいないだろう。


 しかし、それからすぐに、見渡す限りの垂れ下がった肉体を目の前にし、俺は後悔することになった。女児どころか、三、四十代よりも前の女性すらいやしない。そりゃそうだよな、と俺は思いなおす。


 男湯にいたときでさえ、あまり男児は見かけたことがなかった。女湯に来たからといって、わんさか女児に出会えるはずもない。なんで期待してたんだろう、あほらし。自分のバカさ加減に、我ながら憐れみを覚えた。


 小さな子が、しかも一人で入っているのが珍しいのか、やたらとおばさんたちが話しかけてくる。おばさんたちの相手をしているのも鬱陶うっとうしく思えてきたので「出よう」と思って立ち上がる。


 そのとき扉が開き、歩幅の小さなペタペタという足音、幼く聞こえる歓声が耳へ飛び込み、俺はもう一度、湯船へかることを決心した。
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