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あれからの、あんなこと、こんなこと

18.みんなで、あんなこと、こんなこと ⑥

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 心地いいまどろみから浮上すると、短い髪を指でとかすように、誰かが俺の頭を優しく撫でている。そのすっかり慣れ親しんだ感触にゆっくりとまばたきをしながら視線を上げると、心配そうに俺を見つめている有川と至近距離で目が合った。
 ……あれ、ここどこだっけ。俺何やってたんだっけ。
 ぼんやりと目だけで薄暗い周りを見回すと、いつもの有川の部屋で、いつもの有川のベッドの上だ。ほっとしたように息を吐いた有川が、それでも心配そうに静かな声で口を開く。

「七瀬、大丈夫か?」

 え。うわ、そっか。俺、すげー中イキしまくって……、それで、それから……?

「え、うん。……俺どのくらい寝てた? 今何時?」
「せいぜい二十分くらい。まだ夕方。ごめん無理させて。どっか痛いとこやつらいとこ、ないか?」
「あー……、大丈夫、だけど」

 やばい。有川が優しい。優しいっていうか、甘い。つかなんで俺ら全裸のまま二人で布団に入ってんだ。なんでこいつ頭にキスとかしながら話すんだ。つか足を絡めてくんな。
 俺をそっと抱きしめる腕をほどくこともできず、視線のやり場にも困る。なんとなく目の前の胸に顔をうずめたら、何も言わない有川の力が強くなった。
 やばい。もう終わったはずなのに、全然通常モードに戻ってねえ。
 だけど、ちょっとどうしようかと思い始めたタイミングで、がたがたと音がして風呂場からパンイチの井田と宇山が小突き合いながら出てきた。
 え、こいつら一緒に入ってたのか。

「だーかーらー、ほんともうやんないから。こんなんハマったら絶対彼女とかできないし困るんだって」
「え、お前まだそんな気とかあったわけ?」
「今はないけど! でも井田だっていつかは彼女欲しいでしょ?」
「全然。大体とかお前それ絶対本気じゃないじゃん。つか七瀬にハマった時点でもう無理なんだから、ついでに俺にもハマっとけよ」
「無理じゃないし! デートとかもしてみたいじゃん」
「いやそれ俺とでよくね? つかお前俺のこと好きじゃねえの?」
「あーもう、大っ好きだけど! でもそれとこれとは違うんだってば」

 ……何だこれ。俺が寝てる間に何があった。
 どう見ても井田が宇山を口説いてるようにしか見えない光景を、布団から頭半分だけ出してびっくりしながら観察してたら、まとわりつく井田を引き剥がそうとしていた宇山と目が合った。

「あ、七瀬起きてる。なんか今日すげー好き好き言いながらやばいくらい何回もイってたけど平気?」
「……あー、うん?」

 いやいやいや、心配するなら余計なこと言うな。つか「好き好き」って何だそれ。俺すらよく覚えてないことはお前も忘れとけよ。くっそ、自分だって井田のちんこでアンアンあえぎまくってトコロテンまでしてたくせに結構元気だな。
 大体、俺はそんなことを口走った覚えなんて全然な……いこともない、か。何かじわじわよみがえってきた。そういえば、「好き」っていっぱい言ったような気がする。 
 え、有川のこの態度ってそれでか? あれ、アナニーのことじゃなくて有川のことだって勘違いされた?
 じゃなきゃ、終わったのにこんなに甘い有川とか説明がつかない。……まあ、だとしても、それもあながち勘違いとも言えないっていうか、いい加減自分でも認めなきゃ駄目っていうか、なんだけど。
 でも。俺たちの何が変わって何が変わってないのかとか。確かめるのはまだ怖くて。

 井田は何度フラれても、聞こえてないみたいにまだ宇山に絡んでいる。相変わらずハートが強くてうらやましい。

「大体さあ、女の子とHしたって絶対満足できそうになくね? 俺のちんこ気持ちよかったろ?」
「や、だからそれが困るんだって何度も言ってんじゃん。それに俺はどっちかって言ったら七瀬に挿れたいんですー」
「それは分かるし俺もやるし許す。でも俺は宇山にも挿れたい!」

 またこいつらは何を勝手に決めてんだ。
 でも話の内容はともかく、俺はいつもの調子の二人に自分でもびっくりするくらいほっとして、何か言い返す気も起きなかった。宇山は多分、追いかけてくる井田に安心してまた逃げまわることにしたんだろう。
 俺はといえば、井田と宇山がまだ何やらわちゃわちゃ言い合ってるのをBGМにして、一定の速度で頭を撫で続ける有川の手に、黙ってただドキドキすることしかできない。

「七瀬、眠い?」

 いや、もうがっつり目が覚めました。
 密着してる有川にこの鼓動が伝わらないはずなんてないんだけど。でも、気付かないふりをしてくれる大人な有川に今だけ甘えることにする。

「ん……」
「いいから寝てな? もし起きれなくても家には連絡しとくし」

 あー、確かにそれがいいかも。遊びで外泊なんかしたことないけど、多分有川なら親にもうまく言ってくれるに違いない。どう考えたって、今からシャワーを浴びて着替えて、日が落ちた寒い中を一人で帰れる気がしない。それにまだ、この気持ちいい腕の中から離れたくはない。
 切れ長の目を盗み見るようにそっと見上げると、ずっとこっちを見ていたらしい有川が、俺の心を見透かしたみたいに目を細めて笑った。

「大丈夫。ずっとそばにいるから」

 俺はなんだかものすごく安心して、幸せで。なにもかも寒さのせいにすると、返事の代わりに、俺と同じくらいドキドキしてる有川の胸にすり寄って目を閉じた。

 ◇

 さて。
 あれからもあんなことやこんなことがあった俺たちだが、七年った今もなぜか俺の隣には有川がいる。井田と宇山も相変わらずあの調子で、二人だけでもやることはやってるくせに、付き合ってんだか付き合ってないんだかよく分からない状態だ。巻き込まれる俺としては、そろそろ本気でめんどくさい。
 とは言いつつも。そんな俺たち四人は、飽きもせず時々俺と有川の部屋に集まって、そんなことにもどんなことにもふける日々だ。
 でもそれは、話せば長いまた別の話。
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