あんなこと、こんなこと

近江こうへい

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【番外編】

3.【大学三年生/冬】宇山と初めてのラブホ ①

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※宇山視点※
──────────────────

 なぜか井田いだは、俺が七瀬ななせとやってる最中にも俺の尻を狙ってくる。「目の前で腰振ってるお前が誘ってるんだ」って井田は言うけど、もちろんそんなつもりはまったくない。
 ていうか、これほんと何なんだろ。なんでこんなことになってんだっけ。二年前、俺は確かに「ちんこは一回だけ」って言ったはずなのに、結局は定期的に井田のちんこにも慣らされてるし。

 後ろから何度もディルドを出し入れされて、俺は思わず七瀬の胸に倒れ込んだ。れとくだけならまだいいけど、前立腺にこすり付けられたらもう腰を振る余裕なんてない。井田への反抗が半分、七瀬への申し訳なさが半分。俺は目の前にあった七瀬の乳首を、よだれだらけになったタオルの代わりに口に含んだ。
 身体だけはとんでもなく素直な七瀬は、俺のちんこを締めつけながらびくびく跳ねてドライでイく。俺も同じタイミングでイっちゃったけど、相変わらずエロい身体でありがたいというかなんというか。
 はー……、ていうか。これほんと何なんだろ。気持ちよすぎて困る。ほんとどうしたらいいのか分かんなくて困る。つか有川ありかわも見てないふりとかやめて、ちょっとは助けようよ。
 だけど。こんなこともなぜか最初から全然嫌じゃない俺は、本当はもうずっと、本気で井田をこばみきれない自分自身に困っている。

 ◇

 いつもみたいに井田と待ち合わせたのは、改札に直結した駅ビルの地下だ。入り口近くの通路にある広場は平日の昼過ぎでも人が多いけど、井田は目立つからすぐに分かる。
 だけど、見つけた瞬間その頭が黒い短髪になってるのに気が付いて、駆け寄ろうとした足が思わず止まった。
 あー、そっか。就活で明るい色とかツーブロックとかはまずいもんね。
 ある程度長さに余裕があるとはいえ、おでこも出る刈り上げのショートなんて、どう考えても就活仕様だ。まだ考えたくもないけど、もう二月も末で、来月に入ったらすぐに就職説明会の類いが始まってしまう。
 髪型に合わせたように、今日の井田はいつもよりちょっときれいめに仕上がってた。キャメルのチェスターコートに、中はボタンダウンシャツとVネックニットを着てるのが見える。インディゴのタイトデニムに合わせてるのは、井田お気に入りのダークブラウンの革靴だ。細い革ひもをソールにも通すデザインのやつ。目立つアクセは着けてなくて、いつもより八割増しで好青年っぽい。何がすごいって、周りを歩く人たちの視線も一度は井田に向く。
 だよね、ほんとあいつ黙ってたらかっこいいよね。何を着ても似合うけど、これでスーツなんか着たりしたら最強でしょ。
 こっちに気付いてないのをいいことに、ちょっと変な優越感に浸りながら眺めてると、さっきからうろうろしてた二人組の女の子が井田に話しかけた。だけど井田はちらっとそっちを見ただけで、すぐに手元のスマホに視線を戻す。
 あーあ、もったいないなあ。
 井田は、彼女が欲しいって口癖みたいに言ってた頃からずっと、寄ってくる女の子を嫌がってるようなとこがあった。その気になって本性隠したらごろごろ引っかかるはずなのに、最近は特にあんな感じだ。
 瞬殺されて人込みに消えていく女の子たちの背を見送ってると、その俺に気付いた井田がこっちに歩いてきた。

宇山うやまー、来てたんなら声かけろってー」
「ごめんごめん。つかよかったの? あれ、どっちも結構お前の好みっぽかったのに」

 って言ってもAVの話だけど。井田は、ぱっと見は清楚な感じの子が好きなんだよね。俺も同じだから分かるけど、男だったら七瀬とかがそう。

「んー、そうだっけ。見てなかった」

 めんどくさそうにため息をついた井田の手には、革のトートバッグと一緒にコンビニの袋がぶら下がってる。指を引っかけてのぞいたら、紅茶のペットボトルが一本とサンドイッチが二個入っていた。

「これお前の昼ごはん? 俺食ってきちゃったんだけど」
「あー、じゃなくて。途中で腹減るかと思って。ルームサービスとか落ち着かねえじゃん。食べる余裕ないかもしんないけど、他のがよかったら買ってく?」
「え、別にいらないけど……」
「んじゃ、行こっか」

 駅ビルを出ると、井田はいつも周る辺りとは違う方向に歩きだした。普段からこうやって先導されることは多いし、それは別に変じゃない。けど。ルームサービスって何。

「待って待って。どこ行くの?」
「ん? ラブホ」
「は? え、ちょ、待って、何」

 いろいろ問い詰めたいけど駅前は人目が多い。とりあえず目立たないように口をつぐんで後ろをついて行く。と、ラブホ街らしき路地に入って人通りがまばらになった途端、井田の手が伸びてきて俺の手をつかんだ。

「ちょ……っ」
「平気平気。誰も見てないって。えーと……、ん、こっち」

 井田はスマホで地図を確認しながら、初めてつないだ俺の手を引いて半歩前を進む。
 いやもう絶対誰か見てるって。お前かっこいいんだから自覚しようよ!
 だけど、慌てて顔を伏せたまま文句を言うタイミングを計ってるうちに、もう目的地に着いてしまったらしい。視線だけ上げて周りを見ると、おしゃれなホテルみたいな建物の前だった。そのまま、なんだかいい香りがするエントランスを抜けて、フロントでカードキーを受け取ってエレベーターに乗る。人が乗ってくるかもって心配はまだあったけど、好奇心の方が勝ってちょっとだけ顔を上げた。

「なあなあ、タッチパネルとかで部屋選んだりとかすんじゃないの?」
「あ、わり。予約した時に勝手に選んじゃった」

 そういえば、さっきフロントで「予約」とかなんとか言ってた気がするな。ていうか、こういうとこって衝動的に来るとこだと思ってた。
 ……じゃ、なくて。

「いいけど。それさー、予約なんかして俺がやだっつったらどうすんの」
「あれ、やだった?」
「じゃないけどー」

 カードキーで開けたドアの中には、玄関みたいな狭いスペースがあった。部屋は続く二枚目のドアの向こうにあって、キングサイズのでかいベッドが最初に目に飛び込んできてびっくりする。でも、ブラウンを基調とした広めの部屋には二人掛けのソファとローテーブルもあって、落ち着いた雰囲気で全然エロい感じじゃない。

「へー、思ったより普通」

 なんだかほっとして力が抜けた。気温のせいだけじゃなく、無意識に身体に力が入ってたのかもしれない。
 もう完全に開き直った俺は、まずは部屋の設備を確認することにしてコートをクローゼットにしまった。だってラブホとか入ったの初めてだし、いつか女の子と来る時のためにいろいろ見とかないとね。
 作り付けの木製の扉の中には小さい冷蔵庫や電子レンジがあって、井田は持ってきた食料を冷蔵庫に入れてからお湯を沸かし始めた。サービスドリンクやアメニティも充実してて、本当に普通のホテルと変わらない。

「あれ。カラオケもある」
「な。誰がわざわざこんなとこまで来て歌うんだろな」

 井田は二十時までのフリータイムで予約したらしい。今は十四時をちょっと過ぎたとこだから、MAX六時間弱はいられる。それでも、さすがに俺もここでカラオケしようっていう気にはならないかな。壁掛けのでかいテレビも多分見ないと思う。
 そんなことを考えながらうっかり油断してバスルームの扉を開けたら、鏡に映った自分と目が合って肩が跳ねた。無駄にでかいバスタブ。それをコの字で囲むように、壁三面いっぱいに取り付けられた鏡。
 うっわ、ほんとにラブホだ。
 なんとなく落ち着かなくて熱くなった頬を押さえながら部屋に戻ると、井田はインテリア雑誌にでも出てきそうな雰囲気の二人掛けのソファに座っていた。ガラス製のローテーブルには、ティーバッグがかったままのカップが二つ並べられている。

「風呂きれいだったー?」
「あー、うん」

 俺は何事もなかったかのように隣に座って、木目のきれいな肘掛けを撫でた。
 ていうか、ラブホの基準が分かんないけど、なんとなくこの部屋は高そうな気がする。そもそもこのお金の使い方おかしいよね。井田は、自分で必要ないと思うものにはお金を使わないケチ……じゃなかった、倹約家なのに。随分前に井田が七瀬からおもちゃをいくつか譲り受けた時だって、七瀬が言うには良心的な『一律百円』から値切ろうとしてたくらいだ。
 大体、有川の帰省は毎年お盆と正月だけだから、この春休みだってあの部屋なら無料タダでいくらでもヤリ放題なのに。

「なあ、今日ってなんでラブホ? 俺半分出そっか?」
「駄目。そしたら誕生日プレゼントになんねえし」
「え」
「今日宇山の誕生日じゃん。あれ、違ったっけ?」

 びっくりして、思わず井田の顔を見た。
 やばい。嬉しい。
 だって誕生日なんて、新歓の飲み会の日、ファミレスで自己紹介し合った時にしか言ってないのに。俺ら四人は今まで誰かの誕生日を祝ったことなんてないし、井田が覚えてくれてるなんて思わなかった。

「……や、合ってるけど、どこら辺がプレゼントなわけ?」
「声とか我慢せずに思い切りやれるあたり?」

 まあ、それは井田がやりたいだけな気もするし、ラブホに来る口実にされただけな気もするけど。
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