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【番外編】

2.【大学二年生/春】七瀬と縦割れアナル ②

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 さて。井田や宇山みたいに一緒に買い物するほど趣味の合わない俺たちに、デートの行き先なんて思いつくはずもなく。結局、そのまま有川の部屋でだべったり動画を見たり飯を食ったり、主に有川の股の間でだらだらしているうちに夜になった。
 やれないとつらいなんてこともなく、これはこれで胸の辺りがむずむずして幸せだ。ここにはまだ俺しか泊まったことがないっていうのも、俺だけが特別みたいでやっぱり嬉しいし。
 誰にも言わないけど、多分俺はもう、恋愛的な意味で有川が好きだ。だけど男だし、ディルド扱いとはいえちんこも一本に絞れないし、はっきり言って有川に好きだとか言う資格がない。有川が時々見せる独占欲みたいなのが嬉しいって思っても、実際に独占されたら困るような矛盾する気持ちもあるし。
 まあ、同じ好きかどうかはともかく、有川に好かれてるのは間違いないからセフレで充分なんだけど。

「七瀬ー、お前昼間入ったけど今日風呂どうする?」
「あー、寝る前にシャワーだけ浴びたい」
「そっか、じゃ先に入って」

 クッションを抱えて、毛足の長いラグの上でごろごろ寝転がりながら引き戸の向こうを眺める。廊下と一体化したキッチンでは有川が食器を洗っていて、まだ長袖のこの季節に腕まくりした筋肉がまぶしい。まさか、ちんこ以外の男のパーツにこんなに見とれる日が来るとは。
 元々炊飯器だけは使ってたらしいけど、ほとんど自炊なんかしない有川の部屋には最低限の食器しかない。俺らがコンビニで食いもんを買ってきて入り浸ってた頃には、皿どころかコップすら洗ってるとこも見たことがなかった。
 そんなレアな有川を眺めながら、恋人と一緒に暮らすってこんな感じかなあ、なんて思う。そこは女子で想像しろよ、って自分でも思うけど。こいつとの同棲しか考えられないとか想像力がなさすぎる。

「七瀬ー? そこで寝るなよ?」
「んー」

 別に寝てたわけじゃないけど。もそもそと起き上がって、ちょっとこっちを見ただけでまた視線を手元に戻した有川の背後に近寄る。衝動的に後ろから抱きつきたくなるのをぐっとこらえて、腰の後ろ辺りに斜めに付いてる謎のジッパーに指をかけて引っ張った。

「何やってんの。遊んでないで早く風呂入れって」
「着替え貸して」
「ん? そっか、わり。すぐ終わるしちょっと待って」
「おー」

 泊まる時に俺が持ってくるのは、手土産の他は替えの下着だけだ。いつもなら裸で風呂から出てきて、やり終わった後にパジャマ代わりの有川の部屋着を着せてもらうけど、今日は何もできないから裸はよろしくない。
 手持ち無沙汰で、有川の服の端をつまんで、多分ただの飾りなんだろう謎ジッパーを開けたり閉めたりしながら待つ。開けてもポケットがあるわけじゃなくて違う色の生地が見えるだけとか、ほんと謎仕様だ。

 手を拭いた有川が、遊んでた俺の手首を後ろ手でつかんで、自分の腰にまわすように引っ張った。

「はい、お待たせ」
「別に待ってねーし。つか、着替え!」

 自然と後ろから抱きつくような形になった俺は、軽くつかまれてただけの有川の手を振りほどいて距離を取る。
 前はセックスの最中だけだったのに、最近の有川は人目がないとなぜか常にこんな感じだ。かろうじて口調は切り替えられてる気はするけど、やってる時とそうじゃない時の境目が曖昧で返しに困る。
 こっちを向いた有川が、正面から俺を抱きしめて頭の横に唇を押し当ててきた。

「……有川、着替えまだ?」
「ん、わり。七瀬の髪、やわらかくてつい触りたくなんだよ」

 立ったまま腰を抱かれて、前髪を手ぐしでとかされながら額や頬にもキスされる。
 つかこいつ、我慢してる俺の努力を何だと思ってんだ。今だけは有川の距離感がつらい。唇も避けてるしエロい触り方じゃないはずなのに、挿れてほしくてもう息が熱い。着替えもシャワーも、全部後回しでいい。

「……有川」
「駄目」

 いや俺まだ何も言ってないんですけど。
 つか要求してんのが着替えからちんこにすり替わったことに気付く有川がマジで怖い。つか駄目とか言うなら最初っから俺に触んな。

「……一回くらい大丈夫、だし」
「あー。じゃあ、どんな感じか見せて」
「ん」

 気のせいだって言ってもらえるんじゃないか、とか。流れで挿れてもらえるんじゃないか、とか。ちょっとだけ期待しながらそのまま後ろを向いて、デニムとボクサーブリーフをまとめて下げる。壁に手をついて少し尻を突き出すと、有川が足元にしゃがんで俺の尻たぶを左右に開いた。自分でやっておきながら、ただ観察されてるだけなのが妙に恥ずかしくなって、思わず膝をこすり合わせてしまう。

「んー? 言われてみれば、ちょっとだけ縦長? に見えるかもな」

 マジか。第三者の証言もあるとちょっと凹む。けど、今はそれはいい。

「ちょっとだけなら、別にいいし」
「駄目だって。ビッチみたいな穴になりたくないんだろ?」

 立ち上がって俺を抱き込むように後ろから腕をまわした有川に、太ももの真ん中で止まってたデニムとボクサーブリーフを引き上げられる。すっかりやる気の俺のちんこを完全に無視して丁寧に服の中にしまう、その動作だけでも尻の穴がうずいた。

「……くそ、なんで。お前も縦長になったら嫌なわけ?」
「んー、どっちでも七瀬ならいいけど。まあ、俺のちんこでそうなったんだと思ったらたぎるよな」
「何だそれ、変態かよ」

 あんなに嫌だった『縦割れアナル』も、そんな言い方されたら悪くない気がしてくるから不思議だ。後ろから当たる有川のちんこに、思わず尻をこすり付ける。

「……七瀬、我慢できない?」
「お前だってそれ、我慢できんのかよ」

 さっきから一人で達観したようなことばっか繰り返してるけど、だぼっとした部屋着の上からでもはっきり分かるくらい、自分のちんこだってガチガチになってるくせに。俺はもう一度確認するように、デニム越しの尻の割れ目で有川のちんこを撫で上げた。

「……なあ。どうしてほしいか、とか、今日は聞かねえの?」



 何が引き金になったのか、有川はタガが外れたみたいに服を脱ぎ捨てた。負けじと俺も全裸になって、ベッドの上であぐらを組んだ有川に向かい合わせでまたがる。首に両腕を軽くまわしてつかまると、腰を左腕で抱き寄せられ、勃ち上がったちんこ同士がぶつかって先走りがこぼれ落ちた。そのちんこを二本まとめて有川が握って、じらしもせずにカリの辺りをこすり上げる。

「ぁ、なんでっ。放せよ」

 有川のちんこで、中でイきたい。
 むき出しの裏筋同士がこすれ合い、人さし指が俺の先端で円をえがく。二人分の先走りがぐちゅぐちゅと混じり合って、中でイきたいのに、自然に揺れてしまう腰を止められない。身体の奥がくすぶるのを感じながらも、声を殺したまま有川の指の動きにとらわれていると、絞り出すように名前を呼ばれた。

「七瀬」

 何だよ、なんでお前までそんな我慢してんだよ。
 完全にスイッチが入った有川の切れ長の目には、いつもと違って余裕がない。だったら、俺がいいって言ってんだから、早く好きなように挿れたらいいのに。
 見上げてくる有川の唇に、挑むように唇を重ねてむさぼり合う。唾液の絡み合う音なのか先走りの混じり合う音なのか、境目がもう分からない水音に耳から犯される。それなのに、尻の穴は存在を忘れられたみたいに触ってすらもらえない。放置された穴がちんこ欲しがってることにくらい、絶対気付いてるはずなのに。
 少しでも刺激が欲しくて、抑えきれず尻の穴を有川のタマにこすり付ける。

「んっ、ん……なあ」
「駄目、だって」
「あしたから、我慢するしっ」
「七瀬、それっ、あしたも我慢できない人が、言うやつだから」
「……先、っぽだけ」
「は……っ、くくっ、それは井田がっ、言いそうなやつ」

 有川は、俺の身体を支える左手で、なだめるように腰の後ろをトントンとたたいた。何がいけなかったのか、こいつを冷静にさせてしまったらしい。二人分のちんこをつかんだ右手の動きも口調も優しくなる。

「七瀬、駄目だって。いい子だから今日は念のためこっちで我慢して? 俺も挿れたいけど、七瀬の身体大事にしたいし」
「……っ、よく言う」

 ちんこを井田や宇山に突っ込まれるのを、有川に止められることなんてない。むしろあおってくるくらいのくせに、なんで今だけそんなこと言うんだ。
 うわごとだと思っていつも聞き流されるのをいいことに、最近は時々が、これくらいの刺激じゃ言えない。でも、大事にされてると思うと嬉しくて。輪姦まわされるのが大好きなくせに、使い捨ての穴扱いされてないのが嬉しくて、俺は思わず口を開いた。

「有川……、
「ん、七瀬、これ好き?」

 違うけど。有川の都合のいいように受け取ればいい。
 いつもは俺の前立腺をこすり上げる有川のちんこが、有川の大きな手のひらの中で、俺の裏筋を追い詰める。

「好き」

 キスの合間にほとんど音にならない声でささやくと、俺の腰を抱く有川の腕に力がこもった。緩やかになってた手の動きが、まただんだんと早くなる。張り詰めた裏筋同士をこすり合わせてほぼ同時に吐き出されたちんこ汁が、有川の節くれ立った指の内側と外側で混じり合う。

「七瀬。……俺も」

 その手からこぼれ落ちたちんこ汁を、有川が俺の乳首の上でさらに混ぜ合わせる。そのまま優しく深く口づけられて、俺はもう何も出ないのにその刺激だけでまた軽くイってしまった。

 ◇

 週が明けて。井田経由で一部始終を聞いてやって来た宇山に、なぜか俺は説教を食らっている。いわく、井田がまねしたがるからこれ以上変なを覚えるな、とかなんとか。
 いやいやいや、技って何だよ。そんなん知らねえよ。大体、俺にプライバシーはねえのか。
 なんかもうどうでもいいけど、どうやらその一部始終には『縦割れアナル』どころか俺が乳首でイったとこまでが含まれてたらしい。情報の出元は有川だ。つか、だったらなんで井田に告げ口した有川じゃなくて俺が怒られてんだ。そもそも、俺の乳首を念入りに開発したのは宇山であって、宇山にだけは文句を言われる筋合いがない。

 結局、三人がかりで確認された俺の穴は『ちゃんとアスタリスクの形で処女っぽくてエロい認定』を頂いた。
 ……いや、まあ、それはよかった。よかったんだけど。
 その勢いで感触も確認するって言いだした井田と宇山にちんこを突っ込まれてみたら、その名目のせいなのかかつてないほど優しく優しくじらされるし。物足りなさすぎて最終的に有川に「激しく抱いてほしい」なんて懇願する破目になるし。それなのに、4Pやっていいのは週末のみ、のルールに従って有川には挿れてもらえないし。そしたら自分でもびっくりするくらい割と簡単にまた乳首でイかされるし。
 ──え、何これ。嘘だろ。
 愕然がくぜんとする俺をよそに、技だとか言ってた宇山は「俺には絶対無理だから!」なんてフラグを立てて騒ぎながら井田に押し倒されて、有川は相変わらずそれを助けもせず笑って見ていて。
 俺はもはや日常になったそんな風景を他人事ひとごとみたいに眺めながら、こいつらほんと無駄に仲いいよなあ、なんて、今さらながらに思ったのだった。

 誰にも言うつもりはないけど、まあ、なんだかんだで今日も幸せだ。
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