あんなこと、こんなこと

近江こうへい

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【番外編】

5.【大学三年生/冬】宇山と初めてのラブホ ③

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「大丈夫かー? 茶、飲める?」
「んー、ちょっと力入んないだけー。それちょうだい」

 でかいベッドの真ん中に転がってる俺に、井田が冷えたペットボトルのキャップをゆるめて渡してくれる。
 無理な体勢になったり滑らないように踏ん張ったり、中に出されたちんこ汁をその場で出すとこを見られたり、肉体的にも精神的にもさすがに疲れた。
 はあ……、つかもーどうすんのこれ。生がすごすぎてやばい。薄皮一枚ないだけであんな気持ちいいとかどういうこと。後が面倒だから有川んちでは絶対やりたくないけど。
 上半身を起こして一口ひとくちだけ紅茶を飲んだ俺は、キャップを閉めたペットボトルを左頬の下に敷きながら、またベッドに倒れ込んだ。

「はー、冷た。気持ちいい」

 俺と同じホテルのバスローブを着た井田も、自分の腕を枕にして俺と向かい合わせに寝転がる。俺は、目の前にある井田の短くなった黒髪に右手を伸ばした。

「これ、真っ黒ってわけじゃないんだ?」
「あー、地毛がこんな色なんだよね」

 俺が知ってるだけでも、井田はスパイラルパーマをかけたり前髪の分け目を変えたり、髪色だって今までに何度も変えてきた。だけど大体は前髪長めの刈り上げツーブロックで明るめの色だったし、いつも俺とおそろいっぽかったのに。もう、どこにもその名残がない。

「ふーん。短いのもかっこいいね」
「お、さんきゅ。結構頭寒いけどな。つか、それ今?」
「井田が勝手なことばっかするから言うの忘れてたんですー。あーあ、でも俺もそろそろ髪切りに行かなきゃなー」
「もったいねえな。お前それ似合ってんのに」
「うー……就活とか考えたくない。える」

 左頬のペットボトルを胸に抱え込んで枕に突っ伏すと、井田が笑いながら俺の後頭部をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。

「な。この前受験終わったばっかな気がすんのに、もう次とかさー」
「ほんとそれ。……回数減るかなあ」
「ストレス解消で増えるんじゃね?」
「そう? でもそういう時ってさくさく抜きたいじゃん。準備も前戯もめんどくさいし」

 けど、今さら一人でオナニーとかも想像できないな。やばい。
 そんなことを思ってたら、後頭部から井田の手がそっと離れて、ベッドの上に座り直す気配がした。

「なあ宇山」
「んー?」
「好き」
「え、何。急にどしたの」
「いやいやいや、別に急じゃないじゃん。なあ宇山、ちょっと俺のこと好きって言ってみ?」

 真剣な声の井田にびっくりして思わず起き上がると、俺の隣でぐいぐいせまってくるのは、もういつもどおりの井田だった。このやり取り自体も、別に初めてってわけじゃない。

「だから、俺も好きだってば」
「……んー? なんか違う。もう一回」
「ええー。なんで俺ダメ出しされてんの」

 有川と七瀬をはたで見てて、俺だってうらやましいと思う。仲のいい友達だと思われてるんだとしても、母親まで仲良しとかうちじゃ考えらんない。
 でも、俺らのは多分ああいう関係に憧れてるだけだし、流されてうっかり恋人になったりするのは絶対駄目なやつだ。大体、そんなことしてて、いつやって来るか分からない女の子とのチャンスをのがすわけにもいかない。

「つか俺さー、井田のことも気持ちいいことも大好きだけど、恋愛とかそういう感じじゃないんだよね」
「ひでえ。うわーマジかー。えー、俺またフラれてんの?」
「だってお前も多分そうなんじゃん?」
「あー……。うーん、そっかー。そっかそっか」

 井田は俺の手からペットボトルを抜き取ってサイドテーブルに置くと、おもむろに左手を伸ばしてきて俺の右頬に触れた。

「じゃあさ。そういうの抜きでいいからキスさせて?」
「は? え、なんで」

 頬に触れたまま、井田の親指が俺の下唇を縦に撫でる。初めて俺の尻に井田のちんこが入った日、一度だけ井田の唇が触れたとこ。思わずきゅっと口を結んだ。

「いいじゃん。くち開けて。今日誕生日だし」

 ええー……、ほんと誕生日は何でもありだな。
 相変わらず意味の分からない井田の詭弁きべん。もうツッコむのも面倒で薄く口を開くと、少しだけ出した舌が井田の親指に触れた。ボディソープの香りがするな、と思ったら、井田のきれいな顔が近づいてきて、俺の舌先を遠慮がちに舐めて離れた。

「やだ?」
「……ではない、けどっ、ん」

 今度こそ井田の唇が俺の唇にしっかりと重なって、開いた唇の間では舌先が触れ合う。俺は差し出した舌をどうしたらいいか分からなくて、力を抜いて全部を井田にまかせた。
 唇をふさがれたまま肩と腰を抱きしめられて、ゆっくりと後ろに倒される。俺も井田の腰に手をまわすと、股の間にねじ込まれた井田の太ももが、はだけたバスローブをさらに広げながら意図的に俺のちんこを押し上げた。

「ははっ。復活はえーな」
「だ、って、こんなのしょーがないじゃん」
「……宇山。来年とかその次とかさ、就職しても誕生日にはまた来ような」
「ん」

 そうは言っても、俺たちは変わっていく。二年から始まったゼミだって、井田と俺、七瀬、有川、で別れた。それぞれの興味の対象が違えば、仲がいいからなんて理由で同じゼミに入ったりしないのは当然で。
 就活の始まり。モラトリアムの終わり。井田は「来年も」って言ったけど、いつまでも変わらず四人で遊んでられるわけじゃない。それと同じように、俺と井田だってこんなのいつまでも続けられるわけがないよね。
 だからせめて、いつかこんな関係が終わる時には井田の親友に戻りたい。

 ◇

 結局。買ってあったサンドイッチなんて食べる暇もなく、休憩を挟みながらだけど四回も井田に中出しされてしまった……。恋人にするみたいに甘やかされて、いっぱいキスされて、一回一回にすっげえ時間かけられて。俺は声もちんこ汁ももう出ないってくらいカッスカスだ。
 さすが井田というか、これ、部屋代の元は取れたんじゃないかな。

 ラブホを出ると外はすっかり暗くなっていて、建物は知らない間にライトアップされていた。昼間よりも冷えた空気に、まだ力が入らない火照ほてった身体が冷やされる。髪型のせいか、来た時と違って指を絡めるようにつながれた手のせいか、隣を歩く井田がいつもとはどこか違う人に思えた。
 なんでかな。嫌ってほど一緒にいたのに、まだ帰りたくない。
 絡めた指を握りしめると、駅に向かってゆっくり歩いていた井田が立ち止まって俺を見た。

「あ、そうだ宇山」
「え」
「今度出かける時さー、プラグ挿れてきてよ。一番最初に使ってたやつ」
「……ぅん?」
「いや、あれって本当はお散歩用なんだって。一回、正しい用途で使ってみたくね?」
「……は? はあっ!?」

 ええー……、何だろ。正しい正しくないで言ったら、それ、俺の知ってるお散歩と違う気がする。
 ていうか、井田は相変わらず井田だった。

「つかそれ、どこ情報なわけ?」
「ん? 七瀬に決まってんじゃん。あと、この前七瀬とお散歩してみた、って有川にすんげー自慢された」

 いわく、使ったのはまだ他に何種類かあるお散歩用で、俺に譲ったのとは別のやつだとか。いやもう、そんなどうでもいいこと無駄にいい笑顔で言われても困りますー。つか、ほんっと七瀬は何やってくれてんの。つかなんで有川は毎回毎回井田に報告とかすんの。なんで俺の周りはこんなお説教案件ばっか転がってんのかな。
 あーもう困る。だけど本当は、やっぱりそれが全然嫌じゃない自分自身に一番困る。

「はー……。あんの馬鹿七瀬ぇー……」

 だけど、人のことなんて言えないよね。井田がこんな奴でもつないだ手を離したくないって思うとか。こんなに困ってるのに三人の誰とも離れたくないって思うとか。
 結局は俺も、どうしようもない馬鹿なのかもしれない。
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