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【番外編】

6.【大学四年生/秋】有川と幸せ同棲計画 ①

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※有川視点※
──────────────────

「なあ、それ気持ちいい?」

 俺のベッドに左手で頬杖をついた七瀬ななせが、すぐ隣に浅く腰掛けている井田いだの股間に向かって話しかけた。じっと見つめている先にある井田のちんこは、床に座って股に顔をうずめている宇山うやまの口の中だ。

「おー、すげえ気持ちいい。何? お前もくわえてくれんの?」
「するかよ。そんなん無理に決まってんだろ」

 からかう井田に七瀬はわざとらしく機嫌を悪くして、ベッドにもたれたまま自分の右肩越しに俺をにらみつけた。俺が一番最後にシャワーを浴びた後、まだのんびりと麦茶なんかを飲んでるのがご不満らしい。身体の準備はできてるのにボクサーブリーフをはき直して、七瀬はさっきからずっと俺を待っている。 
 七瀬の「無理」の言外に、「有川ありかわ以外のは」が付くのを俺たちは知ってる。何年っても、七瀬が生でれさせるのが俺のちんこだけだっていうことも。
 なんだかんだで、いっときの遊びだったはずのこのおかしな関係に、俺たちはもう三年以上もどっぷりハマったままだ。

 俺がベッドに座ると、七瀬は隣の宇山と競うように俺のちんこを舐め始めた。一生懸命舌を動かしては、俺の反応を気にして時々見上げてくる七瀬がかわいい。うまくなくても、七瀬がしてくれるなら何でも気持ちがいい。だけど、こんなに穏やかな時間は本当に久しぶりで、どうしても興奮よりもいとしさが勝ってしまう。思わず笑って頭を撫でたら、それがまた不満だったのか七瀬は口をとがらせた。

「……何だよ」
「七瀬、交代」

 足元の七瀬を抱き上げてベッドに寝かせ、濡れて色の濃くなったボクサーブリーフを脱がせる。

「ちょっ、それ駄目だっつってんじゃん」

 本当に駄目なら蹴飛ばせばいいのに、口先だけのかわいい抵抗。三年前に初めて見た時から変わらないピンク色のちんこは、俺のちんこをくわえてただけでもう先走りをこぼしている。その先端を舐めながら視線を上げると、薄く口を開いて浅く息をしている七瀬が、上気した目で俺をじっと見つめていた。

「後でいっぱい中イキさせてあげるから、安心して一回イっときな?」

 中でイきたがってることも、俺のちんこをくわえるのが好きなことも知ってる。だけど俺はそれに気付かないふりをして、いつもより濃い七瀬のちんこ汁を舌の上で味わった。この味を知ってるのは俺だけだ。そんな、独占欲にも似た満足感と一緒に。

 ◇

 九月になってやっと七瀬に内定が出たのを受けて、『童貞卒業三周年記念、兼、就活おつかれ内定おめでとう4P』をしよう、と言い出したのは井田だ。
 俺は企業には就職しない道を選び、井田と宇山には七月の早いうちに内定が出た。そんな中、七瀬だけは最終面接で落とされ続けて、体力も精神力もすり減らして。家ではそれなりに愚痴ってたらしいけど、それでも相談どころか八つ当たりすらしてくれない七瀬を、俺たちはただ見守るしかなかった。

 こんなふうに集まれたのは本当に久しぶりだ。
 やる回数もここ二か月は激減してたし、やれたとしても七瀬の要求どおりに挿れて吐き出させるだけの行為は、ほとんどアナニーの手伝いみたいなもんだった。そのブランクの穴埋めだと思えば、三人でこれでもかってくらい丁寧に輪姦まわすことになったのも仕方がない。
 ……とはいえ、いくら優しくしたってさすがに一人二回ずつはやりすぎた。七瀬が寝落ちしなかったらまだやってたかもしれない。
 俺の腕の中で爆睡中の七瀬は、井田と宇山が風呂から出てきてポテチや麦茶を並べ始めても、まだ全然起きる気配がない。たくさん中イキさせる約束は守れたものの、結果的に、疲れがたまってたはずの身体に無理をさせてしまった。そんな七瀬を眺めながら、ローテーブルに頬杖をついた井田がつぶやいた。

「……なんで俺ら、四人もいてストッパーが一人もいねーの」
「それな」
「つかなんで七瀬も嫌がんねえの」
「嫌じゃねえからだろ」
「つか有川が止めなきゃ誰が止めんだよ」
「無理言うなって」

 そんな、最後の良心みたいなのを求められても困る。今日に備えてゆうべだって多めに抜いておいたのに、全身で感じて俺の名前を呼ぶ七瀬にあっさりタガを外されたくらいだ。
 大体、俺らが暴走しがちなことなんて最初から分かってた。だから日数や人数を制限するルールを作ったのに、そのルールで一度にやっていい回数まで決めてなかったのは全員のミスだろ。
 それにしたって、七瀬もこいつらも俺を過大評価しすぎだと思う。井田と宇山が自由すぎるからなんとなく仕切るような立ち回りになるだけだし、七瀬についてはつい放っとけなくて手を出してしまうだけだ。無理してるつもりはまったくないけど、そもそも俺は別に大人でもなけりゃ世話好きでもない。そんなの、うちの親とか弟が聞いたら笑い転げそうだ。

 しばらく待ってもひっついたまま離れてくれない七瀬に、俺はもうシャワーをあきらめた。というか、俺もまだ離れがたい。そうは言ってもいつまでもこのままでいるわけにもいかず、一旦七瀬には俺の代わりに枕を抱かせる。お互いの身体についたローションとちんこ汁をウェットティッシュで拭き取って、とりあえず俺だけでも下をはいた。それから、七瀬の尻の穴が縦長になってないか確認して、無理をさせて赤くなった穴の周りをオイルで保湿する。

「んっ……んん」
「あ、起きた?」

 枕を抱いたまま横を向いて寝ている七瀬の顔を、宇山がのぞき込む。うっすらと目を開けてゆっくりと周りを見回した七瀬は、枕から手を離して俺に向かってのろのろと両腕を伸ばした。
 狭いベッドの上、七瀬の隣に身体をねじ込んで抱き寄せてやると、戻ってきた俺の胸の上で頭の置き場を探すように何度か身じろぐ。そうして、最終的に俺の腕の付け根に頬をすり付けて、また静かに寝息を立て始めた。

「……」
「……」
「……」

 いやもう無理だろ。かわいすぎてつらい。

「あーっ、俺も宇山といちゃいちゃしたい!!」
「馬鹿! しーっ、しーっ!」

 宇山に口をふさがれた井田が、それはそれで嬉しそうにその手をつかんで抱き寄せる。静かに暴れる宇山をがっちり捕獲した井田は満足そうだ。

「うーわ、何それ何それ。それマジで寝てんの?」
「ていうか、これで起きないとか逆に心配になるんだけど」

 宇山に心配された当の本人は、二人がわちゃわちゃやってても気付かずに、起きてる時よりもずっと幼い表情かおで笑みを浮かべて寝ている。ついさっきまで俺らに輪姦まわされてあんなにあえいでたなんて信じられないくらい穏やかだ。
 まあなんていうか。七瀬が無防備すぎるのも、俺の前でだけなら何の問題もない。むしろ、普段からこいつを甘やかして甘やかして、俺がいないと駄目な身体にしてやりたい。本当は、俺なんかがいなくても大丈夫な、ちゃんとした大人だって分かってるけど。
 俺は少しやせた七瀬の身体をしっかり抱き寄せると、エアコンの風が直接当たらないように夏掛けを肩まで引き上げた。

「そういえばさー、お前この部屋どうすんの? 引っ越す?」
「いや? 別に引っ越す理由もねえし」
「ええー、もっと広くて壁とか分厚ぶあついとこに引っ越そうよ」
「お、それな。そんでベッドもでっかいやつにするとかさ」
「アホか。そんな金ねえよ」

 相変わらず勝手なことを言ってくる二人も、一年目は今のまま実家暮らしの予定だ。井田はとにかく金をめたいらしい。

「つか俺さー、卒業したらお前ら絶対同棲すると思ってたんだけど」
「あ、俺も俺も」
「……同棲って。七瀬だって実家だし、別に俺ら付き合ってるわけでもねえのに」
「はあ? うっそ、マジで?」
「え、隠してるとかじゃなくて?」
「だから付き合ってねえって」
「……ええー、で付き合ってないとか説得力なさすぎ……」

 俺にひっついて離れない七瀬を見て、宇山がつぶやいた。なんだかんだで井田の股の間に抱き込まれたままの宇山にもまったく説得力はない。
 まあ、どんどん過保護になって、七瀬を抱く時とそれ以外とで切り替えができなくなってる自覚はある。七瀬と一緒に暮らせる部屋に引っ越すことも、考えなかったと言えば嘘になる。
 うちに来ても、泊まったりせずに作業みたいなセックスだけして帰るようになった就活中。七瀬の気配だけが残る部屋で、卒業と同時に終わるかもしれない関係を想像しなかったわけじゃない。いっそ同棲でもして七瀬をつなぎ留めたいと思わなかったわけじゃない。
 だけど、そんなのは七瀬の気持ちや都合を無視した俺のわがままだ。同棲なんて、そんなに簡単なことでもない。

「つか仮に付き合ってたとして、一緒に暮らすとかエツコさん……七瀬の親とかに何て説明すんだよ」
「あー、まあ、確かにな」

 俺の『普通』の感覚が世の中とずれてる自覚はある。中高一貫の男子校で育ったせいで、なんていうか、男同士のいちゃいちゃを見慣れすぎててまったくそこに抵抗がないんだよな。
 だけどさすがに、七瀬の自慢をよそでしたらまずいってことは分かってる。共学出身でゲイでもないはずの井田と宇山が、この状況をあっさり受け入れてることの方がおかしい、ってことも分かってる。
 勤務先が近くて実家を出る理由もないのに、給料の少ない一年目にわざわざ家賃を払って俺と暮らすとか、エツコさんが納得するような説明なんてできない。そもそも、七瀬とは両想いだとは思うけど、親にバレるリスクを冒してまで俺と同棲したいかどうかは分からない。聞いてみるつもりもない。下手につついて、「じゃあもうやめる」なんて言われたらやぶ蛇だし。
 だけど、こいつらにとってこの関係は、何を確認するまでもなく卒業してからも当たり前に続くものなんだって思ったら、思わず笑ってしまった。だったら、七瀬をつなぎ留めるためにわざわざ気持ちを確認する、なんて危ない橋を渡る必要もない。俺はその結論に安心して、それ以上深く考えるのをやめてしまった。それがただの逃げだってことに気付きもせずに。
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