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【こぼれ話】それぞれの、あんなこと、こんなこと

8.【七瀬・社会人二年目/秋】ちんちんかもかも ④

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 のろのろとあおむけに寝返りを打って息を整えながら、ベッドの端に座ってゴムを外している井田と宇山の姿をぼんやりと眺める。
 交替する遊びをやめることにした井田はあれからすぐにイって、後を有川にまかせると俺の身体から離れた。また宇山のしっぽに手を伸ばしてるとこを見ると、あっちもまだこれからやるつもりなんだろう。
 思わず笑って視線を戻したら、俺の隣では有川がやっとゴムを着けて、ちんこにローションを垂らしてるところだった。

 すっかり存在を忘れてたショートパンツのジッパーを有川に下げられると、ちんことタマが外気に触れてひんやりする。もうなんだかよく分からない汁でびしょびしょだけど、ちっともえる気配がない。

「七瀬、俺のちんこが入るとこ、ちゃんと見てて?」
「ん……っ」

 元々ショートパンツの後ろ側に開いている、アーモンド形の穴。あおむけに寝て両足を開くとマジで防御力ゼロのそこから、有川のちんこが俺の尻の穴にあてがわれた。
 何回やっても、この、有川に入り口を押し拡げられる瞬間が好きだ。

「は、あぁ、ぁ」
「気持ちいい?」
「ん、気持ちい。これ、好き」

 有川が両手の親指で尻たぶを割り開いたまま、ちんこで浅い所をゆっくりと出入りする。すっかり井田と宇山の形になじんだそこに、もう一度自分の形を思い出させる作業みたいだ。

「ほら、抜く時にフチが俺の形にめくれてんの、自分で分かる?」
「ん……っ」
「七瀬の中、すごく気持ちいい」
「ん、俺も、俺も気持ちいい……っ」

 有川の独占欲が気持ちいい。俺が輪姦まわされてるとこを見るのが大好きな変態のくせに、こんなふうに自己主張してくるとかどういうこった。
 俺の身体は、有川が作ってくれる飯でできている。着てる服だって、家にいる時は有川に借りた部屋着ばっかりだ。そもそも、休みの日にはできるだけ外に出たくない。でかいクローゼットの中に俺の机もあるにはあるけど、仕事で必要な資格を取り終わってからは、俺の居場所のほとんどはリビングのソファの上──というか有川の股の間だ。それなのに。

「七瀬、自分でお尻振っちゃってるよ?」
「ん……っ、だって気持ちいい。駄目、ありかわぁ……っ」
「かわいい七瀬。大好きだよ」

 乳首の先をつまんだまま、牙をむいた有川が触れるだけのキスをする。俺の身体はそれだけでも無意識にびくびくと跳ねて、首につけたままの鈴がちりちりと小さく音を立てた。

 ◇

 翌日。遅く目が覚めてトイレに行った帰り、リビングを通った瞬間に俺は膝から崩れ落ちそうになった。
 視界の隅に飛び込んできたのは、アナルビーズの付いた黒猫のしっぽである。日当たりのいい場所に日向ぼっこよろしく部屋干しされていたそれを、思わず二度見した俺は悪くない。
 ああー、……だよな。しっぽのとこだけなら、ぬいぐるみと一緒だしな。シリコンと違って、洗って拭いとけばいいってもんじゃないよな。
 アナニー歴長かったから知ってるけど、正気でこういうのを洗ったり片付けたりっていう作業は、なんというか、なんとも言えないアレである。
 しっぽにはローションに混じっていろんな体液だってついてただろうし、知らないところで有川がそれを一人で洗ってたかと思うと居たたまれない。敷きパッドや下着を洗ってもらうのとは、また訳が違う。
 ……よし、俺は何も見なかった。
 有川は日曜だっていうのに仕事中みたいだし、忘れて一旦寝直そう。そう思ったところへ、タイミング悪く仕事部屋から出てきた有川と目が合った。

「おはよう七瀬。昼飯まだだけど、もう起きる?」
「あー……、えっと」
「ん? こっちおいで?」

 人の気を知ってか知らずか、有川がいつもの調子で俺を呼ぶ。
 これは完全に甘やかしモードに入ってるな。まあ、俺も今日は甘やかされたい気分だし、言うことを聞いてやらないこともない。ソファに座った有川の膝の上に横向きに座って、収まりのいい位置を探す。
 つか、ちょっと確認しときたいこともあるし。

「なあ。昨日きのうさあ、お前猫派だっつってたじゃん。俺あれ初耳なんだけど。今すぐとかじゃなくても、もしかして猫とか飼いたかったりすんの?」
「あー、好きだけど見てるだけでいいかな」
「それ、我慢とかしてんじゃなくて? 遠慮してるとかだったら……」
「してないよ。七瀬以外にそそぐ愛情なんかないし」
「……ふーん」

 駄目だ、喜ぶな俺。
 欲しい答えをもらえてほっとするとかどうなんだ。有川を思いやってるふりなんかして最低だろ。本当は、有川が俺の前で他の誰かを大事にしてるところなんて、相手が猫でも見たくない。なんなら、丁寧に洗われたであろうしっぽにすら嫉妬できるし。
 つか、多分これ、俺のアホみたいな嫉妬に気付いてるよな。全部言わなくても分かってくれるのは楽だけど、こんな時は困る。

「っふ。眉間、またしわ寄ってる。じゃあ、猫の分まで七瀬がずっと俺のそばにいてくれる? もれなくうまい飯食わせてやれるけど」

 それなのに、当たり前みたいに手ぐしで寝癖を直されると、なんだか幸せで嬉しくて、身体中がぽかぽかしてくる。
 ああ、駄目だ。そうやって甘やかすから、自己嫌悪に陥ることすらできない。
 つか、なんで俺は餌で釣れるとか思われてんだ。

「……アホか。飯なんかとっくに毎日すっげえうまいわ。大体、そんなんなくてもお前のこと好きだし、毎日ずっとそばにいるじゃん」
「そっか、そうだった。ごめんね?」
「もう忘れんなよ」
「大丈夫。一度も忘れたことないから」

 くっそ。結局いいように転がされて「好き」って言わされただけの気もするな!
 まあ、だけど本当なら、我慢とか無理とかしてくれなくてもちゃんと有川のことが好きなんだ、ってもっと伝えた方がいいのかもしれない。もうちょっと自立だってした方がいいのかもしれない。
 多分、有川のために俺ができることなんて、たかが知れてるけど。

「……昼飯、炒飯チャーハンでよかったら俺が作る」
「いいよ。じゃあ一緒に作ろっか」

 もう牙の生えていない有川に、ゆっくりと、優しく口づけられる。甘やかされて、大事にされて、まるで陽だまりにいるみたいに。

 いつか有川に飼われる猫は、きっと世界一幸せに違いない。
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