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【こぼれ話】それぞれの、あんなこと、こんなこと

9.【井田・社会人三年目/秋~翌夏】愛の言霊 ①

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・番外編『井田とトコロテンの日』の三か月ほど後~翌夏
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宇山うやまー、そっちちゃんと持ってて」
「あっ、ちょ、待って」
「ちゃんと穴に合わせた? れるよ?」
「え、早い早い。もうちょっとゆっくり。俺こんなの初めてなんだってば」

 十一月半ばの晴れた土曜日に、宇山が実家を出て一人暮らしを始めた。新居となったのは、閑静な住宅街にある1Kの新築二階建てアパートだ。

「ははっ! 言い方エッロ!」
「あーもう、揺らすなって! せっかくこっち合わせてたのにずれちゃったじゃん!」

 一人で大丈夫だとか言ってたけど、これは無理にでも手伝うことにして正解だった。このベッドだって、「組み立ては必ず二人以上で」って説明書に書いてあるのにマジでどうするつもりだったんだ。
 買うしかない家電はいいとして、家具まで全部、引っ越し費用を払ったつもりで買ってしまった宇山は、今朝の待ち合わせで最寄り駅にやってきた時も、普段と大差ない程度の荷物しか持ってなかった。
 差し当たって必要な服とかは宅配便で送るし、引っ越しトラックでの移動はない、って聞いてはいても、いろいろと準備が身軽すぎて心配になる。

 ともあれ、真新しい匂いがするだけの四角い空間が、ちゃんと人の暮らす部屋になっていく様には、自分が住むわけでもないのに心が躍った。俺のアドバイスで新築の傷や不具合のチェックも兼ねて掃除をするところから始まり、配達された洗濯機と冷蔵庫を業者に設置してもらっているうちに、なんだかんだで慌ただしく時間は過ぎる。
 ベッドや棚、ローテーブルなんかの新しい家具を二人で片っ端から開梱しては組み立てて、設置して、梱包材をまとめて縛って。休憩すら忘れて、最後にもう一度床を掃除し終わった時には、正午を回ってもう随分っていた。

「おー……。これが宇山の部屋かー」
「まだ実感ないけどねー」

 それでも、初めて入る宇山の部屋だと思えば感慨深い。最近はラブホに行くことも増えたけど、遊ぶといえば服を買いに行くか有川ありかわんちに集まるかで、お互いの家を行き来したことなんてなかったし。
 宇山はまだ何も敷いてない床に伸びて、そのそばに腰を下ろした俺を見上げた。疲れてるはずなのに、やけにすっきりした顔で笑う。

「……はあ。今日はありがと。井田いだってほんと器用っていうか、何でもできてすごいよね」

 まあ、ほとんどは慣れの問題な気がするけど、俺を時々あきれた目で見る宇山に褒められるのは気分がいい。学生の時に引っ越しのバイトも経験しておいてよかった。

「便利だろ。そろそろ俺と付き合いたくなったんじゃね?」
「なりませんー。つか、便利とか、そういう言い方やめろって。なんかやだ」

 宇山が起き上がって、ベッドを背もたれにして俺の隣に座る。

「わり。じゃあ、なんだろ……。俺がいると頼りになるだろ、ってのはどう?」
「それならいいけどー。つか、そこ言い換えたって付き合わないからね」
「なんだ。残念」

 まあ、ずっと一緒にいられるなら、恋人っていう肩書にこだわるつもりもないし別にいいんだけど。
 うつむいた宇山のこめかみ辺りで、俺より長めの前髪を留めているピンが光る。気になって手を伸ばすと、少しだけ熱を帯びた視線が揺れて俺を見た。
 これ、誘ってるよなあ……。
 まだカーテンがかかってないのは気になるけど、ここは二階だしベランダの壁で死角になってるはずだし。まあ、いっか。

「宇山、好き」
「……ん。知ってる」

 下からのぞき込みながら宇山の唇に軽くキスすると、すぐに離れた俺の唇を追いかけるように宇山が応えた。

「ん」

 それにまた俺が応えて、急におとなしくなった宇山の唇の感触を、そのまま何度もついばんで確かめる。
 まだカーテンもラグも布団もなくて、視界に入るやわらかい物って言ったらベッドのマットレスくらいか。他に音を吸収する物がないこんな空間は、わずかな音さえ拾って反響させる。外からは人が生活してる気配も伝わってはくるものの、今この九畳の部屋の中で聞こえるのは、静かに動いているエアコンと、情欲をあおるようなキスの音だけだ。

「っは、やばい井田。ちんこちそう」

 さっきまでだってずっと話し声が響いてたのに、今になってそれを気にするように、宇山が小さく笑いながら声を潜めた。

「俺も。つか、もう勃ってる」
「うわ、もう一回荷物来るのに」
「何来んの?」
「布団とカーテン、あと、ラグも」

 足りないと思ってた全部か。──ていうか。

「布団とか今日絶対いるやつじゃん」
「そうなんだよねー」
「……何時指定?」
「二時から四時」

 あと二十分弱か。軽く抜くだけなら充分かな。
 スマホを確認してからちらりと宇山を見ると、同じことを考えてそうな視線とぶつかる。方針は決まった。

「よし。急げ急げー」
「あはは。ちょ、笑わせんのナシ。えるって」
「嘘つけ。完勃かんだちじゃん」

 下を全部脱ぐ手間も惜しい。示し合わせたように二人とも片足はデニムに突っ込んだまま、ブリーフの穴からいそいそとちんこを取り出す。完勃ちのちんこは引っかかって出しにくいけど、こういう時の俺たちは「急がば回れ」という言葉を知らない。
 向き合って膝を立てた両足を絡めながら腰を引き寄せ、今度は舌も絡めてキスをする。お互いのちんこを右手でしごき合うと、いつもだったら何か実況でもしてるはずの宇山が小さくあえいだ。

「ぁ……っ、ん、ん」

 最初は笑いを含んでた二人分の吐息が、唇と唇の間でだんだんと熱を帯び始める。息遣いだけじゃなく、自分の心臓の音まで部屋中に反響してるって錯覚しそうだ。
 宇山は先走りで遊ぶように俺の先っぽをゆるくしごきながら、もう片方の手を自分の服の中に入れた。そのまま胸の辺りに触れたかと思うと、宇山のちんこは俺の手の中でぴくぴくと小さく跳ねる。
 ……エッロ。
 乳首でイくことを覚えた宇山は、俺とHする時にも時々こういうことをする。これはこれで公開オナニーみたいでそそられるけど、そんなので満足されても困る。
 気持ちいいし楽しいし、俺はエロいこと全般が大好きだ。それでも多分、性欲を満たすだけなら七瀬ななせで足りる。だけど、宇山が相手の時はもっと俺を意識してほしくて、ずっと肌に触れてたくて、ただイくだけじゃ物足りないのに。

「宇山、ちゃんと俺の手でイって?」
「ん」

 宇山の手から俺のちんこを取り返して、先走りで濡れたちんこの裏筋同士を合わせる。俺が二人分まとめてしごき始めると、宇山はおとなしく乳首からも手を離して、両手を後ろの床についた。

 宇山が好きだ。
 笑いのツボだけじゃなくていろんなものの好みが近くて、いつも自然体で一緒にいられるのは心地いい。駄目なとこを全部見せたって、あきれられるようなことをどんなにやったって、宇山はまだ俺をかっこいいとか思ってるし、それを隠す気は全然ないらしい。
 だけど、そうやってしっぽを振ってついてくるくらいには俺のことが好きなくせに、ちゃんとダメ出しだってできて、簡単には俺の言いなりになったりしない強さもある。
 かと思えば、快楽には弱くて流されて。それなのに俺ら以外には勃たないっていう身体は、まるで操でも立ててるみたいでいじらしくて。

 なんでこいつ、これでまだ俺と「付き合ってない」つもりなんだろ。
 確かに、昔は軽い気持ちで宇山にちんこをくわえさせたり尻の穴を狙ったりもしてた。自分の気持ちを確認するためとはいえ、女の子とラブホの手前まで行ってしまったこともあった。そういうのせいで俺に信用がない自覚はある。
 だけどそろそろ、相手が男でも女でも、絶対に宇山以外に心変わりしないって信じてくれたっていいのに。

「宇山……、好き。宇山は? 俺のこと好き?」
「……んん、好き。も、これ何回言わせんの」

 自発的に「好き」って言ってほしいと思うのは贅沢すぎんのかな。
 俺とこんな関係になったことを後悔してない、っていう言質げんちは取った。それに、宇山の言う「好き」の種類も俺と多分同じはずだし、今のままでも幸せではあるんだけど。

「あ……っ、イく」
「え、早っ」

 つか、宣言が遅い。とっさにちんこの先っぽを覆った瞬間、俺の指の隙間から宇山のちんこ汁があふれ出た。それなのに、宇山はダメ押しみたいに腰を細かく動かして、俺の両手の中でちんこの裏筋同士をこすり合わせてくる。うっかり俺もイってしまって手が離せない。
 やばい、パンツにつく。

「宇山、ティッシュ取ってティッシュ」
「え、ティッシュ? あっ、ない」
「俺のバッグ! 早く早く」

 始める前に確認しなかった俺も悪いけど、普通にあるべきものがこの部屋にはまだ何もない。まとめたちんこをつかんだまま、垂れてくるちんこ汁を両手ですくい上げながらあごで示すと、宇山が慌てて俺のバッグをたぐり寄せた。
 わたわたしながら結局ポケットティッシュを三個も使い切って、ようやくほっと息をつく。駅前で配ってるやつとかもらっとくもんだな。自分を褒めたたえつつ顔を上げると、静けさを取り戻した部屋に、俺と宇山の腹の音が同時に響いた。
 ……そういえば昼飯もまだだった。

「あー……、荷物届いたらさあ」

 視線が絡んで、その先の声が宇山と重なる。

「「とりあえず箱ティッシュ買いに行こっか」」

 分かる。やっぱ食い気よりそっちだよな。
 さっきまでのちょっといい感じだった空気はどこに行ったのか。それがツボにハマった宇山が、ちんこにティッシュを貼り付けたまま背中を丸めて笑い転げた。
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