わたしたちの庭

犬飼ハルノ

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それからの日々

 それからの日々は、まるで夢のようだった。

 ベルン夫人は一度もフィリスを叱ることなく、理解できるまで丁寧に説明をして間違いを正していく。
 学ぶのがとても楽しかった。

 夜、扉を施錠したらひとりだ。
 存分に復習が出来る。
 姿見を見ながら所作の稽古をしたり、机に向かって勉強したりと、自由に時間が使える。
 侍女たちはいつも、退室する前に夜食と飲み物をテーブルに用意してくれた。
 それらを有難く頂きながら、フィリスは寝る間を惜しんで学び続けた。



「たまには、野外授業というのも良いでしょう」

 天気の良い午後、窓の外を眺めたベルン夫人が突然言い出した。

「え……? でも、ベルン先生」

「フィリス様はまだブルーノ家の庭をご覧になっていないと聞きました。ここの庭はとても美しいのにもったいない。行きましょう。許可は取ってあります」

 侍女たちもにこにこと笑って外へ出るための着替えを手伝ってくれる。
 あれよあれよという間にフィリスはいつか窓から見た庭園の中に立っていた。


「ほんとうに……とても。とても、とても綺麗ですね」

「そうでしょう。奥方様から仕事の依頼を受けた時、そろそろ庭園の中にある果樹園の林檎の花が咲くころだと思っていたのです」

 綺麗に選定された常緑樹の回遊式庭園と広い芝、そして石畳の道と東屋、彫刻と噴水……。
 花壇には計画的に植えられた草花が生き生きと枝を伸ばし、色とりどり花が咲き乱れ、果樹園、菜園、薬草畑、そしてあのガラスの温室。

「見事でしょう。ブルーノ家代々の女主人たちが作った庭をグィネス様がさらに発展させたのです。おそらく国指折りの名園ですよ」

「そうなのですね……」

 温室の中へ入ると見た事のない植物ばかりで、フィリスは思わずその一つ一つに見とれてしまった。

「あら、ゴードン。久しぶりね」

 ふいにベルン夫人が声を上げた。

「はい。お久しぶりです。ベルン先生」

 振り返ると、そこにはいつかの朝声をかけてしまった庭師たちが立っていた。

「あ……」

「ようこそ、お嬢様。私は庭師のジェス・ゴードンと申します。この子は甥のイアンです」

「イアンです」

 部屋から見下ろした時、老人と孫だと勘違いしてた。

 彼らは歳が離れているが纏う雰囲気がとても似ていたから血縁なのだろうと思ったのだが、近くで見ると、ジェスは老人というほどには老いておらず、やせ型だが体つきも足取りもしっかりしている。

「そうだったのですか。甥御さん」

「ああ……。私は独り身でして。年の離れた妹がこの子を産んで間もなく亡くなってたので、奥方様のご厚意で一緒に暮らしています」

 あの朝のように、帽子をとって胸に当て頭を下げる少年は、小柄なフィリスよりもさらに小さい。
 十歳になるかならないかの少年は、弟を思い出させた。
 同じような年ごろだ。

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