わたしたちの庭

犬飼ハルノ

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イアン


「よろしくね、イアン。失礼だけど貴方は今、十歳くらいかしら」

「はい。もうすぐそうなります」

「そう。やはり私の弟と同い年なのね。……と言っても、私はずっと家族と別れて暮らしていたから、数えるくらいしか会っていないのだけど、身長が同じくらいだったから」

 フィリスの言葉に、イアンは顔を上げて目を瞬かせた。
 麦わら帽子と同じような色のくせっ毛と、オレンジ色のそばかすが散った顔に、ヘーゼルの瞳のどこか愛嬌のある顔立ち。
 やせっぽちの少年で、庭師の服を着て土に汚れているのに、何故だろう。
 ウエスト家の跡取りである弟よりも品の良さを感じた。
 おそらくジェスが甥を大切に育て、グィネス夫人が生活面を支えてくれているおかげでもあるし、彼自身の資質なのだろうと、フィリスは思った。

「良い季節に生まれたのね。イアンは……」

「そう……でしょうか」

「ええ。色々な花がたくさん咲いて、実になって。心もお腹も満たしてくれる季節の到来ですもの。日照りになる可能性は置いといて、草木が生えるから何か口にすることができて、飢えずにすむ……かもしれない季節の到来よ」

 ぷっとイアンが吹き出した。

「飢えずに済むかもしれない季節、ですか。お嬢様」

「ええ。冬生まれの私は生まれてわりとすぐに死にかけたらしいし、雪に閉じ込められ陽のささない部屋で絶望でいっぱいの誕生日を迎えたことがあるわ。私が真冬に生まれたのは誰のせいでもないけれど、ずっと暗いままで、草の一本、花の一輪も見られないのは、やっぱりちょっと気が滅入ると思わない?」

「たしかに」

 重々しく頷くイアンのさまが、なんとかも可愛らしくてフィリスの頬がほころぶ。
 大人たちが自分たちの様子をじっと伺ってことを知っていたが、話を続けた。

「その点、貴方は春の日差しとこの庭全体に祝福されるのだから、とても素敵ね。羨ましいわ」

 日の出から日没まで、イアンは叔父に連れられて庭のあちこちの手入れをしている事だろう。
 植物たちは女主人と庭師たちの愛情をたっぷり浴びて、美しく輝いている。

「そうか……。そうですね」

 幼い指先で麦わら帽子をもじもじといじりながら、イアンは呟いた。

「お嬢様。ぼくは、はじめて、ぼくの誕生日を好きになりました」

 素直で、素朴で、愛らしい。
 そして、おそらく庭の仕事を誇りに思っている。

 フィリスは、許されるならばこの五歳下の少年と友達になりたいと思った。

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