わたしたちの庭

犬飼ハルノ

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愛すること

 二人で馬を走らせ、川のほとりでくつろぐいだ。
 使用人たちが持たせてくれたラグを敷きバスケットの中身を広げて、互いに食べさせ合って、子どもみたいに笑った。
 この川辺はレイチェルたちと何度もピクニックに訪れたところでアーロンも幼い頃に連れてきていたと聞いている。しかし彼の記憶にないらしい。

「本当にいい所だね、ここは。自分の領地なのに初めて来たよ」

 フィリスの膝に頭を預け、アーロンは寝転がっている。
 そよ風が吹いて、夏草の匂いが二人を包む。

「あら、そんなはずないわ。幼い頃の貴方のお気に入りの場所だったと聞いたもの。それなのに貴方は忘れてしまったのね。お義姉さまに言いつけなきゃ」

「よしてくれよ。レイチェルの説教は長いんだから」

「ふふ。ひどいひと」

 夏になると二人は軽口を言いあえるようになった。

 夜はいつも一緒に眠りにつき、朝は寝室で食事をし、陽が暮れるまで執務や領地の視察をこなして、晩は義母と和やかに会話をしながら食事をした。
 たまに女性だけの茶会に出席するとき以外はアーロンとフィリスは常に共に行動した。
 家族には苦笑されたが、どれほどの時間を一緒にいても足りない。
 夫婦というより、恋人同士だと、誰からも言われた。

「よし、決めた。これからもっともっとここに来よう。僕たちに子どもが生まれたらここで遊ばせて、孫もひ孫もみんなで……。そうだな。きっと僕たちが死ぬまでに百回は来れるんじゃないかな」

「まあ、あなた一年が何日かご存じ?」

「ちょっとは家臣たちに仕事を任せて、僕と過ごしてくれよ奥さん」

 アーロンは半身を起こしてフィリスの唇にキスをした。

「まあ、なんてこと」
 
 口元を抑えて真っ赤になるフィリスに、悪戯が成功した子どものようにアーロンは笑った。

「ははは。僕の奥さんは、本当に純で、本当に可愛い」

 そのままラグに倒されて、抱きしめられ、顔中にキスを散らされる。
 まるで、ご機嫌な犬のようだ。

「ちょっと、あなた……、まって」

「大丈夫。誰もいないよ。ここは僕と君だけさ」

 気が付くと天地が逆転して、アーロンの身体の上にフィリスはのせられた。
 彼の胸の上に頬を当てると、規則正しい鼓動が聞こえる。

「愛しているよ、フィリス」

「私も……です」

「うん? 何かな? ちゃんと言ってくれなきゃ。もしかして僕の片思いなのかな、悲しいなあ」

「もう、あなたったら!」

 顔をあげると、アーロンの瞳に捕まってしまった。

「フィリス。お願いだよ、君の気持を教えて」

 口調は冗談めかしているけれど、青磁の瞳は真剣だった。
 ああ、と、フィリスは目を閉じた。

「フィリス」

「お慕いしております。貴方の手を取って、王宮を歩いたあの時から。私は多分……」

 まるで見えない力に導かれるように。
 フィリスは唇を寄せた。

「愛しています、アーロン様。この世の誰よりも」

 鳥のさえずりも、川の水音も、草木の触れ合う音も。
 何も聞こえない。
 
 フィリスの世界はアーロンだけになった。

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