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[3]初めての依頼1

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 翌日、俺は支部へ連盟加入の証、会員証を受け取りに行くのがとても楽しみでいつもよりも早く起きた。太陽はすでに昇り、鳥の音も聞こえてくる。俺は布団から飛び出し、急いで着替えて、その勢いのままスズカをたたき起こした。
「起きろ!おーい」
肩を大きく揺さぶってみた。起きなかったので今度は軽く叩いてみた。今度は、
「起きたからもうやめて」
「いや、早く起きてよ」
「わかったって」
「それじゃあ、準備して出発しよう」
「ケント君。さっきから急かすように言うけど、あなた昨日の朝寝坊して遅刻してるんだよ?」
スズカは布団から出ながら少し強く言った。
「いまのツッコミはキレがあるな!」
「その言葉聞くの三年ぶりだね」
「いいから早く準備してよ!」
「わかった」
そう言うと、スズカは準備をしに部屋を出て行った。
 それからしばらくして俺たちは出発した。

「おい。」
スズカが拳で俺の頭をコンッと軽くたたいた。
「ごめん」
その通りだ。早く着きすぎたみたいだ。まだ支部が開いていない。開くまでに、あと一時間ほどあるみたいだから待たないといけない。春になり暖かくはなってきているが、朝はまだ冷え込む。とても寒い。俺がその寒さでそわそわしていると、隣からスズカが聞いてきた。
「どうして、上着着てこなかったの。」
「早く行くことを考えてたら忘れました」
 すぐ近くの公園まで歩いた。寒い中支部が開くのを待っていたのだが、退屈だったのでちょっとした遊びを考えた。目をつぶって石を真上に投げ、頭の上でキャッチするというものだ。昨日、コトリ峠ではスズカに負けてしまったがこれなら勝てるだろう。早速スズカを呼んで話してみた。
「石を投げて目をつぶったままキャッチすればいいの?」
「うん、やってみて」
「それ!」
スズカは石を真上に投げた。石は地面から三メートルほどのところで引き返し、スズカの手に向かって真っすぐと落下していく。そして、スズカの手の間を通り抜けた。
「わっ!」
石はそのままスズカの頭に当たった。俺はこうなることを期待していたが、まさかこうなるとは思っていなかった。あまりにも面白かったので笑ってしまったが、スズカはそれが気に食わなかったようで、
「笑わないでよ!私も今のはダサかったって思ってるのに」
俺はまだ笑いながら謝った。
「ごめんっ」
 それからは二人とも成功し続けた。俺は一度も失敗をしなかったから今回は俺の勝ちだ。
「じゃあ、俺の荷物もってよ」
「うん。っていうか、なんでこんなに重たいのよ。会員証受け取りに行くだけだよね?」
「いや、もしものために」
「それだとしても洗濯板を常時携帯してるのはおかしいでしょ」
スズカはあきれたようにそう言った。


 支部に着いた。これで冒険者になれる。俺は受け付けに行くと昨日と同じ少女が対応してくれた。
「こちらがケントさん、こちらがスズカさんの会員証になります」
「ありがとうございます!」
 その後、少し説明を受けてから初めての依頼を受けることになった。エントランス横のベンチに腰を掛けてスズカと相談する。
「初めての依頼どうする?」
「どうするって聞かれてもな~」
スズカはそういって立ち上がると掲示板のほうへ歩いて行った。俺もその後を追って掲示板のところまで行った。
「これどう?」
スズカは俺に掲示板の張り紙を一つ指さして俺に尋ねた。
「どんな内容なんだ?」
「えーっと、シカを追い払ってほしいみたい」
俺もその張り紙を見た。依頼主はブドウ村の村長だ。ブドウ村はここからコトリ峠までの道を途中で左に曲がった先にある。内容はシカが村周辺の畑を荒らしているから追い払うのを手伝ってほしいというものだ。春になってシカが活発になっているのだろう。そして、この依頼は村の人々と共同で行うので初めての依頼でも問題ないだろう。第一、俺は自分の村でも頻繁に野生動物の退治はしていた。これくらいのことならできると思う。たぶん。

俺たちはこの依頼を受けることにした。受け付けで依頼書を受け取り再度、内容を確認した。そして、一度アパートへ戻り準備をしてさっそくブドウ村へ向かって出発した。
「洗濯板は置いてきたの?」
スズカが突然聞いてきた。
「いや、ちゃんと持ってきたよ」
スズカはほんの少しだけ驚いた素振りをした。そして俺に訪ねる。

「その洗濯板もそうだけど、ハンガーとか靴ベラは何に使うの?」
「これ?」
俺が聞くとスズカは軽くうなずいた。
「これはいつか役に立つと思っていつも持ってるんだ。でも、靴ベラはただ便利だから持ってるだけだよ」
スズカはなぜか興味津々で洗濯板の使い道について聞いてきたが、そんな話をしているうちにブドウ村の前までついた。
 村に入り役場まで行った。中に入ろうとすると一人の年配の方が出迎えてくれた。そして、応接室と思われる部屋へ案内された。しばらくすると村長が入ってきた。少しだけ世間話をし本題に入る。
「この小さな村では一度にたくさんのシカが出没すると人手が足りんくてな。それで依頼させていただきました。詳しいことは現地出のほうが説明しやすいので案内しましょう」
そう言うと村長は立ち上がり外へと出て行った。村長自ら案内してくれるそうだ。
 
初めての依頼が始まる。俺はこのとき過去最高に気分が舞い上がっていた。

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