【BL】どっちかなんて言わないで【Dom/sub】

しーやん

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 『お兄ちゃん!!』

 幼い声は自分の喉から飛び出したものだった。

『あのね、きょうはほいくえんでね、お兄ちゃんたちのえをかいたんだよ!!』

 そこは真っ白い空間だった。俺は目の前のふたつの人影に必死に話しかけている。眩しくて顔は見えないふたりに、手に広げて持った画用紙を差し出す。

『はい、こっちがね、さくお兄ちゃん!でね、こっちがきりやお兄ちゃん!』
『わぁ、ありがとう侑李!上手に描けてるね』
『でしょ?お兄ちゃんたちにあげる!』
『本当に?嬉しいな』

 目の前の人影が手を差し出してきて、俺はその手が優しく頭を撫でてくれるのを待った。

 近所に住む歳上の幼馴染。ふたりは俺のことを本当の弟みたいに可愛がってくれた。触れる手の優しさが大好きで、いつも俺は頭をそっと差し出して、撫でてもらえるのを待っていた。

 けれど待ち侘びたその手は、思い出の中のと全く違って、荒々しいものだった。

「ガハッ!!」

 グイッと髪を掴まれて顔を上げる。同時に、必死で酸素を求めて呼吸を繰り返す。

「おーい、生きてるか?」

 髪を掴んでいる男が後ろから問う。その声を聞いて、俺は今の状況を思い出した。

 そこはどこにでもある安っぽいラブホテルの一室の、これまた絵に描いたようなそれっぽいガラス張りの風呂場だった。

 俺はうつ伏せに浴槽の淵にもたれかかっていて、男は後ろから俺の頭を、並々溜まった湯の中に突っ込むという、狂気の遊びに興じている。

 もしかして今のが走馬灯というやつか。

 死ぬ間際に自分の記憶を見るというのは本当だったみたい、と知りたくもないことを知ってしまう。

 しかも思い出したくもない過去の記憶だった。走馬灯ってのは、人生の中で楽しかった思い出を見せてくれるんじゃなかったっけ?まあ、そうなると、楽しかった思い出が無さ過ぎて、走馬灯も随分と困っただろうけど。

「おい、ちゃんとケツ締めろよ」

 バチン、と尻を叩く鋭い音が浴室に響く。今はどうでもいいことを考えている場合でもなければ余裕もない。

「ハッ、お前がヘタクソなんじゃね、の?」
Shut Upうるさい!!」

 キツいCommandで一喝され、本能的な圧力のせいで何も言えなくなる。男がまた俺の頭を押さえつけ、乱暴に湯に沈める。

 同時に、後ろを抜き差しする腰の動きが速くなった。

 息苦しさと腹を抉るような違和感に蹂躙されて、また意識が朦朧としてくる。

 これをセックスというのなら、人類はもう子どもを作らない方がいいんじゃないかと思う。

 もちろん男である俺に子どもなんてできないけれど、愛のないセックスは世の中にいくらでもあるし、そしてその犠牲になるのはいつもSubだ。

 そんなSubから産まれた子どもも、どうせ不幸になるのだ。

 どうやったって勝てないことがある。産まれた時から優劣が決まっていることもある。努力では変えられないものが、確実にあるのだ。

 男が腰を叩きつける勢いで振り、少しずつ快感を覚えるようになってくる。そうなると、息苦しささえ快感に変わっていく。

 なんだかんだ言っても、俺はこの倒錯した行為が嫌なわけではないのだ。むしろ好きでやってるといってもいい。だって俺はSubだから。諦めならとうについている。

「はっ、ぁ、ゲホッ……」

 髪から滴る水滴も気にならなくなった。早く出したい、そればかりが脳裏をよぎる。

「中に出すからな!零すなよっ」

 男が言って、直後腹の中にじんわりと熱いものが溢れる感覚がした。なんとも言えない幸福感が湧いてくる。

「っ、はぁ、はぁ……」

 達した男が荒い息を吐きながら俺の中から出ていく。ゆっくり抜かれる感覚がたまらない。男のものを追いかけるように勝手に腰が動くのを我慢できない。

「淫乱野郎が」
「うるせ……んぅ、おい、早く命令しろバカ」
「口が悪過ぎるぞお前」

 そう言うやパシリと尻を叩かれて本気で射精しそうになる。ビクビク震えながら待てをする俺に、男がやっとCommandを口にする。それ以上の文句と一緒に。

「まったく、我慢の利かねえクソ犬だな。その上口も悪ければ態度もデカいSubなんてお前しかいないぞ……ほら、Cumイけよ

 その瞬間、頭の中で火花が弾けた。待ち侘びたCommandに理性が焼き切れる。この瞬間がどれだけ待ち遠しかったか、Subじゃないヤツにはわからないだろう。

「んぁ、あっ……く、ぅ」

 ビュクビュクと大量の白濁を浴槽の側面にぶち撒けて、そのまま冷たいタイルの上に崩れ落ちる。全身から力が抜けたせいで、尻からぐぷりと生々しい音がして、男が中に出したものが溢れるのが感覚でわかった。

「Good boy」
「うるせぇよハゲ」
「ハゲてねぇわ!ホント可愛くねぇなお前は……」

 やれやれ、と男がため息を吐いた。熱いシャワーを出すと、快感の余韻に脱力した俺にかける。

 後始末を男に任せ、浴室を出る頃には疲労のせいかとても眠かった。水責めは思ったよりも体力を消耗するようだ。

「侑李」
「なんだ?」
「お前はちゃんと寝てから出た方がいい。今にもぶっ倒れそうな顔してるぞ」
「はいはい、言われなくてもそうするよ」

 バスローブのままダブルベッドにダイブすると、男がまた呆れてため息を吐いた。

「じゃあ、これ今日の分とホテル代。またな」

 それだけ言うと、男はさっさと部屋を出て行った。

 ベッドサイドを見ると、諭吉が三枚置かれていた。

 そう、俺は自分でも認めているけれど、クズなのだ。遊ぶ金欲しさにDomに体を売っている。

 Subであることを受け入れて、人生を諦めた時に気付いたのだ。

 Subであることをうまく利用すれば、案外楽に生きられるのではないか?と。

 そしてそれはあながち間違いではなく……見事にクズな俺が出来上がったのだった。
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