【BL】どっちかなんて言わないで【Dom/sub】

しーやん

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 ドタドタと騒がしい音を立てて、徹さんに半分抱えられた俺は家に帰ってきた。

 リビングダイニングのドアを開けると、光貴が不思議そうな顔をして椅子から立ち上がる。

「おかえり」
「光貴!侑李くんが、どうやら酒に入ってた薬飲んじまったようなんだ!多分Sub専用の誘発剤だと思う。はやくなんとかしてやってくれ!」

 徹さんの言う通り、この体がゾワゾワして熱くなる感覚は誘発剤のものだと自分でもわかった。

 無理矢理Subの本能を刺激するこれは、普段より激しいプレイをするために使用されたり、躾だとかで飲まされたりする。より強い支配を体が勝手に欲してしまうから、普段強いCommandが苦手な羞恥の強いSubを従順にさせるために使ったりもする。

 そうやって乱れるSubに、Domもまた強く本能を刺激される。行き過ぎた支配をしてしまって、サブドロップを引き起こすという事態も起きてしまう。

 本来は本能が薄くてうまく発散することができないSubに処方される医薬品なのだが、その成分を混ぜた粗雑なものが、違法ドラッグとしてクラブなどで割と安価で出回っている。

「ちょっと待って。何があったんだ?」

 首を傾げる光貴に飛び付く。ギュッと服を握って縋る。早くこの熱から解放して欲しい。

「に、兄ちゃんっ!はぁ、ぁ、ンッ……助けて、おねが、します……」
「侑李、うるさい。俺は今、徹と話してる」

 そう言うと光貴は、服を握る俺の手を引き剥がした。その勢いでよろけるが、光貴が手首をキツく握って転ぶことはなかった。

 はぁ、はぁ、と自分の熱い吐息と、バクバクと激しく鳴り響く心臓の音が頭の中で反響している。

 はやく支配して、気持ち良くして欲しくて、もうそれしか考えられない。

「話は後でもできるだろうが!それより今は侑李くんを助けてやれよ!?」
「助ける?コイツ、自分で他人が出したものを飲んでこうなったんだろ?」
「そりゃそうだが、」
「そんなの、すぐ吐き出せばよかったんだ。それかなんか入ってるとわかってんなら最初から飲むなよ」
「でもきっとオレが頼んだ仕事のために仕方なかったんだ!そもそも侑李くんを使えと言ったのはお前だろ!」
「確かにね……侑李、兄ちゃんは徹と話をするから、少し我慢してね?Corner隅にいろ

 その命令を聞いた瞬間、危うく達しそうになった。甘い支配の感覚に体が震えた。

 俺は、はい、と呟いて、ヨロヨロと歩き、言われた通りに部屋の隅で壁を向いて立つ。

「ちょっと待てよ!!それはお仕置きに使うCommandだろうが!!」
「なんでも同じだよ。侑李は淫乱だから、キツいCommandが好きなんだ」

 ドン、と重く激しい音がして、驚いて射精しそうになった。多分、徹さんが憤りに任せて壁でも殴ったんだ。

「何?なんでそんなに怒るの?俺のモノを俺が好きにするのは当然だろ?」
「侑李くんは人間だ。Subがどうとかって話以前に、お前のやってることは、同じ人間にしていいことじゃない」
「同じ人間?侑李がその他の人間と同じなわけないだろ。侑李は可愛くて賢くて強い、誰よりも優秀な俺の弟だ。下賤な一般人と一緒にするな」

 一瞬の沈黙。徹さんの、戸惑い顔を容易に想像することができた。

「……もういい。明日、今回の件の報酬を持って来る。侑李くんのおかげで良い情報が手に入った。そんで、話はその時にする。オレもお前に言っておかなければならないことがあるが、今のお前に話しても仕方ないから、これも明日にする」
「そう。じゃあもう帰ってくれよ。俺はこれから侑李を可愛がるからさ」
「マジでイカれてんなお前……」

 そんな会話が聞こえ、ああやっと構ってもらえる、と思った。

 あと少し、徹さんが帰るまで、それまで我慢……

 そう思うと、それまで耐えていたものが急に耐え難いものに思えて来る。

 ダメだと思っていても、薬のせいで朦朧とした頭の中はぐちゃぐちゃだ。今すぐイきたい。早く触って欲しい。

 ダメだ、ダメだ、ダメだ……

 徹さんが部屋を出る。階段を降りていく音が聞こえる。それで、光貴がリビングダイニングのドアと階段のある廊下を繋ぐドアを閉めた、ガチャリという音が聞こえた。

 その直後、俺は我慢の限界を迎えてしまった。平衡感覚が消えて、続いて意識を失った。

 ……ような気がするが、そのまま意識がなければよかったんだけど、当然兄はキレた。

 気が付いたら浴室にいた。光貴はものすごく冷たい目をしていた。それで、冷たいシャワーをぶっかけてきて、誰が勝手に寝て良いって言った?しかも勝手に射精して、服を汚して。そんなにお仕置きされたいのかよ?などと言った。

 裸にされて、体の敏感なところにキツいシャワーを押し付けられて、ついでのようにシャワーベッドで殴られて、もうわけがわからなかった。

 光貴はそうやってとりあえず発散して、突然フッと優しく笑う。それから、本気で愛しているとでも言うように甘やかし始めるのだ。

 セックスしてるのか、プレイしているのか、俺にはもうよくわからかい。頭が混乱しているうちに、いつも、快楽に負けてどうでもよくなってしまう。

 何度か気絶して、また叩き起こされて、気が狂うってほどイかされて、腹が熱でパンパンになった頃に、やっとちょっとだけ冷静になった兄が笑顔でバタフライナイフを取り出す。

 で、いつものように、反省タイムが始まって……

 ハッと目を開けると、俺はまだ浴室にいた。力尽きてそのまま寝ていたようだ。珍しく檻の中じゃない、と軽く驚き、その理由はすぐにわかった。

 浴室の床も、自分の体も、水と血で濡れている。兄は、きっと自分の手や衣服が汚れるのが嫌で、そのまま放置したのだろう。光貴はそういう人間だ。

 もう慣れてしまった自分が悲しい。

 ヨロヨロと起き上がり、とりあえず浴室を洗い流す。それから自分も軽くシャワーを浴びて、後ろの後始末をした。脱衣所へ出て棚から出したバスタオルで体を拭く。

 寒いなと思って、使ったバスタオルを羽織り、そのままリビングへ。痛みと事後特有の気怠さで気分が悪い。とりあえず横になりたかった。

 リビングダイニングへ通じるドアを開けると、テーブルに光貴と、その向かいに徹さんが座っていた。光貴は俺を見てニッコリ笑みを浮かべる。機嫌が良さそうでよかった。

「おはよう、侑李」
「……おはよ」

 と、壁掛けの時計を見ると、もう昼前だった。ふと徹さんと視線があう。

 一瞬怒っているのかと思った。でも次第に痛々しい表情になった。そういう顔をよく向けられる。可哀想とか、不憫だとか、そういう類の顔。

 なんでそんな哀れみを向けられなければならないんだ?俺の家庭環境が終わってるからか?それとも俺がSubだから?

 昔はそんなふうに思っていたけれど、いつからか気にならなくなっていた。自分ではどうにもできないと諦めて、逆に哀れな自分を利用してやろうと思うようになった。

「おい光貴。侑李くんは別室で寝てるって言ってなかったか?」

 徹さんが光貴を睨んで言う。光貴は小首を傾げて笑った。

「そうだよ?浴室で寝てしまったから、そのままにしてたんだ。別に嘘はついてないだろ?」
「……お前、本気で言ってんのか?浴室にずぶ濡れで放置してたの間違いだろ?しかも怪我してるじゃねぇか!」

 ガタ、と椅子を鳴らして立ち上がった徹さんが、ドスドスと足音を立てて近付いてくる。血で汚れたバスタオルを気にすることなく、そのままギュッと抱きしめられる。

「大丈夫か?寒かっただろ……怪我は?」

 徹さんがこめかみに触れる。手を離すと、わずかに血がついていた。

「痛くないか?」
「痛くない、です……大丈夫です」

 何も問題ない。いつも通りだ。

「これも問題ないって言うのか?そんなわけないだろ!」

 グッと両腕を掴まれる。腕の内側は、もう数えられないくらいの傷がついている。昨日の傷はまだ生々しい。あとはそれほどでもない。

「でも、本当に痛くない、から、大丈夫です」

 答えつつ、そういえば最近は切った瞬間の痛みすら感じないな、と思った。

 徹さんは険しい顔のままこちらを見ていて、俺はただその瞳を見返していた。この人は、なんでこんなに怒ってるんだ?と、思いながら。

「光貴、金はちゃんと払う。だから、しばらく侑李くんを借りてもいいか?」
「……そうきたか。まあ、いいよ?徹の思うようにしてみなよ。でも俺は、絶対に侑李は俺のところに帰って来ると思うな。俺たちはさ、たった一人、お互いに唯一の家族なんだから」
「だとしても今のままではダメだ……なあ侑李くん、お前の母親は、どんな人だった?なにか思い出はあるか?ほら、光貴と三人で、とか」

 なんだ?それは、昨日も答えただろ?

「知らないって言ったよね!?多分俺が産まれてすぐ死んだんだよ!だから何にも知らないって、昨日も答えたでしょ!!」

 なぜかとてもイライラした。なんで人の過去を抉るような質問を何度もされなきゃならないんだ?

 でも光貴を見ると、ただ笑っていた。いつものように、不敵に。

「アハハッ!ホントだ!徹の言う通りだね!人間って面白いよ。変なの」

 ケラケラと笑い続ける光貴が不気味で怖い。俺、なんかまずいことでもしたか?だとしたらそれなりに覚悟をしておかないと。

「お前といると侑李くんは全てを失う。オレは前にも同じようなSubを見たことがある。だから侑李くんは、オレがしばらく預かる」
「いいって言っただろ。好きにすればいい」

 光貴が笑みを浮かべたまま言う。

「お前、しばらく徹のところにいろ。仕事手伝ってやれ。俺がいいって言うまで帰って来るな、わかった?」
「う、うん……」

 とりあえず頷く。光貴の命令は絶対だ。俺が命令の全てを知る必要はないのだ。

 そのまま俺は、いつも通り光貴に衣服を着せられて、いつも通り、まるでちょっとコンビニでも行ってきて、というふうに家から出された。

 なんなんだ?
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