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親孝行
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彼の話。
『彼はこの世に必要無かったのさ』
私の前の男の人が私に言った。
『だいたい、
親父が「本当に俺の子供か?」って
母親に言ってるんだぜ?
それで わからないとか…』
男の人の言動に対し
虫唾が走った…けど
彼の言動は何も間違ってない。
それに…。
『確かに そうですね。
それに母親が聞いてる側で
聞いてしまった彼が その後で
飛び降り自殺しようとして
父親はそれを見ながら止めず
「死にたいなら勝手に死ね」と
言ってたそうですしね』
私の左隣の椅子に腰掛けた女の人が言うと
その反対側
パイプを吹かしながら年配の男の人が
『その時 母親は何をしてたんですか?』と
言った。
『入院してたんだと』
年配の男の人のすぐ隣の子供が口を開いた。
『なんでも、
この親父が無理に働かせすぎた事で
持病の糖尿病が悪化し
足の指を切断。
その間、
彼は親父からの
精神的苦痛に耐えていたけど…』
そこまで言うと
私の前の男が深くため息を吐き
『最低だ…この父親は』と
頭を押さえながら言った。
男の人のすぐ右隣
眼鏡をかけた背の高い女の人が
椅子から立ち上がり
『話を戻します』と言った。
『母親はそれからしばらくして
父親と別れ
母親は彼を連れて行きました。
理由は、
父親のところに居ても
いつか自殺してしまうかもしれないと
考えた末の行動で
父親も金も稼げない人間などいらないと
母親が連れてく事を良しとしました』
眼鏡をかけた女の人が言い終えると
私の右隣に座っていた
長い髪をポニーテールのように縛った
私より少し背の低い少女が
『…可哀想』と言った。
『可哀想?
いや、
これで安心じゃないのか?
だって、
悪の権化みたいな父親のところから
抜け出すことが出来たんだぜ?』
私の前の男の人が少女に
少し声を荒げつつ言う。
すると、
年配の男の人が
『まぁまぁ、
そう声を荒げなくとも』と言いつつ
少女に『それで、
どうしてそう思ったのですか?』と言った。
『…家族が壊れちゃったから…
きっと彼も家族が壊れて無くなる事は
望んでいなかったって…私は 思うの…』
少女が言い終えると
質問した年配の男と男は
言葉を詰まらせた。
『コホン…続けてもよろしいですか?』
男のすぐ右隣
眼鏡をかけた女の人が言うと
全員が女の人に視線を向けた。
『続けます。
それから母親と彼は
父親の住む街から離れ
2人だけで遠くの街で暮らす事にしました』
眼鏡をかけた女の人が言い終えると
右隣のギャル男が
『はぁ?
なんでわざわざ
父親のところから
遠く離れて暮らすんだ?』と言った。
『少しは頭使え。
母親的にもこんなのの近くは嫌だろ?
それに、
彼に悪い影響を
与えたく無かったのかもしれない…』
子供がそう言うと
眼鏡をかけた女の人が
『ご明察です』と続けた。
『母親は母親で
父親の言動によって
彼が傷ついていくのを
見ていられなかったそうです。
それに、
母親は父親の固定概念の一部である
【金を稼げない奴は家族じゃない】を
予ねてから言葉にせず否定していました』
眼鏡をかけた女の人が言い終えると
少女が涙ぐみながら
『お金を稼げない人は
家族じゃないなんて…ひどい…』と言い
それより大きな声で
私の前の男の人が『そんな奴、
家族を持つ権利すら無いだろ!!』と
声を荒げて言った。
そうだ…
男の人の言う言葉は間違ってない…
けど…
『続けます。
それからしばらくして
母親の病気が悪化し
彼も度重なる他人からの
酷い言葉によって
精神を病んでしまいました。
けど、
母親の方がもっと苦しい思いをしていると
辛い顔を見せず心配かけまいとしていた
彼でしたが
ある時 何もかも投げ出したくなるような
出来事が起こり
自分の心の拠り所を捨て去りました』
眼鏡をかけた女の人が言い終えると
年配の男の人が『拠り所を…。
その拠り所とはなんですか?』と言った。
『…すみません。
とてもショックが強く
拠り所についての資料は
現存しておりません。
ですが、
彼はそれを
自分の子供のように大切にしていました』
眼鏡をかけた女の人が
手に持っていた資料を見ながら言うと
年配の男の人が
『自分の子供のように…
そんな大切なものをどうして…』と呟いた。
なんとなくだけどわかる気がする。
自分の心の拠り所を捨てるって事は
自分を殺すのと同じ。
そこに
辛いとか
悲しいとか
怒りだとか
そんなものは無くて…
『寂しいにより近い気持ちなんだと思う』
私がそう言うと
全員が私に視線を向けた。
『誰かを信用しようとしても
その誰かが裏切るかもしれない。
けど、
人は1人じゃ生きてけないって
当たり前な矛盾と
彼はずっと1人で戦ってたんだと思う…』
私が言い終えると
眼鏡をかけた女の人が
『って言うと?』と言った。
『私も
家族を守りたくて
いつからか家族から必要とされず
気がついたら居場所を無くしてたから…』
私がそう言うと
眼鏡をかけた女の人は
『…申し訳ありません』と言って
椅子に腰掛けた。
『謝らないで。
私はもう今しか見てないから。
それより、
彼の話をしよう』
そう言って
椅子に座ると
年配の男の人が
『彼女の言う通り。
今は 彼の事を話しましょう』と言った。
それから数時間後、
車に轢かれ意識を取り戻さなかった彼は
運び込まれた病院の病室のベッドの上で
奇跡的に目を覚ました。
『良いんですか?
彼は自殺しようとして
車にわざと轢かれたかもしれないのに…』
その様子を窓の外から見ていた
眼鏡をかけた女の人がそう言うと
隣の私が『良いんだよ。
私は出来なかったけど
彼は親孝行しないといけないんだから
まだこっちに来なくても』と言葉を返した。
私がこうなった事には
何も後悔はしてないし
人は遅かれ早かれいつか死ぬ。
そして、
どんなに怒っても
どんなに悲しんでも
どんなに謝っても
蘇ることは出来ない。
それは、
ずっと昔からの約束事。
そんな約束事を捻じ曲げようとした私は
神と呼ばれた至上者に捕まり
彼のようなまだ助かる見込みのある
半死者が現世で行ってきた行動を
(或いは周りの人がどう思ってたかを)
話し合い 蘇らせるか 否かを
至上者へ報告する罰を与えられた。
『良かったね…』
私の隣で少女がそう呟き微笑んだ。
『そうだね』
微笑む少女を見て
私も微笑んだ。
~親孝行~
END
『彼はこの世に必要無かったのさ』
私の前の男の人が私に言った。
『だいたい、
親父が「本当に俺の子供か?」って
母親に言ってるんだぜ?
それで わからないとか…』
男の人の言動に対し
虫唾が走った…けど
彼の言動は何も間違ってない。
それに…。
『確かに そうですね。
それに母親が聞いてる側で
聞いてしまった彼が その後で
飛び降り自殺しようとして
父親はそれを見ながら止めず
「死にたいなら勝手に死ね」と
言ってたそうですしね』
私の左隣の椅子に腰掛けた女の人が言うと
その反対側
パイプを吹かしながら年配の男の人が
『その時 母親は何をしてたんですか?』と
言った。
『入院してたんだと』
年配の男の人のすぐ隣の子供が口を開いた。
『なんでも、
この親父が無理に働かせすぎた事で
持病の糖尿病が悪化し
足の指を切断。
その間、
彼は親父からの
精神的苦痛に耐えていたけど…』
そこまで言うと
私の前の男が深くため息を吐き
『最低だ…この父親は』と
頭を押さえながら言った。
男の人のすぐ右隣
眼鏡をかけた背の高い女の人が
椅子から立ち上がり
『話を戻します』と言った。
『母親はそれからしばらくして
父親と別れ
母親は彼を連れて行きました。
理由は、
父親のところに居ても
いつか自殺してしまうかもしれないと
考えた末の行動で
父親も金も稼げない人間などいらないと
母親が連れてく事を良しとしました』
眼鏡をかけた女の人が言い終えると
私の右隣に座っていた
長い髪をポニーテールのように縛った
私より少し背の低い少女が
『…可哀想』と言った。
『可哀想?
いや、
これで安心じゃないのか?
だって、
悪の権化みたいな父親のところから
抜け出すことが出来たんだぜ?』
私の前の男の人が少女に
少し声を荒げつつ言う。
すると、
年配の男の人が
『まぁまぁ、
そう声を荒げなくとも』と言いつつ
少女に『それで、
どうしてそう思ったのですか?』と言った。
『…家族が壊れちゃったから…
きっと彼も家族が壊れて無くなる事は
望んでいなかったって…私は 思うの…』
少女が言い終えると
質問した年配の男と男は
言葉を詰まらせた。
『コホン…続けてもよろしいですか?』
男のすぐ右隣
眼鏡をかけた女の人が言うと
全員が女の人に視線を向けた。
『続けます。
それから母親と彼は
父親の住む街から離れ
2人だけで遠くの街で暮らす事にしました』
眼鏡をかけた女の人が言い終えると
右隣のギャル男が
『はぁ?
なんでわざわざ
父親のところから
遠く離れて暮らすんだ?』と言った。
『少しは頭使え。
母親的にもこんなのの近くは嫌だろ?
それに、
彼に悪い影響を
与えたく無かったのかもしれない…』
子供がそう言うと
眼鏡をかけた女の人が
『ご明察です』と続けた。
『母親は母親で
父親の言動によって
彼が傷ついていくのを
見ていられなかったそうです。
それに、
母親は父親の固定概念の一部である
【金を稼げない奴は家族じゃない】を
予ねてから言葉にせず否定していました』
眼鏡をかけた女の人が言い終えると
少女が涙ぐみながら
『お金を稼げない人は
家族じゃないなんて…ひどい…』と言い
それより大きな声で
私の前の男の人が『そんな奴、
家族を持つ権利すら無いだろ!!』と
声を荒げて言った。
そうだ…
男の人の言う言葉は間違ってない…
けど…
『続けます。
それからしばらくして
母親の病気が悪化し
彼も度重なる他人からの
酷い言葉によって
精神を病んでしまいました。
けど、
母親の方がもっと苦しい思いをしていると
辛い顔を見せず心配かけまいとしていた
彼でしたが
ある時 何もかも投げ出したくなるような
出来事が起こり
自分の心の拠り所を捨て去りました』
眼鏡をかけた女の人が言い終えると
年配の男の人が『拠り所を…。
その拠り所とはなんですか?』と言った。
『…すみません。
とてもショックが強く
拠り所についての資料は
現存しておりません。
ですが、
彼はそれを
自分の子供のように大切にしていました』
眼鏡をかけた女の人が
手に持っていた資料を見ながら言うと
年配の男の人が
『自分の子供のように…
そんな大切なものをどうして…』と呟いた。
なんとなくだけどわかる気がする。
自分の心の拠り所を捨てるって事は
自分を殺すのと同じ。
そこに
辛いとか
悲しいとか
怒りだとか
そんなものは無くて…
『寂しいにより近い気持ちなんだと思う』
私がそう言うと
全員が私に視線を向けた。
『誰かを信用しようとしても
その誰かが裏切るかもしれない。
けど、
人は1人じゃ生きてけないって
当たり前な矛盾と
彼はずっと1人で戦ってたんだと思う…』
私が言い終えると
眼鏡をかけた女の人が
『って言うと?』と言った。
『私も
家族を守りたくて
いつからか家族から必要とされず
気がついたら居場所を無くしてたから…』
私がそう言うと
眼鏡をかけた女の人は
『…申し訳ありません』と言って
椅子に腰掛けた。
『謝らないで。
私はもう今しか見てないから。
それより、
彼の話をしよう』
そう言って
椅子に座ると
年配の男の人が
『彼女の言う通り。
今は 彼の事を話しましょう』と言った。
それから数時間後、
車に轢かれ意識を取り戻さなかった彼は
運び込まれた病院の病室のベッドの上で
奇跡的に目を覚ました。
『良いんですか?
彼は自殺しようとして
車にわざと轢かれたかもしれないのに…』
その様子を窓の外から見ていた
眼鏡をかけた女の人がそう言うと
隣の私が『良いんだよ。
私は出来なかったけど
彼は親孝行しないといけないんだから
まだこっちに来なくても』と言葉を返した。
私がこうなった事には
何も後悔はしてないし
人は遅かれ早かれいつか死ぬ。
そして、
どんなに怒っても
どんなに悲しんでも
どんなに謝っても
蘇ることは出来ない。
それは、
ずっと昔からの約束事。
そんな約束事を捻じ曲げようとした私は
神と呼ばれた至上者に捕まり
彼のようなまだ助かる見込みのある
半死者が現世で行ってきた行動を
(或いは周りの人がどう思ってたかを)
話し合い 蘇らせるか 否かを
至上者へ報告する罰を与えられた。
『良かったね…』
私の隣で少女がそう呟き微笑んだ。
『そうだね』
微笑む少女を見て
私も微笑んだ。
~親孝行~
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