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私の婚約者は

第四話 ヒロイン…とは?

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 そう。声を上げたのはヒロイン、カレン嬢だ。


 え?声をかけられてないよね?発言の許可出されてないよね?死にたいの?普通、即打首だよ?えっ?やっぱり死にたいの?しかも、立った状態だ。馬鹿?
 それにしても、よりによってここで来たか~。いつ口を挟むのかな?って思ってたけど、ここでか。
 陛下がエディック殿下の申し出を許可して、っていうよりによってこのタイミング?どうかしたら反逆の意思ありって、打首されるよ?


 「これっ!!控えぬかっ!」


 ほら~っ!!言われてるじゃん!


 陛下の側近の一人が、カレン嬢の無礼に対して苦言を呈する。


 「ふふん。私はヒロインなのよっ。モブは黙ってなさい!」


 それに対して、エディック殿下をちらりと見た陛下が、その側近に目で「よい。放っておけ」という合図をする。そして、カレン嬢は何を勘違いしたのか、これも自分がヒロインだから無礼も咎められないと思ったようだ。
 陛下何故?と疑問に思った私は、ちらりとエディック殿下を見る。


 (あっ。これは…。「私の獲物だから今は手を出すな」ってことかな? そして、陛下はそれを察した、と。OK、把握)


 「黙るのは貴女だ。カレン・ナルメア男爵令嬢」
 「な、何よっ!エディックは、サブキャラでしょう?何で、この場面で口を出すのよ!ねえ!アレク!アレクも何とか言ってよ!」


 エディック殿下はそう喚くヒロインに向かって、冷たい目線を浴びせていた。エディック殿下って、桁外れな美形な分、冷たい表情を浮かべていると、とても怖い。美人の怒りって迫力あるよね。エディック殿下の側に静かに、影を薄くして控えていたヴィンス兄様も、カレン嬢を見て、「こいつ馬鹿か?」という表情を隠せていない。今まで、今のエディック殿下を触らぬ神に祟りなし、と言わんばかりに放置していたヴィンス兄様が!!


 (ワー。カレン嬢、空気読ンデー。あと、エディック殿下の様子に気ヅイテー。逃げテー)


 私は、心の中で、棒読みで片言ながらもカレン嬢を応援する。彼女は、空気を読むことも、エディック殿下の様子に気づくことも、逃げることも出来ないだろうという考えあっての事ではあるが。
 カレン嬢が空気を読むとか、何かの天変地異の前触れかな?ていうレベルで無理だろう。まあ、エディック殿下の様子に気づくのはワンチャンあるかもしれないが、その時には、彼女はもう牢屋の中かもしれない。そして、カレン嬢は男爵令嬢だ。この国の最高権力者たる陛下の言葉を遮るという無礼、彼女よりも上の身分である陛下の側近を侮辱するという無礼。まず、何かしらの罰は下されるだろうから、逃げられないだろう。


 あ、アレキシス殿下、冷や汗ダラダラ流してる。エディック殿下の怒りに気づいたっぽい。アレキシス殿下、馬鹿は馬鹿でも、治らない馬鹿だけど学習できる馬鹿だもんねー。そして、アレキシス殿下は何も言わない、と。いや、言わないというか、言えない、か。アレキシス殿下はエディック殿下の無意識の圧にやられている。


 「貴女に私の名を呼ぶことを許可した覚えはない」
 「な、何で!?エディックはアレクのお兄さんでしょう?なら、将来兄弟になるんだしいいじゃない!」


 うん?何でそうなるのかな?エディック殿下と兄弟?ああ。アレキシス殿下と結婚して、アレキシス殿下の兄であるエディック殿下と兄弟になるってこと?まず、男爵令嬢のあなたが、第三皇子で、いくらアレキシス殿下でも、皇族に嫁ぐのは無理じゃないかな?この国では、身分に釣り合った人との恋愛結婚は推奨されてはいるけど(乙女ゲーム世界のご都合主義かな?)、それ以外は政略結婚だから。それに、仮に、いくら、将来兄弟になるといっても、(婚約者の兄弟とかの場合でも)その辺りはまず相手にお伺いを立てないと。


 うわーと思いながら、カレン嬢を見る。それが分かったのか、今度は私の方を見て口調を荒らげた。


 「あんたもよっ!悪役令嬢のくせに!!何でゲームの設定変えてるのよ!!」


 一瞬、エディック殿下の他に二方向から、カレン嬢に冷気、いやもうこれは殺気か、が向けられた。たぶん、父様と兄様だろう。
 私はもう一度、うわーと思ったが、私が口を開く前に、エディック殿下が静かにカレン嬢に反論する。


 「黙れ。リアを侮辱するな。大体、悪役令嬢?ゲーム?何を馬鹿げたことを言っているんだ?ここは物語の世界じゃない。現実を見ろ」


 エディック殿下が口を開いた途端、その殺気は霧散した。よかったね、カレン嬢。余命がのびたよ。
 エディック殿下が蔑みを含んだ瞳でカレン嬢を見ながらそう言った途端、彼の紫色の瞳が妖しく光り、さっきまで喚いていたカレン嬢がピタリと大人しくなった。


 (あれ?カレン嬢が大人しくなった。ハッ。まさか…?)


 「では、気を取り直しまして」


 エディック殿下は何事もなかったかのように、その整った顔に微笑みを湛え周りを見渡す。周囲の人々も、エディック殿下に倣い、落ち着いた様子で彼を見ている。


 「ここに私、エディック・フォーサイスと、アメリア・レンドールの婚約を宣言する」


 よく通る彼の声によって、私とエディック殿下の婚約が周囲に伝えられた時、周囲が盛大な拍手をもって私たちを祝福する。今ここで何か言うようなことは誰も出来ない。そりゃそうだ。エディック殿下の怒りに誰も触れたくないだろう。親バカな父様、隠れシスコン(隠れてない)も、今ばかりは何も言わない。


 カレン嬢を黙らせて、終わったかのように見えたエディック殿下の報復は、まだ、始まったばかりだったのだ。
 彼の怒りは、まだ鎮まっていなかったのだ。




─────────────

ふぅー。予め考えてた部分まで書き終わったぞー!
どうも作者です。
ここまではまだ序章の0.5部です。
次からが作者にとっては本番で、残りの序章からが真の本編です。
とはいえ、残りもすぐに終わる予定ですけど。
ここからがざまぁやでー!!
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