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私とアレキシス殿下

第十四話 女神の審判・その⑥ 前半side other

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第三者視点


 「何がですか?」

 「これを実行すると、最悪、皇位継承権を失うことになるよ?」

 そうは言うが、僕が皇位を継ぐ可能性は元々、かなり低いのだから、と、そう思うアレキシスに皇位を継ぐ気はさらさらなさそうだ。それに、

 「いいんです。だって、次代の皇帝は、エディ兄上しかいないですから」

 「そうか。うん。そうだな」

 「でも、母上も母上だ。何故僕を皇帝にしたいんだろう。母上が皇太后になれるわけじゃないのに」

 我が母ながら呆れる、と軽くため息をついたアレキシスに対して、ライフォードがクスクスと楽しそうに笑う。

 「馬鹿なことを考えるやつもいるもんだよ。兄上こそが皇帝に相応しいのにな。それに、こうやって私たちが考え、計画していることも、きっと兄上には全部お見通しだ」

 「僕もそう思うよ、ライ兄上」

 腹違いの半分血の繋がった同じ歳の兄弟が笑い合う。

 「じゃあ、僕はこれで。侍医を呼んできます」

 「ああ、頼んだよ」

 そう二重の意味で、兄が弟に託す。

 「ああ、そうだ。もう一つ

 これを実行すると、リアがお前のものになる確率は限りなくゼロに近くなるよ。それで、いいの?」

 ライフォードにそう言われたアレキシスの脳裏に浮かぶのは、彼にとって愛しい初恋の君。たった一人の人。

 何にも考えずに、アレキシス、ライフォード、エディック、ヴィンセント、そして、アメリアの五人で過ごせていた、彼が、恋心を自覚する前の幼き日の頃。
 アメリア、アレキシス、ライフォードは七歳、エディックとヴィンセントは十歳のある日、五人は、暖かな春の終わり頃、皇宮の裏手にある森の泉の畔にある花畑にいた。ヴィンセントが花冠を作ってアメリアの頭に被せるのを見た、ライフォードとアレキシスの二人は、自分たちも作りたいと、ヴィンセントに教えを乞うていた。だからか、紅一点であるアメリアに、花で作ったアクセサリーを付けてもらうという流れになっていた。
 寄って集って、ライフォードとアレキシスがヴィンセントのところにいた時、エディックはアメリアの元にいた。楽しそうに会話を弾ませながら、手を繋ぎ歩いている彼らは微笑ましく、小さなカップルのようだ。ふと立ち止まったエディックの視線の先には、紫色の花。
 「たしか、この花は…」
 そう呟きながら、エディックはその花をおもむろに摘むと、その花で指輪を作り、アメリアの左手薬指へとはめた。アメリアは目を丸くして、自身の薬指とエディックを見比べている。
 「うん。思っていたとおり、よく似合ってる」
 優しく微笑むエディックに、アメリアも嬉しそうに幸せそうに微笑んだ。お互いに微笑み合う二人は、まさに幸せそのもの。その様子を見ていたアレキシスは、そんな二人の、そんなアメリアの幸せそうな笑顔が忘れられなかった。

 そして、この一年後、エディックとアメリアの婚約が決まり、アメリアが幸せそうに微笑む姿を見て、アレキシスは、自身の恋心を自覚すると同時に失恋したのだった。

 さらに、その一年後、アメリアが傷つき、泣くことになってしまう事件が起こるとは、誰も予想していなかったのだった。

 アレキシスにとって、アメリアが幸せそうに微笑む姿を知っているだけに、その泣き顔を見るのは辛かった。アレキシスは、その事件のことを今でも鮮明に覚えている。そして、この時、エディック、アレキシス、ライフォード、ヴィンセントの四人はそれまで以上にアメリアのことを守ろうと決心したのだ。



 だからこそ、アレキシスはこう思うのだ。

 「好きな人が傷つくのを見る方が辛いので」

 ーーだから。だから、僕が犠牲になろう。僕が演じてみせよう。

 そう、アレキシスは決意をする。たとえ、自身がどうなろうと、今日も嘘をつこう、と。表に出れないライフォードの代わりに、と。アレキシスは、僕が、私が、アメリア愛しい君を守るために、今日からは、僕は、「私」になる、と決めたのだ。

 「馬鹿だよなあ。私も、お前もな。そう思うだろう?アレク」

 寂しそうに一人、部屋のベッドの上で、外を眺めながら、少し口調を崩しつつ弟を見送りそう言う兄。その言葉は、弟には届かなかった。






 ーーだから、そのために、利用させてもらうよ。カレン嬢。


 ーーそう、僕ら三人の、皇族の意地にかけて。


◇◆◇◆◇◆◇

side アメリア

 涙を乱暴に拭いながら、アレキシス殿下は、エディック殿下に向き直って謝る。

 「すみません、兄上。冷静ではなかった」

 「いや、落ち着いたのならいい」

 やっぱり半分とはいえ血の繋がった兄弟だから?
 二人には何か通ずるところがあるみたい。

 アレキシス殿下、あの頃から変わってないのね。ちょっと安心しちゃった。
 私と、エディック殿下の婚約が決まったあたりで、私とアレキシス殿下は遊ぶことが少なくなってしまったから。婚約発表をするはずだったあの日の後、それから少し経つと、アレキシス殿下はバカ皇子だと呼ばれるようになっていた。変だな。私の知るアレキシス殿下はそう言うのじゃないのに。そうは思うものの、それを裏づけるかのように、アレキシス殿下は振舞っていた。極めつけは、今回の婚約破棄。信じたくはないけど、そうなのだと思ってしまった。でも、やっぱり何か狙いがあってそう振舞っていたのようだ。それに合わせて、私もアレキシス殿下をバカ皇子として接していたけど…。合ってた。良かったぁ。


 「で。カレン嬢。アレクの質問に答えてもらおうか?君は、エイダ・アハルと接触しているな?エイダは何を企んでいる?」

 エディック殿下はそう聞くと、ニヤリとカレン嬢が歪な笑みを浮かべた。


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