私はあなたの婚約者ではないんです!

凪ルナ

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私とアレキシス殿下

第十三話 女神の審判・その⑤ sideアレキシス

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 「落ち着け。アレク」

 感情的になってしまった私ーー僕に、落ち着くよう言ったのは、兄上だった。
 さらに、鋭い眼光でもって、僕を目で制するエディック兄上。



 でもっ!でもっ!!!


 こいつが吐けば、ライ兄上の暗殺未遂の黒幕が母上だっていう証拠がっ、手に入るかもしれないのに!!

 それでも、エディック兄上は、僕を止めるのか!?

 それに!

 ようやく、手が届きそうなのに。すぐ目の前に手がかりがあるのにっ!

 その手を離せって言うのか!?

 僕と!ライ兄上が!どんな気持ちで!リアと離れたと思っているんだ!?

 僕とライ兄上は、あの日からリアとの関わりを最小限にして、離れたのはリアを巻き込みたくなかったから。結局巻き込んでしまったけれど…。

 今、ここでっ!!

 ケリをつけないとっ!どうなるか分からないじゃないかっ!手遅れになってからでは遅いんだよ!?エディック兄上っ!!!


 エディック兄上が目で訴えかけてきた。


 「いいから。とにかく落ち着け」


 そうだ。ああ、エディック兄上が何も考えずに僕を止めるわけがなかった。

 兄上が、カレン嬢をただで解放するわけがない。

 兄上の、あの目は、本気だ。

 僕達、皇族の、本能。


 ーー大事なものを傷つけたものは許さない。


 カレン嬢は、僕達の逆鱗に触れたんだ。

 たとえ、血の繋がりがあろうと、懐に入れたものを傷つけたものを許さない僕達だ。

 カレン嬢は、よりによって、触れてはいけないものに触れてしまった。

 それに、僕はライ兄上は、あの日決めた。たとえ、僕と血の繋がった母上であろうと黒幕としての証拠を掴むって。その手がかりが君だって言うんなら…ーー




 時は、そう、あの日、ライ兄上が毒によって倒れ、ライ兄上が目覚めたあの時にまで遡る。


 「んっ……、ここは」

 「ライ兄上!目が覚めて…!良かった…!」

 「アレク…」

 ライ兄上は目が覚めたばかりで、掠れた無駄に色っぽい声で僕を呼んだ。

 「侍医を呼んできますねっ」

 「いや…待って、アレク。お前に話しておかなければならないことがあるんだ」

 医者を呼ぼうと焦る僕をライ兄上は呼び止める。

 「ライ兄上?」

 「私に毒を盛り暗殺しようとした者について」

 不思議そうにライ兄上を呼ぶ僕に対して、ライ兄上によって容赦なく放たれた言葉に、思わず僕はヒュッと息を呑んだ。

 「予想はついているみたいだね。そう、私に毒を盛ったのは、皇宮ーーさらに言えば、皇族の居住区ーーに務める侍女。彼女には恐らく黒幕がいる」

 ーー「これは、あくまでも私の推測だが、今回の黒幕は、アレク、君の母、エイダじゃないか?」

 「な、んで…?」

 そうかもしれない、と思っていた。でも、そうではないことを祈っていた。それを今、粉々に砕かれた。

 「推測だと、言っただろう?私を暗殺して、利益がある人物。そう考え、さらにはこのタイミング。そうとしか考えられないんだよね」

 「そ、う、ですね。僕も、そう思います」

 「うん。だからさ、しばらく、私は公の場に出ないようにしようと思う。」

 全くもって、「だからさ、」の後に続くとは思えない話の内容に、僕は思考が止まった。

 「え?」

 「幸運なことに、元々、皇族の中では、私は身体が弱い。悪化したとでも言えば、貴族には不思議には思われないと思う。きっとエイダは、毒が効いていて弱ったとでも思ってくれる」

 「はい」

 「公の場に出ることが減れば、私が皇位継承することはないと思うだろう。そうなると、次にエイダが狙うのは、」

 「「リア」」

 ライ兄上の次の言葉を予想し、僕とライ兄上の声が揃い、驚いたようにこちらを見てくるライ兄上に、「ですよね」と確認するように返した。僕も予想していたことだし、それは、僕にとって避けたいことだった。

 「そこを狙おうと思うんだ。リアが囮になってしまうから、出来れば、リアが危険な目にあうのは避けたいんだけど…」

 それは僕も思っていたことだった。だから、申し出た。

 「ライ兄上。そこは僕に任せてください」

 「うん?アレク、何か考えが?」

 「僕がバカ皇子を装うんです。そうすると、きっとたぶん、僕を傀儡の皇帝にしようとする、二心を持ったヤツらが釣れると思うんです。そして、母上を上手く誘導して、リアが危険な目にあう前に証拠を掴む」

 「なっ。…でも、うん。いいんじゃないか?」

 僕の案に、信じられないものを見るようにライ兄上は僕を見てきたが、でも、少し考えたかと思うと、すぐに納得したようだった。

 「良かった…」

 「でも、いいのかい?アレク」

 心配そうに僕を見てきたライ兄上。何をそんなに心配しているのか。

─────────
作者です。

アレキシスが暴走した。

アレキシス殿下がバカ皇子を演じることになったきっかけでした。
考えていたら、何故か、設定が増え、何だか面倒な男になってしまったアレキシス殿下。まだまだ、色々伏線回収出来ていないし、なんで、冒頭部分の腐った馬鹿な男になったかが引っ張りすぎて回収出来ていない。
だんだん腹黒くなっていくアレキシス殿下。でも、変なところでポンコツ発揮しているからな、アレキシス。
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