私はあなたの婚約者ではないんです!

凪ルナ

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側妃との対決と婚約者

第二十話 エディックという男性(ひと) sideエディック

sideエディック

 「と、いうわけで、カレン・ナルメアを拘束し、衛兵へと渡しました。そして、彼女の証言により、アレクは、あの人に洗脳されていたことが判明しました」

 「うむ、そうか。と、なると、今日、全てを終わらせるとしよう」

 私の報告に難しい顔をした父上は、どうやら覚悟を決めたようだ。

 「はい、もとよりそのつもりです」


 ーーそう私が父上に言ったすぐ後だった。


 私はアメリアを傷つけようとしたあの人を許すつもりなど毛頭ないのだから。そして、この、腸が煮えくり返りそうなこの気持ちは、あの人を許せそうにない醜い私の感情で、私は皇族の始祖の血を引いているのだと嫌でも理解させられるのだった。


 でも、きっと、私のこの君への燃えるようなこの思いを君は知らないのだろう。私はどうしようもなく君を愛しく思っているのだが、きっと君にはその十分の一ほどしか伝わっていないのだから。


 ーーあの人、側室エイダ・アハルがこの皇宮のホールに足を踏み入れたのは。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 初めてアメリアに会った時、一人泣いている君を何故か放っておけなかった。泣いている君が初めて私に向かって笑った時、私の手でもっと笑わせたい、そう思ったんだ。

 最初は『妹』のような存在に対するただの庇護欲だと思っていた。

 でも、アメリアのことを『妹』ではなく、一人の女の子として見だしたのはいつからだっただろうか。私の名前を大切そうに、優しく穏やかな声で呼ぶ、そんなアメリアがいつの間にか、私の中で大きな存在になっていた。『妹』に対してはありえない感情を抱いていることに気づいた時には、もう遅かった。アメリアのことを手放せない、手放したくなくなっていた。
 小さな蕾だったアメリアは成長するにつれて、蕾が綻びやがて大輪の花を咲かせるように美しくなっていくことは分かっていた。私ではなくても、他にアメリアの貰い手は山ほどいる。
 本当なら、身を引くべきなんだろう。こんな私では、アメリアにはふさわしくないだろう。



 アメリアは知らない。私は、アメリアが思っているような“キレイ”な人間ではない。私は、アメリアのためならどこまでも非情になれる人間だ。
 そもそも皇帝はキレイなだけではなれない。だから、情が必要ない部分で情を捨てきれないアレクは皇帝に向いていない。

 アメリアに言ったことはないが、アメリアはアレクのような男と結婚する方が幸せなのではないかと思っていた。
 私と結婚すると皇帝の妻となり、皇妃となる。皇妃となれば、いやでもキレイなままではいられなくなる。だが、アレクは第三皇子だ。第三皇子の妻、という立場なら、皇妃よりも気ままで、まだキレイでいられる。
 綺麗なドレスを着て、綺麗なアクセサリーを身につけ、花を愛でて、子を産み、母となり、汚いモノは何も無い、アメリアは本当ならそんな優しい世界で生きられた。好きな人にはそんな優しい世界で生きていて欲しい、そう思う私は普通だろう。今でもそう思っているということは、アメリアには言えない。

 でも、純粋に私に好意を寄せてくれて、花が咲いたような笑顔を向けてくるアメリアを、いつの頃からか、私のものだけでいて欲しいと思うようになった。弟達にも渡したくないと思っていった。弟達のアメリアへの恋慕には、弟達が自分の気持ちに気づくより早く分かっていた。だから、私の婚約者という立場に早くして、他の者にも私のものだという印象をつけるようにしていた。
 そうして、アメリアを私に縛り付けていた。
 アメリアは木漏れ日の下で笑っている方が似合う。でも、そんなアメリアを、私と皇宮という籠に縛り付けたのは他でもない私で、汚い私のエゴだ。

 だから、少しでもアメリアにはキレイなままで生きられるように、私がアメリアの障害になるものを潰しておくし、そんな“キレイな私”ではない私を出来ればアメリアには見せたくない。


 ねえ、リア。
 こんな私を知ったら、君は軽蔑するのだろうか。

 そんな風に君に嫌われることに怯えてしまう私は、相当君に惚れているんだな、とそう考えて思わず自嘲じみた苦笑を零した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 頭を切り替えようと今までの思考を一旦振り払う。

 ーー目を閉じるとリア、君の笑顔が浮かぶ。私は君の笑顔を守りたかっただけなんだ。今まで、皇太子としての教育を受け、勉学に励み、皇太子として振舞ってきた。それは、本当は、これからも君の隣にいる、ただそれだけのためだった。君と共に時間を過ごすためだった。

 ゆっくりと目を閉じる。

 ーー後少し、後少しなんだ。四年前からこの時をずっと。だから、リアとの婚約発表も後回しにして。私はひたすらに、君が泣かないでいられるようにと願っていた。そして、そのために行動していた。


 再び目を開けて、そして、呼びたくもないが今の義母上ははうえーーエイダへと視線を向ける。



 ーーずっとずっと、この時を待っていましたよ、義母上。


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