眉目秀麗のお年頃公爵令息は自信なしの作家令嬢に振り回されたい

月下 雪華

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12「進歩と意趣返し」

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 ヴィオラを布団に送り届けた後、羞恥で固まり赤くなる彼女にまた来週来ると告げて、付き添ってくれた侍女に頼みエラーブルに連絡をしてもらった。彼女はヴィオラと仲が良かったはずだ。そのように対応をすれば彼女としても安心だろう。

 そして今週はずっと彼女の体調を気にすることになった。その度彼女の肌や匂い、部屋に行ったことなど様々な事を思い出し苦しんだ。悩みでどうにかしてしまう前に手紙と見舞いの品を贈った。気が変になりそうだった。だが、耐えた。耐えたのだ。偉いと褒め称えられてもいいと思う。




 そして、今日会ったヴィオラは以前と比べ元気そうであった。俺と会うのは少々気まずい様だが顔色が戻ったようで何よりだ。
 ヴィオラのか細く鈴の音の様な声が通る。

「 せ、先週はお見苦しい所を……」
「気にしないでくれ、そうした方が良いと思ったからしたまでだ。それで、今日の体調は?」
「はい、それはもう元気です。普通に物語をかけるようにもなりましたの。本当にありがとうございました」
「それは良かったな」 
 書く気力も残っているようだし、笑顔も暗くない。以前と比べれば劇的な進歩だし、進化だ。
 
「はい!あ、ラヴォンド様がお話して下さったお陰でエラーブルさんに連絡出来たのです。この前、続けると報告したら嬉し涙で泣き疲れていたので私のせいで余程悲しませてしまったのだと反省いたしました……」
「そうか」
 ヴィオラは肩を落とし、耳につけたベニトアイトのイヤリングを揺らす。
 確かにエラーブルはヴィオラが書かなくなることを凄く気にしていたからな。エラーブルはそんなに嬉しかったのか。ヴィオラはそれを見てそんなに反省したのか。
 ……そうか。
 胸の奥がジリジリと痛む。

「なぁ、本当に関係ないことだが前々から気にしていたことを今、聞いていいか」
 色々と気にしたのだ、これくらいの意趣返しは許して欲しい。
 
「なんでしょう?」
「どうして、ヴィオラの書く物語の主人公は全く俺と何もかもが被らないように書いているんだ?」
「え」
「王子だ、騎士だ、聖職者だ、商人だ、って立場どころか全員綺麗でキラキラしたやつばっかりで俺にかすりもしない。意図的に避けているだろう。それは何故だ」

 ヴィオラはそれを聞くとかぁっと桃色だった顔を赤くし、ぷるぷると震え出す。
 今日の可愛らしいドレスと色味が似合うなと思った所で彼女が震え声で話始める。
「なっ、ラヴォンド様は、わ、私の作品を、お読みに?」
「あぁ。読んだ」

「きゃーー!ほ、本当に読んだんですか~!?」
 耳を劈くような声が通る。ヴィオラにしては珍しい声だ。

「全部、しっかりと読んだが。そんな焦ることなのか?」
「それは勿論、恥ずかしいに決まっているでしょう……」
「なんだあれが本当のヴィオラの夢だとでも言うのか」
 更にジクジクと胸が歪む。

 ヴィオラは諦めた様に、ため息をついて手で顔を覆った。
「い、いえ……どのヒーローもラヴォンド様をモチーフにしておりますの……ご本人に見られるとは思っておらず、恥ずかしくて……」
「へっ?」
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