49 / 102
48皇王との謁見で
しおりを挟む広い芝の平地を抜けると頑丈そうな石造りの城が高くそびえていた。
大きなアーチ型の入り口を入ると城の使用人達から私は物珍しい珍獣かのような視線を浴びた。
まあ、それもそうだろう。
それでも、彼らはすぐに視線を伏せてお辞儀をしてくれたので良かったけど、私の記憶では平民が着るようなシャツと乗馬ズボン姿で城に入る人を私は知らない。
って言うか人間だからか。
ちなみにカイヤート達は騎士の服装でカッコいい。
「セリ。こっちだ」
そう言って乱れた黒髪をぐしゃっとかき上げる仕草までも決まって見える。
なんだかなぁ~。
カイヤートがぐっと私の腰を引き寄せまるで自分の所有物だとでも言うように私を連れ歩く。
「カイヤート様。少し離れて下さいよ」
私は身じろぎ彼から離れる。
歩いているのは外回廊。そのせいで吹き抜ける風が恥ずかしさでほてった身体に丁度いい。
「これ以上は無理だからな」
さすがにこんな所で声を荒げるわけには行かないのだろうな。
ライノスさんとクラオンさんはさっきからせわしなく支持を飛ばしている。
ライノスさんは護衛兵に命令でもしているのか、護衛兵がビリっと敬礼をして去っていく。
別の護衛兵が彼の顔を緊張した面持ちで様子を伺っている。
ライノスさんってやっぱり偉い人なんだ。
クラオンさんは宰相の息子と聞いていたので、きっと城には部下や見知った人が大勢いるんだろう。
事も投げに次々と指示を出している。
クラオンさんも。
「セリ様。これからお部屋に案内しますのでそちらで身支度を整えましょう」
クラオンさんが侍女らしき人に何か言っている。
「あっ、はい」
慌てて返事をする。
そう言えばイルは?
すっかり忘れていた。
「イル?」
「にゃぁぁ~ (ここにいるぞ)」
すたすたと走り寄って来るイルを抱き上げる。
「にゃっ? (もっと見たい)」
『お兄様、私のそばにいて下さい!』
「にゃぁぁ~ (はぁ、わかった)」
そして豪華な客間に通された。
「セリ、俺は先に報告があるから、すぐに来る」
「セリ様。侍女のナターシャです。彼女は犬獣人です。今から身支度のお手伝いをしますので何なりとこのものにお言いつけ下さい」
クラオンさんがナターシャを紹介する。
彼女は私よりかなり年上だろう。茶色い髪にくりくりした黒い瞳が可愛い感じに見える。
リンネさんみたいで何だかほっとする。
「わかりました。クラオン様ありがとうございます。ナターシャさんよろしくお願いします」
「こちらこそ、セリ様よろしくお願いいたします。私の事はナターシャとお呼びください」
イルも一緒に部屋に入りイルにはミルクを貰う。
それをぺちゃぺちゃ舐め終わるとふかふかのソファーにゴロンと座り込んで早速毛づくろいを始めた。
私はお風呂に入り髪をきれいに乾かしてもらって、畏まったドレスを着せられた。
色は瞳に合わせたような翠色のシルク。マーメイドラインの美しいドレスだった。
カイヤートったらいつの前にこんなものを用意させたの?
いや、クラオンさんかな?
ドレスは仕立てたように身体にぴったりだ。
獣人用だと尻尾を出す箇所があってもおかしくはないはず。だからこれは多分私の為に作らせたとしか思えないわ。
扉がノックされた。
準備が整いカイヤートが迎えに来たらしい。
「イルお留守番よろしくね」
『ああ、疲れた。王との謁見なんて疲れるから俺はここでゆっくりしてる』
いいな、お兄様は‥仕方ない。
扉が開かれカイヤートが現れた。
うそぉ~カイヤートが正装をしている。
あの、いつだって小汚い‥ああ、それは言い過ぎか。って感じのこれがほんとに皇子なのかって言う男が。
漆黒の黒髪をビシッと整え額を晒しているせいでいつもより凛々しく硬派な印象に見えた。
まじ、チョーどストライク!えぐっ、めちゃ好みのタイプじゃない。
はっ、どうしよう。これでお前は俺の番だなんて迫られたら‥
わたし‥落ちるな。
脳内でそんな妄想を繰り広げながら謁見の間に連れられて行く。
真っ赤な絨毯。
遠目からみる玉座に座る金狼獣人は恰幅が良く王の風格を醸し出している。
私は獣人の王を見るのは初めてだからなどと戸惑いながらも玉座の前まで近づいた。
王の前で跪くカイヤート。
私はカテーシーで挨拶をする。
そっと顔を上げれば渋めの親父っぽいの男が玉座に座っている。
やはりこの方も狼獣人らしく金色の髪にぴんと立った耳がある。
「カイヤートご苦労であった。して、そちらが例の聖女殿か?」
王は私を見ると琥珀の目尻に皺を寄せた。その視線に前世でのおっさんがいやらしい目つきで女性を見るゲスな視線を思い出す。
この親父。エロ親父かも。
脳内で浮かんだ悪い印象を顔に出さないように必死で笑みをひねり出す。
「はい皇王。こちらが聖女セリ様でございます。月喰いの日の呪気。必ず払って頂けるものと」
カイヤートが超真面目に答えた。
「それがどうかな。お前が聖女と言っているものは誠の聖女なのか?」
怪訝な顔で私達を見た。
その眼差しはすっと細められ冷たい感じすら受ける。
「父上?それはどういう意味です?」
カイヤートは立ちあがり少し怒った口調で尋ねる。
私も同じ気持ちになった。
皇王は近くいた護衛兵に命令する。
「ああ、そうだな。イエンスをここへ。そして聖女アーネ殿も」
イエンスって確かカイヤートのお兄様だったはず、彼は王とは違い銀色の髪をしていた。でも、瞳は琥珀。それに顔立ちは超イケメン。王族ってどの国もイケメンぞろいだよね。
それにアーネ?この国にもアーネって言う名前の人が?
すぐに誰かが入って来た。
「父上、お待たせしました。聖女アーネ様をお連れしました」
男はカイヤートの兄のイエンス皇太子だろう。王によく似て金髪で凛々しい姿をしている。
彼も王太子にふさわしい豪華な上着を纏っている。
そしてその隣にいるのは紛れもない。あの、アーネ・ロゼリアだった。
ピンクブロンドの髪が縦ロールに巻かれ幾重にも美しい曲線を描いている。
翠緑色の瞳は嬉々として皇太子のイエンスを絡めとっているように見えた。
「皇王様。御前失礼いたします。聖女。アーネ・ロゼリアです」
私は混乱した。彼女は私を刺したはず。でも、罪には問われなかったのね。
それにオデロ殿下とは別れたの?
どうして?
「アーネ?どうしてあなたがこんな所にいる訳?」
私は無意識に聞いた。彼女に指を突きつけて。
それはそうだろう。この女のせいで‥
心の中は驚きといら立ちでいっぱいになった。
10
あなたにおすすめの小説
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
私、異世界で獣人になりました!
星宮歌
恋愛
昔から、人とは違うことを自覚していた。
人としておかしいと思えるほどの身体能力。
視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。
早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。
ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。
『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。
妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。
父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。
どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。
『動きたい、走りたい』
それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。
『外に、出たい……』
病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。
私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。
『助、けて……』
救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。
「ほぎゃあ、おぎゃあっ」
目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。
「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」
聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。
どうやら私は、異世界に転生したらしかった。
以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。
言うなれば、『新片翼シリーズ』です。
それでは、どうぞ!
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜
四葉美名
恋愛
「危険です! 突然現れたそんな女など処刑して下さい!」
ある日突然、そんな怒号が飛び交う異世界に迷い込んでしまった橘莉子(たちばなりこ)。
竜王が統べるその世界では「迷い人」という、国に恩恵を与える異世界人がいたというが、莉子には全くそんな能力はなく平凡そのもの。
そのうえ莉子が現れたのは、竜王が初めて開いた「婚約者候補」を集めた夜会。しかも口に怪我をした治療として竜王にキスをされてしまい、一気に莉子は竜人女性の目の敵にされてしまう。
それでもひっそりと真面目に生きていこうと気を取り直すが、今度は竜王の子供を産む「運命の花嫁」に選ばれていた。
その「運命の花嫁」とはお腹に「竜王の子供の魂が宿る」というもので、なんと朝起きたらお腹から勝手に子供が話しかけてきた!
『ママ! 早く僕を産んでよ!』
「私に竜王様のお妃様は無理だよ!」
お腹に入ってしまった子供の魂は私をせっつくけど、「運命の花嫁」だとバレないように必死に隠さなきゃ命がない!
それでも少しずつ「お腹にいる未来の息子」にほだされ、竜王とも心を通わせていくのだが、次々と嫌がらせや命の危険が襲ってきて――!
これはちょっと不遇な育ちの平凡ヒロインが、知らなかった能力を開花させ竜王様に溺愛されるお話。
設定はゆるゆるです。他サイトでも重複投稿しています。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
【完結】「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう
ムラサメ
恋愛
漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。
死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。
しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。
向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。
一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる