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56私の中にイヒム様が?
しおりを挟む私は部屋に戻って気持ちが悪くなった。
もちろん毒に当たったわけではなかった。
ただ、毒は大丈夫と言われて紅茶を飲んだがやっぱり気持ちが悪くなったらしい。
まあ、当然か。
トイレの前でしばらく吐き気がして座り込む。
イルが慌てて背中をさすってくれる。
可愛い肉球が背中にフニフニ当たって意外と萌える。
「にゃxxxっぁ~」
お兄様は慌てているようで鳴き声が目滅茶苦茶だ。
「大丈夫。イエンス殿下が毒を盛っていたの。でも、頭の中で毒は私には効かないから飲んでも平気だって声がして」
「ふぎゃっ!にゃにゃ?(ばか、飲んだのか?)」
「だから、毒は平気。ただ、そうは言っても毒を飲んだと思ったら気分が悪くなっただけよ。ごめんなさい」
「ふにゃ‥(良かった)」
すっかり吐き気も収まってソファーに座る。
ナターシャが煎れてくれたお茶を飲み直した。
ふう~と息を吐きリラックスする。
でもなぁ~。いいんだろうか?
月喰いの日は明後日なんでしょう?
浄化魔法が出来る人がいた方がいいんじゃ?
いくらあんなことを言われたからと言って‥殿下もアーネの魅了魔法にかかっていなければきっとあんなことはしなかったはず。
それに私を偽物だなんて言わなかったかも。
みんなが困ると分かっているのに知らん顔をしてこのままスヴェーレに帰るにも戸惑うなぁ。
いきなり脳内で声がした。
『まったく、あのくそ皇太子。私の大切な聖女に何してくれるんだい!』
『あの、さっきからいろいろ脳内で私に話しかけるのはどなたです?』
『あら、失礼。私はイヒムじゃ。スヴーレで聖女の儀式をしただろう?あれから随分と長い間放ったらかしにしてたけど、この国がどうなってるかと思ってね。ちょっと貴方の身体について来たって訳さ』
『あなた、イヒム様なんです?あの、神様の?』
『ああ、しばらく見ない間に一体どうしたんだいこの国は?皇太子はあんな女に惑わされ、王は見境なく子供を作り、あげくに月喰いの日だって?』
『はい、イヒム様は月喰いの日をよくご存じなんですよね?』
『あれは獣人が勝手に作った迷信だ』
『えっ?でも、アード神が貴方に嫉妬して呪いを掛けたって聞きましたけど、百年に一度月がかけて行き呪気が降り注ぐとか恐ろしい呪いだと聞きましたが』
『何言ってんだい?アードが怒ってやったのは満月の日に降り注ぐ光だけだよ。月が食われるなんてばかな事あるはずがないだろ!全く人は好き勝手に話を作るんだからさ。困ったもんだよ』
『でも、実際に被害にあった人が、いえ、獣人がいるんですよ?』
『いいかいセリ。よくお聞き、月が喰われるように見えるかも知れないがあれは太陽とこの世界の間に月が重なるんだ。太陽の前側に月が重なって太陽が隠れて行く。月じゃないんだよ。ったく!』
『いやいや、イヒム様。神様なんですからそんな言葉使いはいけないんじゃ?』
『はっ?そんな事をお前に言われる筋合いはないよ。さっきの話分かったのかい?』
『何となく。私実は前世の記憶がありまして、前世でもそれに似た皆既日食と言われた現象がありました。月が太陽を隠すと言う。月喰いはそれと似たような事という事でいいんでしょうか?』
『セリは前世の記憶があるのかい?そりゃ凄いじゃないか。ああ、その皆既日食とやらと同じことだよ』
私は理解した。
『ではどうして被害が出るんです?』
『あれは百年に一度咲くザンクの花のせいだよ。あの花には猛毒があるんだ。その毒を吸い込むとすぐに頭をやられてまともに意識を保てなくなる。理性はなくなり獣人は獣化する。欲望のまま見境がなくなり魔物化してしまうんだ』
『イヒム様はそれを知ってなんとかしようと私に?』
『はっ!そんないいもんじゃないが、せっかく乗りかかったからな。放っておくわけにも行かんじゃろ?だからセリ、お前にこうやって教えてるんじゃないか』
『では、この事を皇族の方に知らせて国中のザンクの花を刈り取って‥でも、時間が‥』
『ドラゴンがいるだろう?あれを使えばいいじゃろ』
『ああ、そうでした。皇族の方はドラゴンに乗れるんでしたね』
『ああ、あいつらは火をはくからな。一気に焼き払えばいいんじゃ』
『さすがイヒム様。知らせて下さりありがとうございます』
『なに、アードの奴。ロクな事をせん!あれのせいでこんな出鱈目な迷信が出来たようなもんじゃからな』
『感謝します。では早速何とかやって見ます』
『ああ、ここからはお前に頼るしかないからな』
『はい』
しかし驚いた。月喰いの日は全くの出鱈目。獣人が勝手に作った話だなんて‥ちょっと信じられないんだけど?
でも、そう言われればシェルビ国の言い伝えとプロシスタン国の言い伝えも違ってたじゃない。
何よりイヒム様がそう言ってるんだもの。嘘のはずがないわよ。
ドラゴンを頼るならカイヤートに頼みたいけど‥
あいつ‥
そうは思ったもののカイヤートに頼るのは癪に障るし。
私は殿下と話をして頂けるように出来ないかと思案しているとイエンス殿下から話があると連絡が来た。
ちょうどいいじゃない。
それにしてもイヒム様って口がわるぅ。
何だかやる気出て来たぁ~!!
『セリ、さっきの話本当か?』イルが声をかけた。
『だって相手はイヒム様よ。嘘は言わないでしょう?』
『しかし、ザンクの花がなぁ~、これから大変だぞ』
『ええ、でも何とかしなきゃ。でしょ?』
「にゃぁぁ~(だな)」
イルが私の頬をざらついた舌で舐めた。
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