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65殿下が息をしていません!
しおりを挟む太陽が沈み夜のとばりが下りて来た。
辺りはすっかり暗くなって庭にはかがり火が設置される。
カイヤートはまだ帰って来ない。
そこにライノスさんが帰って来た。
「王都全域花の処理、ほぼ終わりました。殿下は?」
「それがまだなの」
「そう言えば川岸辺りに花が残っているからと‥すぐに見てまいります。セリ様はそのままでお待ちください」
「ええ、お願いするわ」
私が行っても邪魔になるだけだろう。
「セリ様!!」
馬が数頭物凄い勢いで屋敷の門を入って来た。
「殿下が!!」
私は急いで外に出る。
馬にはライノスさんとカイヤートが。彼はぐったりとしてライノスさんにもたれたままだ。
意識がない。
「何があったんです?」
「分かりません。殿下一人が川岸に倒れていました。どうやら呼吸がないようで」
えっ?そんな。無効化魔法をしたはずなのに?
血の気が引いた。
「すぐに運んで!」
ライノスさんはカイヤートを抱いて天幕の中に連れ込んだ。
ライノスさんはすぐに人払いをした。
皇族の一大事。知られるのはまずいのだろう。
カイヤートの顔はすでに青白い。呼吸が止まり唇が紫色に変色している。
そんなばかな。
いやよ。いやよ。あなたが死ぬはずない。そんなの嫌だ。死んだら嫌だ!!
私は夢中で魔法を発動させる。
回復魔法。治癒魔法。エトセトラ‥‥
突然イヒム様の声が。
『セリ、いいかい、カイヤートは魔力が枯渇したんだよ。彼に力を分けあたえるには月光美人という花を使うといいんだ』
『はっ?イヒム様、なんだか今日は意地悪じゃありません?もっと早く教えて下さいよ。心臓止まるかと思ったんですよ!』
『これも愛だよ。あんたカイヤートを失いたくないって思っただろ?そろそろ素直になった方がいいぞ』
『ちょ、それとこれは別の‥』
『いいから、早く花を』
『その花どこにあるんです?私の魔力を分けた方がいいんじゃ?』
『まあ、そうだが、セリもかなり魔力を使っておるからな。月光美人は獣人のパワーを回復させるものなんだ』
『な~るほど。って言うかどこにあるんです。その花は?』
『ほら、庭のあちこちに咲いて居る。オレンジ色の月のように丸い形をした花びらの‥』
私は外に走り出る。
「あった~!月光美人見つけたわ。カイヤートこれを」
待って。どうやって、煎じる?花びらをすり潰す?
『花の蜜を口で吸い取って口移しで飲ませるのが一番じゃ』
ウソ~。まさかのキスで‥ううん、これは治療行為。救命措置なんだから!
私は十数本の花を持って来ると月光美人の花の蜜を口に吸い込んだ。
甘い蜜が口の中に広がった。
すぐにカイヤートの口を開いて唇を重ねる。
お願いカイヤート。元のあなたに戻って。息をして。目を開けて‥馬鹿よ。魔力が枯渇するまでやるなんて。でも、そんなこと知らなかったのかもしれない。だってカイヤートはつい最近魔法を使うようになったんだから。
私がちゃんと教えていれば‥意地なんか張らずにもっと彼に寄り添っていればこんな事にはならなかった。
お願い。目を開けて‥
色々な思いが走馬灯のように脳内をよぎる。
そしてまたキスを繰り返す。
もう十回以上になるんじゃ?もうダメかも‥どうすればいい?
ピクリ。
彼のまぶたが動いた。
「カイヤート!しっかりして、死んじゃ嫌だ。お願い。目を開けて!」
「殿下。しっかりして下さい!」
えっ?ライノスさんいつからそこに?と思う間もなく、ゆっくり彼のまぶたが開いていく。
「カイヤート!」
「殿下!」
「あれ?ライノスいいところだったのに‥セリとキスしてたんだぞ!」
「殿下、キスは現実ですよ。セリ様が月光美人の花の蜜を口移しで‥」
「う、うそだろ!セリが俺にキスをした?」
カイヤートはまた気絶した。いや、悶絶していた。
そこから次々にドラゴンが帰って来た。
カイヤートの屋敷の庭は森につながっていて森と庭の間にはドラゴンが降りても充分な敷地が広がっている。
あちこちの領地の駆除が終わったと報告が来る。
カイヤートは疲れを見せてはいるが、すっかり意識を取り戻し騎士の報告の対応に追われている。
見知った人が来た。
スヴェーレのアンティ辺境伯だ。
「アンティ辺境伯。ご無事でしたか?」
私は思わず声をかける。
「はい、聖女様のおかげで被害は最小限にすみました。ご安心ください。教会のリンネ様他皆様もご無事です」
私の聞きたいことを先にアンティ辺境伯が話してくれる。
ああ、良かった。みんな無事だったのね。
胸の奥にずっと気になっていた支えがすぅっと消えた。
「ありがとうございます。本当に感謝します」
「とんでもありません。感謝するのは私たちです。ザンクの花に猛毒があることは薄々わかってはいましたが、聖女様のおかげです。では、私はこれで失礼します」
今回は緊急ということで月喰いの日にかかわりがあるなどというまどろっこしい説明はしていない。
ただ、ザンクの花に猛毒があって危険だから駆除を急いでほしいと伝えただけだ。
アンティ辺境伯が去って行った。
カイヤートがそばに来て私の腰を引き寄せる。
「セリのおかげだ。ありがとうこの国を救ってくれて。感謝する。なぁセリ、俺の番になってくれるんだろ?」
彼の瞳は蕩けたはちみつみたいだ。
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