74 / 102
73カイヤートが皇太子に?
しおりを挟む私とカイヤートは護衛騎士に案内されて城に向かった。
皇王と謁見するらしい。もちろん大司教も一緒に。
「カイヤート、でも、毒の被害者が出てるかも、心配だわ。急いで謁見を終わらせて様子を聞かなきゃ」
「ああ、その辺りはライノスとクラオンに任せておけばいい。ハチミツも準備してあるしな」
「ねぇ、そう言えばアーネを見かけなかったわ。彼女も浄化するんじゃなかったの?」
やっとアーネの事も思い出す。
「アーネ?ああ、兄上が聖女だって言ってた。知らんぞ」
「そう。おかしいわ。こんな大舞台で姿を現さないなんてあの人こういうイベント大好きだと思うけど」
ほんと、自分を売り込む事には抜かりがないって言うか、騙すのがうまいんだから。
城の客間に案内されて皇王を待つ。
もちろんカイヤートは私の隣にべったり座る。
その間にお茶やお菓子が出される。
おいしそうな焼き菓子のオンパレードに、これ、包んでいただけますって言いたくなる。
「セリ?何か食べるか?」
物欲しそうな顔をしてたのかな?でも、一つくらいならと。
「あの、クリームが乗ったお菓子を」
「そうか、ほら。俺が食べさせてやる」
彼は言われた菓子を皿に取り分けるとすぐにそれを一口差し出した。
「そ、そんなのこんな所で無理だから」
カイヤートは私に何かと食べさせたがる。獣人の番は給餌も愛情表現らしいとヨールさんから聞いた。
「‥‥‥」しょぼ~ん。耳が垂れる。
「じゃ、代わりに私が。はいっ」
「セリが俺に?はっ、はい。あ~ん」
あはっ、可愛すぎるモグモグ期?彼の意外な可愛さに胸がきゅんとなってしまう。
「皇王がお越しです」
騎士が声をかけた。
大司教が立ちあがる。私達もついて立ちあがった。
サクト皇王陛下にミヒル皇妃。イエンス殿下が続いた。
あれ?アーネがいない。
「カイヤート。セリ殿。いやぁあの浄化は素晴らしかった。月喰いの厄災が吹き飛んだ。ハハハ。実に素晴らしい!」
上機嫌の皇王陛下がそう言ってソファーに座り続いてみんなが座った。
早速ミヒル皇妃はセリをほめたたえた。
イエンスはむすっと黙ったままだ。
サクト皇王は終始上機嫌で話を始めた。
「セリ殿あなたの浄化は凄い。今も報告があったが呪いの被害はほとんど出ていない。出ていても軽い症状。ほんとにセリ殿には驚かされたな」
「いえ、被害者が出ていなくて本当に良かったです。これも昨日みんなが頑張ってくれたおかげです」
「ああ、確かに。だがそれもあなたのおかげ‥それでだが、わが国にはもう一つ厄介な呪いがあって、一カ月先の満月にも魔呪光の呪いがあるんだ。ぜひ、その浄化もお願いできないか?」
「お言葉ですが陛下、今回の月喰いの日にはザンクの花という猛毒が原因で何とか出来たのです。ですが魔呪光は‥」
これこそアード神にしか浄化出来ない奴でしょ!私?無理無理。
「そこを何とかお願いできないかと」更に畳みかけられる。
とうとう「そんなの無理に決まってんだろう!」カイヤートが声を荒げる。
~補足説明~
今さらだがこの世界の月は年に四回満月になる。一回満月になるまでに三カ月かかるのだ。
だから今日の月はほんとなら光の関係で見えるのは丸くはないが。太陽を遮った月は本体が重なったので丸かった。
普通ならおかしいと思うはず。でも、そんな天体知識のないこの世界ではそんな事に気づく人もいない訳だ。
まあ、そんな知識が魔呪光をどうにか出来るって話にはならないんだけど‥
イエンス様がにやりとした。
「いや、カイヤート。セリ殿ならきっと出来る。それに父上聞いてください。この二人は番でどうやら証刻印が現れたらしいんです」
皇王の眉が上がる。
「それは本当か?カイヤート刻印を見せて見ろ」
皇王がカイヤートの手をぐっとつかむ。
「おお、これは‥セリ殿も手を」
こうなると差し出さないわけには行かない。
皇王が証刻印を重ねると月の形に。
「「「すごい!」」」
その場にいた全員が声を揃えた。
「わかったでしょう。この二人なら魔呪光もきっと浄化できるはずです」
イエンス様やり方が汚いですね。
私達が失敗して皇王の期待を裏切ればいいと思ってるのね。ほんとに嫌な奴。はぁ、無駄に助けるんじゃなかったな。
「ああ、そうかもしれん。何しろ初代の皇王に会ったとされる究極の愛の証だ」
皇王は当然食いついた。
「ですが、それとこれは別で‥それよりアーネ様はどちらに?イエンス様あんなにアーネ様を押してらしたじゃありませんか。アーネ様こそ大聖女。彼女にやって頂けばよろしいのでは?」
私は話を反らしたくてアーネの事を話す。
「アーネか。あれはどこかに消えた。まあ、あんな役立たずいなくなってくれて良かったが」
イエンス様がそっけなく答える。
ああ‥逃げ足も速かった事を忘れてた。
「とにかく父上。私とセリは出来る限りの事はしますが期待はしないで下さい。今回出来たからと言って次もうまく行くとは限りません。それでいいなら今度の満月も浄化をやりましょう。でも、出来なかったとしてもその責任を問うことは止めて頂きたい。そして私は成人の儀式を終えたのち彼女と結婚しますので」
カイヤートは仕方がないとそれを受け入れたらしいがきっちり私との結婚を確約させようとしている。
いいんだか悪いんだか‥
「ああ、カイヤート良く言った。それでこそわが息子。もしお前が魔呪光を浄化出来たら次期皇王はお前にしよう。セリ殿を妃に迎えればこの国は安泰というものだ」
「父上!それでは話が違います。次期皇王は私と決まっているじゃありませんか!」
そう反論したのはイエンス様。まあ、当然。
「イエンス。お前が聖女だと言い張っていたアーネは浄化にも表れなかったではないか。もし、セリ殿がいなかったらどうなっていた?ミリエルとも疎遠だと聞いたぞ」
「ですが‥ミリエルとはよりを戻しました」
「まあ、それはいい。イエンスとミリエル。カイヤートとセリ殿。どちらが本物だ?二人は究極の愛で結ばれた相手。これほど次期皇王にふさわしいものがいるとは思えんが」
「でも!」
「イエンスお前を皇太子から外す。今後はカイヤートを皇太子とする」
イエンス様が髪の毛がぶわっと逆立ちぎろりとカイヤートを睨みつける。
カイヤートはちらりとイエンス様を一瞥したがそんな事はお構いなしに話をする。
「父上。俺はそんなもの興味ないから。執務もこなせる自信もないし。だから皇太子は兄上にやってもらってくれないか?」
私もカイヤートは本当にそんなタイプではないと思う。自由でどちらかと言えば騎士隊長くらいが関の山かな。
「まったく、それでは国民が納得しない。いいから執務はイエンスから引き継げ。いいな!」
「出来ないって言ってるだろ!くそ親父!」
「いや、やるんだ。イエンス。いいかお前が責任をもってカイヤートに執務を引き継がせろ。期限はミリエルとの結婚式までだ」
「では私はどうなるのです?皇太子の座を下りたとなれば‥」
「まあ、それまでには考えておく。心配するな。皇族としてやっていけるようには取り計らってやる」
「‥‥‥」
イエンス様は怒って出て行った。
「父上、知りませんよ。兄上をあんなに怒らせて、兄上にしか執務は出来ないんですから、俺は無理ですからね。はっきり言いましたよ。セリ早く帰ろう。もう疲れたろう。ほんとこんな話なら来なきゃよかったよ。なぁ」
私達が客間を後にすると大司教が追いかけて来た。
「カイヤート殿下お待ちください」
カイヤートは待ちきれないとばかりに私の腰をぎゅうと抱き寄せると振り返った。
「なんだ?急いでるんだが」
「も、申し訳ありません。ですが、セリ様を是非大教会の聖女として来ていただきたく‥」
あんなに偉そうだった大司教が揉み手をしながら私たちに微笑んだ。
「「無理!」」
二人同時にそう言った。
カイヤートは嬉しそうに私を見つめる。
「決まりだな。彼女が嫌がることは出来ない。まあ、父の話を聞いただろう?次の満月の浄化はやって見るから、それでいいだろう?」
「ですが、セリ様は稀代稀な聖女様。大教会に属されないと言うのは神にも背く事かと」
「神に背く?おい、ふざけるなよ。さっきの偉業が神に背かれたものの出来る事か?ったく!行こうセリ!!」
怒り心頭のカイヤートは私を抱き上げて歩き出す。
大司教はその後を追いかけて来る。
「も、申し訳ありません。お待ちください。セリ様‥」
私はカイヤートの肩越しに言った。
「大司教。私、彼の屋敷で子供たちの世話が忙しいので。あっ、もちろんこれからも孤児院などには出向いて協力するつもりですよ。では」
大司教はその場にうなだれたいた。
9
あなたにおすすめの小説
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
私、異世界で獣人になりました!
星宮歌
恋愛
昔から、人とは違うことを自覚していた。
人としておかしいと思えるほどの身体能力。
視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。
早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。
ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。
『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。
妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。
父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。
どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。
『動きたい、走りたい』
それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。
『外に、出たい……』
病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。
私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。
『助、けて……』
救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。
「ほぎゃあ、おぎゃあっ」
目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。
「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」
聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。
どうやら私は、異世界に転生したらしかった。
以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。
言うなれば、『新片翼シリーズ』です。
それでは、どうぞ!
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜
四葉美名
恋愛
「危険です! 突然現れたそんな女など処刑して下さい!」
ある日突然、そんな怒号が飛び交う異世界に迷い込んでしまった橘莉子(たちばなりこ)。
竜王が統べるその世界では「迷い人」という、国に恩恵を与える異世界人がいたというが、莉子には全くそんな能力はなく平凡そのもの。
そのうえ莉子が現れたのは、竜王が初めて開いた「婚約者候補」を集めた夜会。しかも口に怪我をした治療として竜王にキスをされてしまい、一気に莉子は竜人女性の目の敵にされてしまう。
それでもひっそりと真面目に生きていこうと気を取り直すが、今度は竜王の子供を産む「運命の花嫁」に選ばれていた。
その「運命の花嫁」とはお腹に「竜王の子供の魂が宿る」というもので、なんと朝起きたらお腹から勝手に子供が話しかけてきた!
『ママ! 早く僕を産んでよ!』
「私に竜王様のお妃様は無理だよ!」
お腹に入ってしまった子供の魂は私をせっつくけど、「運命の花嫁」だとバレないように必死に隠さなきゃ命がない!
それでも少しずつ「お腹にいる未来の息子」にほだされ、竜王とも心を通わせていくのだが、次々と嫌がらせや命の危険が襲ってきて――!
これはちょっと不遇な育ちの平凡ヒロインが、知らなかった能力を開花させ竜王様に溺愛されるお話。
設定はゆるゆるです。他サイトでも重複投稿しています。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。
バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。
全123話
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる