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95セリ操られる
しおりを挟む気づくと私はヴァニタス王の寝室にいた。
「うぅっ‥」
頭が狂うほど痛い。頭を抱えるようにして立ちあがる。
彼は床に気を失って倒れている。
何があったの?
記憶が曖昧で‥ここに来て赤ちゃんドラゴンが病気だからと治癒をして欲しいと頼まれて‥それから‥
「ぐぐぅぅぅ‥」
脳内で何かがうごめくような感触がしてそのうち思考が固まって行く。
『お前は生きていてはいけない。お前が生きていることは罪だ。お前が生きていてはたくさんの人々が苦しむことになる。一刻も早く死ななくてはいけない‥さあ、その窓に行け!そしてそこから飛び降りればすべてが終わる。急ぐんだ』
私は死ななければならない。私が生きているとみんなが苦しむから。だから今すぐ窓から飛び降りなくては‥
訳の分からない思考がどんどん私を追い込んでいく。
『どうして?』
『いや!』
そんな感情が浮かんでもいはずなのに。
脳内の思考はそんな考えをすべて断ち切ってしまう。
私はふらつく身体で窓に向かう。
窓を開け放つと勢いよく冷たい風が吹き込んだ。
気持ちいい。
ああ、そうだろう。ここから飛び降りればもっと気持ちいい。何も心配ない。さあ、ここから飛び降りるんだ。
「ええ、そうね。きっと気持ちがいいわ」
私はそんな事を口走りながら窓の枠に脚を掛ける。
「セリ殿!何をしてる?やめろ!窓から離れろ!」
黒い影がいきなり私の身体ごと強い力で引っ張った。
『お前は死ななくてはならない。今すぐに!さあ、早く!』
「いや、離して!私は生きていてはいけないんです!お願い離して!!」
強い力で抱き込まれた身体をもがく。
「何を言ってるんです?セリ殿?何があったんです」
ぎい~んと頭の中が痺れて、その途端、魔力が体内を循環してプチプチと何かが潰れたみたいな感覚がした。
「あれ?私、何をしてるんだろう?」
「何をしてるんだろうって!あなたは窓から飛び降りようとしてたんですよ。何があったんです」
そう言ったのはヴァニタス王の弟のカレヴィさんだった。
「カレヴィさん?どうしてここに‥えっ?ここはどこです?」
「はっ?ここはヴァニタス王の寝室です。兄はあなたをここに連れ込んだようで‥申し訳ない。もう少し遅ければ大変な事になっていました。私が勇気がなかったばかりにあなたを危険な目に合わせてしまいました。兄が、気を失っていて良かった。それにしても何があったか覚えていないんですか?」
私は確かヴァニタス王と食事をしていた。
「彼と食事をして‥そうそうカレヴィさんに言われたように透視魔法で彼の脳を見ました。リガキスがたくさんうごめいていてそれで私こっそり浄化魔法をヴァニタス王にかけていたんですけど‥あっ、魚を食べた辺りで意識が遠のいてしまって‥何だか頭の中で命令されて‥でも、気づいたらあなたに‥あっ、すみません。私いつまでこんな」
カレヴィさんの腕に抱かれたままだった事に今更気づいて慌てて起き上がろうとする。
「セリ殿、あなたは本当に勇敢な女性ですね。私なんか兄が恐くて体当たりで兄を止めようともしなかった」
「そんな、私だって恐かったですよ。それにこうして助けて下さったじゃありませんか。そんな事より今のうちにヴァニタス王に入り込んだリガキスをすべて駆除した方がいいです」
「ですが、身体は大丈夫なんですか?」
「そんな事より彼が目を覚ます方が厄介ですよ」
私はすぐに床に倒れたままでいるヴァニタス王の手を取りその身体に魔力を注ぎ込む。
透視魔法であちこちに潜むリガキスを駆除して行った。
「これでヴァニタス王の中にいたリガキスはすべていなくなったはずです」
「ありがとうございます。まさにあなたは救世主だ。どんなにお礼を言っても足りません。兄はしばらく休ませましょう」
カレヴィさんはヴァニタス王をベッドに寝かせると私と共に部屋を出た。
私は部屋に戻るとぐったり疲れてすぐにまた眠りについてしまった。
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