38 / 40
38真実2
しおりを挟むしばらく馬車で走ると王都の外れにあると思われる宿屋に着いた。
「こちらです」
クレイブさんが宿屋の中を先立って歩いて行く。
奥の部屋の一番角部屋に着いた。
そこには結界が張ってあった。クレイブさんが手を差し出すと淡い光が浮かんで私とアリトは扉をくぐり抜けていた。
部屋はもう暗くクレイブさんが急いでランプに魔力を込めたらしく、すぐに部屋の中が見えるようになった。
りんと?‥あれが?うそ。やつれた顔の男がベッドに横たわっている。
「リントさん。ミルフィさんをお連れしました」
クレイブさんが声をかけるとリントと思われる人がこちらを向いた。
目を開けるがその瞳に輝きはない。角も折れたままだった。
「み、るふ、ぃ。か?もっと‥そば‥来てもらっ‥も?」
彼がゆっくりと手を差し出したのが見えた。
筋肉質だった腕は枯れ枝のように細く弱々しい。
「ミルフィさん。彼はもう目が見えません。すみませんがもう少しそばに近づいてもらえませんか?」
死にそうだって聞いて嘘だと思っていた。それに目も見えなくなってるなんて‥
うつろな瞳に力なく差し出された手。すべてを諦めたようなそんな雰囲気が部屋中に漂っている。
クレイブがアリトを預かると手を差し出したので私は眠っているアリトをクレイブに預ける。
そして意を決してリントに近づいた。
「‥リント。?‥ミルフィです」
喉の奥が張り付いたようでそれ以上言葉が出てこない。
「ああ‥みる、ふぃ‥か。やっと‥やっ‥あえ、た。あい‥かっ‥どん、なに‥きみが‥こいし‥ったか。すご‥辛かっ。それ、でも‥また、いつ‥‥あえ‥と‥。それ、だけを‥‥して‥来た」
声は掠れ言葉は途切れ途切れでそれでもリントの気持ちはひしひしと伝わった。
「わたしだって‥会いたかった。ずっと‥ずっと‥あなたに」
鋼のように覆われていた心にミシミシと亀裂が入り、秘めていた思いがぽろぽろ零れ落ちた。
「‥ミルフィ‥あい‥して、る‥」
どんな言葉より聞きたかった彼の愛の言葉。
折れそうにやつれた手を握りしめると身体の奥に眠る彼の魔力を感じた。何の考えもなく自然にその魔力を揺り起こすように魔力を引き出す。
そのままリントにその魔力を与える気持ちで彼の手を握る。
「ああ‥からだに‥力が‥漲って行く」
リントがそう呟くと彼の顔に紅がさすように血色が良くなって行く。見る見るうちに握った手に血液が流れ込んで行く感じがする。
どうやら目も見えるようになったらしくリントは私をまじまじと見つめていた。
「やはり、番のあなたの力は絶大ですね。見る間にリントさんが力を取り戻して行ってます。ここまで来ればもう大丈夫でしょう。良かった。本当に良かった」
「良かったって?」
「えっ?元鞘に戻るってことでしょう?ミルフィさんもリントさんをずっと好きだった訳で子供までいるんです。一緒にいればこんな事にはならないはずでしょう?」
「俺はミルフィとよりを戻す気はない」
「「はっ?」」
「何言ってるんです?あんなに彼女を恋しがっていたくせに」
「それは出来ないんだ!」
「どうしてです?俺ずっと思ってたんです。どうしてリントさんはミルフィさんの元に戻らないのかって!いいんですか?このままミルフィさんを返して。俺もうマジ知りませんよ!」
クレイブさんまで驚いてリントに怒っている。
「いえ、いいんです。あれから3年。彼にだって自分の生活があるはずです。では私はこれで失礼します。アリト行こうか」
「クレイブ。誰がミルフィを連れて来いと言った?」
「そんな事言うんです?俺、もうミルフィさんと行ちゃいますよ。はぁぁ~嫌だ。こんな人に仕えるなんてもう嫌だ!」
「クレイブお前は知らないからそんな事が言えるんだ!」
「知らないって何をです?だったら話してくださいよ。ミルフィさんだってリントさんの気持ち知りたいはずです。リントさん一人で抱え込んで卑怯ですよ。そのくせ卑屈になってひとりで死にそうになって‥俺にも、いえ、ミルフィさんにも言えない事なんです?」
クレイブさんは更に起こる。
「いや、ミルフィ待ってくれ。俺は今でも君を愛してる。この気持ちは死ぬまで変わることはない。番である君を忘れることなど出来ないんだ。でも、どうしても君とアリトと一緒にいられない事情があるんだ」
リントは私とアリトに触れようとするがあと一歩のところで思いとどまった。
ほら、やっぱり。愛してる?うそよ。あなたは私達の事なんてどうでもいいのよ。
それなのに‥リントが危険だって聞けば私は矢も楯もたまらずやって来て‥ばかね。
心の片隅にあった期待がガラガラ音を立てて崩れて行く。
「あなたの事情を聴くつもりはないわ。どうせ私たちの事なんかどうでもいいくせに!帰ろうアリト」
そう、そうよ。リントは私達の事なんて‥ずっと心の片隅で感じていた気持ち。でも、それを認めるのは恐かった。でも、はっきりわかったから。
私は立ちあがって帰ろうとする。顔をいきなり背けたせいで眦に溜まっていた涙がポロリと零れ落ちた。
泣いている所なんか見せたくないのに‥
後ろからリントが私の手を握る。
「そうかもしれない。ずっと苦しかった。ミルフィ。俺が君を裏切った風に思われてそれで今のように心がすり減ってしまった。でも、同じように君も苦しんでいた。そうなんだろう?だから君は泣いて‥ごめん。また君を悲しませた」
そんなのずるい。そんな事言わないで。お前なんか嫌いだって言われる方がずっといい。なのに‥
「それは違うわ。私が貴方を信じれなかったからで、リントは悪くない。会いに来ても拒否したのは私じゃない。あなたのせいじゃない」
「それでも子供が出来た。会いに行くべきだろう?でも、行けなかった。恐かったんだ俺は‥お願いだミルフィ聞いてくれ」
まだ、戸惑うリントを見てクレイブさんはしびれを切らす。
「リントさん何を隠してるんです?もう、いい加減吐き出しましょうよ。これで何も言わなかったらミルフィさんを番だなんて言えませんよ」
「ああ、わかった。3年前俺は君との約束を果たそうとピュタール国に向かった。そこで竜帝である父に退位するよう頼んだ。そして竜議院で俺の兄のジュードが新たな竜帝になった。俺は竜帝の継承権を完全に放棄してマニール国に戻ろうとしていた。そこに父が話があると言って‥父の話は亡くなった母の事だった。私の母はキンリー公爵の罠にはまって毒を盛られて死んだと思っていたが違っていたんだ。ピュタール国では番の子は魂玉を持って生まれるんだ。だから竜帝には番との間に生まれた子が竜帝となる。だが、ここ最近は番が見つからなくて竜帝の血を引くものが竜帝になっていたんだが、父に番が見つかった」
「ええ、それがリントさんです」クレイブが分かりやすいように教えてくれる。
「ああ、問題はそこからなんだ。竜帝に番が見つかり子を授かると魂玉を持つものが二人になる。それがやっかいで。魂玉が二つ揃うと竜帝かその番かその子供のいずれから命を落とす呪いがあるんだ。母はそれを知って自ら命を絶った。でも、この呪いは竜帝にしか伝えられない秘伝で母はそれを父から聞いて知っていた。だからキンリー公爵のせいにして毒殺に見せかけ死んだ。そうすればキンリー公爵も追い落とせると思ったんだろう」
「そんな‥もしかしてリントが死にそうになったのはその呪いのせいなの?」
「ああ、俺もそうだと思っていた。でも、ミルフィに魔力を呼び戻されて元気になった。そう言えばアリトの具合は?熱が続いていると聞いたが」
「どうして知ってるの?」
「クレイブが君やアリトの事は何でも教えてくれるし、時々は遠くから二人の姿を見てたから‥」
私はクレイブをじろりと見る。
「いや、そんな目で見ないで下さいよ。俺だって精一杯だったんですよ。でも、この数日はリントさんがマジやばくって‥」
リントはリントで長く伸びた銀髪をわしゃわしゃ掻きまわしている。
「ああ、俺も、もう終わりかと思った」
「そう‥でも、もう元気そうよね?それにアリトはやっと熱が下がって来た所できっともう大丈夫じゃないかと思うわ」
「良かった。アリトは無事なんだな」
リントが私の髪にそっと触れて、次にアリトの頭をそっと撫ぜた。
ただ、それだけなのに‥胸がいっぱいになる。
「‥‥‥」
こんなのずるいって‥‥
12
あなたにおすすめの小説
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
番探しにやって来た王子様に見初められました。逃げたらだめですか?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はスミレ・デラウェア。伯爵令嬢だけど秘密がある。長閑なぶどう畑が広がる我がデラウェア領地で自警団に入っているのだ。騎士団に入れないのでコッソリと盗賊から領地を守ってます。
そんな領地に王都から番探しに王子がやって来るらしい。人が集まって来ると盗賊も来るから勘弁して欲しい。
お転婆令嬢が番から逃げ回るお話しです。
愛の花シリーズ第3弾です。
【完結】番が見ているのでさようなら
堀 和三盆
恋愛
その視線に気が付いたのはいつ頃のことだっただろう。
焦がれるような。縋るような。睨みつけるような。
どこかから注がれる――番からのその視線。
俺は猫の獣人だ。
そして、その見た目の良さから獣人だけでなく人間からだってしょっちゅう告白をされる。いわゆるモテモテってやつだ。
だから女に困ったことはないし、生涯をたった一人に縛られるなんてバカみてえ。そんな風に思っていた。
なのに。
ある日、彼女の一人とのデート中にどこからかその視線を向けられた。正直、信じられなかった。急に体中が熱くなり、自分が興奮しているのが分かった。
しかし、感じるのは常に視線のみ。
コチラを見るだけで一向に姿を見せない番を無視し、俺は彼女達との逢瀬を楽しんだ――というよりは見せつけた。
……そうすることで番からの視線に変化が起きるから。
[完結]間違えた国王〜のお陰で幸せライフ送れます。
キャロル
恋愛
国の駒として隣国の王と婚姻する事にになったマリアンヌ王女、王族に生まれたからにはいつかはこんな日が来ると覚悟はしていたが、その相手は獣人……番至上主義の…あの獣人……待てよ、これは逆にラッキーかもしれない。
離宮でスローライフ送れるのでは?うまく行けば…離縁、
窮屈な身分から解放され自由な生活目指して突き進む、美貌と能力だけチートなトンデモ王女の物語
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
番は君なんだと言われ王宮で溺愛されています
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私ミーシャ・ラクリマ男爵令嬢は、家の借金の為コッソリと王宮でメイドとして働いています。基本は王宮内のお掃除ですが、人手が必要な時には色々な所へ行きお手伝いします。そんな中私を番だと言う人が現れた。えっ、あなたって!?
貧乏令嬢が番と幸せになるまでのすれ違いを書いていきます。
愛の花第2弾です。前の話を読んでいなくても、単体のお話として読んで頂けます。
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる