妾に恋をした

はなまる

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1妾の試験受けます

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 私は一度大きく息を吐くと勇気を出して侯爵家の門番に挨拶をした。

 「ガストン侯爵様ネイト公爵令息様と面会のお約束をしているミーシャ・ベルランドと申します」

 門番はそれを聞くとすぐに門を開け別の人間に知らせを頼む。

 「これはベルランド子爵令嬢様、お話は伺っております。すぐにご案内します」

 腰を90度の折り曲げそつのない挨拶。

 さすがは侯爵家、使用人の態度にも隙がないわぁ。

 私は緊張で息をしていなかったらしく、それを気づかれないようにゆっくりふぅぅと鼻から息を抜く。

 なにせ私は一度結婚したが夫が亡くなり出戻った子爵令嬢。

 普通ならこんな所に出入りする事も無理なところなのだが妾の募集を見てこれだと思ったのが運のつきだった。

 支度金。毎月の給金も破格。それに子供が出来ればさらにお祝い金まで出る。

 お金に困っている子爵家のミーシャに取ったら神様仏様だった。


 私は案内されて侯爵邸の玄関に向かって歩く。

 先に立って案内しているのは門番だったが、途中で執事らしき男性が出迎えに来た。

 侯爵邸の庭はきれいに整備されとても美しい庭園で広かった。

 そこを通り抜けやっと玄関に辿り着いた。

 大きな扉を開けると(おぉぉぉ~)と声を上げそうになる。

 広いポーチに豪華な彫像や花瓶床は大理石だろう。ピカピカに磨かれている。

 その大理石に高い窓から光が折り重なるように差し込んで幾重にも美しいグラデーションを描いている。

 私は思わず後ずさりする。


 「ベルナンド子爵令嬢、お部屋にご案内いたします」

 執事はきちんとした身なりで礼儀もしっかりしていた。

 私はそこでも内心大きなため息をつきながら自分の身なりを再チェックした。

 ドレスは落ち着いた薄紫色。首元もしっかり詰まっていてドレスの膨らみの抑え気味で華美な装飾もない。

 亜麻色の髪は金色に茶色を溶かしこんだような色合いの髪。どこにでもある平凡な髪をきちんと束ねてある。

 瞳の色はピンクゴールドと言われる変わった色。昼間は淡いピンク色だが暗がりで見ると猫の瞳のように金色に光るらしく気味悪がられる。

 私は切れ長の目なので余計に冷たい印象を与えるらしく、前の嫁ぎ先の母からも冷たい嫁だと言われた。

 そんなことを言われても持って生まれた顔をどうすればいいのかと思う。

 それに夫が亡くなったのは馬車の事故で、まあそれでここに来たのだけれども…

 (こんな窮屈そうなところでやって行けるのか…まして自分は嫁でもなく妾として?)

 薄っすらと化粧をした頬に熱が集まる。

 (落ち着くのよ。しっかりしなきゃ。ここで食いっぱぐれるわけにはいかないのよ。弟や妹の学費や他の支払いもあるんだから!)

 そうベルランド子爵家は小さな領地で経営難にあえいでいる。そのためにハッシュベリー伯爵家に嫁いだのに半年ほどで夫が亡くなった。

 そしてまだ数か月と言うのにもう次の相手を探しているという何とも浅ましいと思われるかもしれないが実家には金が必要だった。

 
 ネイト様の妻はローリッシュ公爵家の次女だと聞いている。名前はメリンダ様。

 侯爵家に嫁げば一番の仕事は跡取りを産むこと。彼女にはそれが難しいらしく結婚してまだ1年だというのにもう妾を取るらしい。

 (まったく。もう少し優しい対応は出来ないのかしら?せめて3年は待つべきじゃ?そうなると私は不要なわけで…いやいや、まだ採用されたわけでもないのに。それにほいほいここに来た自分にそんな事を言えるわけがないわ。それにお給料は破格にいいし子が生まれればお祝い金も出るらしいから)


 「こちらでお待ちください。すぐに主人が参ります」

 執事はそう言って去って行った。

 案内された応接室のソファーにゆっくり腰を落とす。

 迎えられるふかふかの触感に今日一番の癒しを感じて「くぅぅぅ~」とうなった。

 明るい大きな窓。そこからは表に出られるようになっているらしい。先ほど歩いて来た美しい庭が見渡せた。

 脚元はふかふかの絨毯、質の良い高級家具。調度品はどれをとっても私は一生かかっても払いきれないだろうと思うようなものばかりだった。

 私は両手を膝の家に置いて目を閉じて待った。

 (笑顔。笑顔で挨拶。はきはきとした受け答え。誠実な態度で、後は…そう忠犬のようにご主人に尽くしますって…)

 「失礼します」

 執事が声をかけて扉が開く。

 いきなり静寂を破り数人の人が入って来た。


 (がんばれ私!)ミーシャの緊張は最大になる。


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