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5ご主人は意外と優しいのかも
しおりを挟む私は荷物を整理して用意されたワンピースを手に取った。
こんな可愛いワンピースなど着た記憶がなかった。小さなころから我が家は食べて行くのがやっとのような貧乏子爵家だったから…
鏡に映るその姿に少し照れ臭くなったが、せっかく用にしてもらったのだ。着なくてはもったいない。
思わずこぼれる笑み。私も夢見る女の子なのかな?と思いつつ。
そんな気持ちにもなって私はレースのたっぷりついた淡いピンク色のワンピースを着てソファに座った。
きっと緊張して疲れていたのだろう、そのままうたたねしてしまった。
ふと意識が浮上した。柑橘系の香りが鼻腔をくすぐり私はぼんやりと目を開けた。
「ここは?」
「気が付いたか?だめじゃないか。大切な身体なんだ。寝るなら何か掛けないと」
(えっ?お父様?ううん。そんなはずはない。父はそんな優しい気の利く人ではない)
視界には見慣れない部屋が入って来て…ここはどこ?
「おい、ミーシャ嬢、大丈夫か?」
そこではっきり覚醒した。
がばりと起き上がる。
「な、なんでご主人様が?」
「な、なんでって挨拶に…」
ネイト様がいた。目の前に。
「ど、どうして私ベッドに?」
「はあ?寝てたからソファーじゃ身体が辛いかと思っただけだ。も、もちろん、素肌には触れていない心配するな」
素っ気ない受け答えだが、先日見たイメージとはまるで違う狼狽えるネイト様。
髪は少し乱れて鋭い瞳は泳ぎまくり狼狽える姿はとても先日の冷たいイメージとは違うような。
「あわゎゎ…すみません」
私はベッドから急いで降りるとご主人に頭を下げた。
「ばか、謝らなくていい。こっちこそ勝手に入った。すまん、声をかけたが返事がなくて心配になってつい扉を開けた」
ご主人の顔は冷たい表情に戻っていた。
「はぁ」
そうなのだ。この離れは扉を開けたらリビングは丸見えになる。
「ありがとうございました。もう、大丈夫ですから」
「ああ、そうだな。じゃ、俺はこれで」
「えっ?もう行っちゃうんですか?」
「ああ、挨拶に来ただけだから」
「あぁぁぁ、申し訳ありません。本日からお世話になりますミーシャ・ベルランドです。ご主人様どうかよろしくお願いします。それから私の事はミーシャとお呼びください」
「ああ、ミーシャ。こちらこそよろしく頼む。何かあったらどんな事でも言ってくれ。もし使用人や妻が嫌な思いをさせたら報告するように。いいな?」
「はい、でも奥様はすごくお優しそうな方ですからそんな心配はないかと」
「まあ、だが公爵家の女は気位が高いか…まあ、ここにいればそんな心配もないと思うが…とにかく何でも言ってくれ。ミーシャにはストレスを与えないようにと母からも言われている」
「はぁ…頑張ります」
ネイト様はそれだけ言うと私に触れるでもなくさっさと出て行った。
ガストン侯爵は王宮の内務大臣をされていてネイト様はその下で事務官の仕事をしながら領地経営の仕事もされていると聞く。
跡取りが生まれれば爵位をネイト様に譲るとも聞いた。
だから王宮から帰って来られて挨拶に見えたのだろう。
私は心配になって来た。そう言えばここに来た時、奥様が睨んでいたような…面白いはずがない。女なら誰だってそうだろう。
嫌味の一つも言いたくなるに違いない。
でも、それくらいは覚悟しないとやってはいけないと思う。
それにいちいちご主人様に言いつける気もない。
奥様だって辛いに違いないのだから。
それにしてもネイト様のイメージ違うかも。意外と優しい人かも。良かったじゃない。
私はひとりガッツポーズをしてみた。
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