8 / 44
8我が家の事情がばれました
しおりを挟む「あれは?湯が沸いているんじゃないのか?」
「あっ、申し訳ございません。お茶を準備しようとして…」
いきなり指摘を受けて私は慌てて火を止めにキッチンに行く。
そこからネイト様に声をかけた。
「お茶をご用意して下さったと聞きました。とても美味しくてご主人様にも飲んでいただこうと準備している所でした」
「そうか、気に入ってくれたなら良かった。ミーシャと呼んでも?」
「はい」
「俺の事はネイトと呼んでくれ…ご主人なんて止めてくれ」
「でも、これは私のけじめなんです。おかしな勘違いをしないためにもご主人様と呼ばせて下さい」
「…わかった。でも、ベッドの中ではやめてほしい。いいかミーシャ?」
「それも…無理です」
キッチンとリビング。離れた場所でそんな会話をした。
お茶の準備が出来て私はそれを持ってリビングに行くと彼の前でお茶を煎れる。
アールグレイの香りが部屋を満たす。
「どうぞ」
「ああ」
彼はそれだけ言うとカップを手に取った。
「お茶煎れるの旨いんだな」
「いえ、実家では侍女もいませんでした。母も病弱で私が早くから家の事をしておりましたので自然とこんな事が身につきました」
私はそう言いながら向かいのソファーに座ってカップを手にする。
「いいと思う。疲れて帰って来た夫にこうやってお茶を煎れてもらえるとうれしいんじゃないか」
「あっ、気が付きませんで…奥様はそう言った事には慣れておられませんですよ。公爵家のご令嬢ですから…」
「すまん。そんな意味ではなかった。子を作るためだけにこんな所に来てもらってすまないと思っている。本当ならもっといい縁談でもあっただろう」
「そんな…私は出戻りですから」
「だが、夫とは死に別れ、それも相手は再婚だったんだろう?そもそもどうして再婚相手と?」
「うちは領地が不作続きで借金があったんです。それで縁談を急いでいましたから…仕方なく」
つい本音が漏れた。決してトーマスが嫌いだった訳ではない。でも、前妻を愛する夫の妻は辛かった。
「それで今回も仕方なく?」
「えっ?」
見上げると彼が辛そうに眉を下げていた。
「いえ、むしろありがたいと…たくさんの援助を約束していただきました。月々のお給金も他とは比べ物になりません。しっかりお勤めを果たすつもりです。もし他の縁談があったとしても出戻りとなれば政略結婚のはずです。一度失敗すると二度目は躊躇するものです。ですから私にはこちらの方がうんと気が楽でいいのです」
私は思った。こんな話聞かない方が、言わない方がお互い気を使わなくて済むはずなのにどうしてこんなことを聞くのだろうと。
「わかった。一応確かめておきたかっただけだ。ミーシャの覚悟は理解した。では、お互い感情を抜きにして身体だけを繋ぐという事でいいんだな?」
「もちろんです。よろしくお願いします」
ネイト様はカップをテーブルに置くと手招きをした。
私は素直に彼の横に座った。
緊張で少しぎこちなかったかも知れない。
彼の手が腰を引き寄せ唇が重なった。
そのまま押し倒されるように彼が上にかぶさって来た。
キスは初めてだった。
だってトーマスはキスは絶対にしてくれなかったから…
471
あなたにおすすめの小説
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす
春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。
所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが──
ある雨の晩に、それが一変する。
※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
【完結】あなたに抱きしめられたくてー。
彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。
そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。
やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。
大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。
同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。
*ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。
もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる