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8我が家の事情がばれました
しおりを挟む「あれは?湯が沸いているんじゃないのか?」
「あっ、申し訳ございません。お茶を準備しようとして…」
いきなり指摘を受けて私は慌てて火を止めにキッチンに行く。
そこからネイト様に声をかけた。
「お茶をご用意して下さったと聞きました。とても美味しくてご主人様にも飲んでいただこうと準備している所でした」
「そうか、気に入ってくれたなら良かった。ミーシャと呼んでも?」
「はい」
「俺の事はネイトと呼んでくれ…ご主人なんて止めてくれ」
「でも、これは私のけじめなんです。おかしな勘違いをしないためにもご主人様と呼ばせて下さい」
「…わかった。でも、ベッドの中ではやめてほしい。いいかミーシャ?」
「それも…無理です」
キッチンとリビング。離れた場所でそんな会話をした。
お茶の準備が出来て私はそれを持ってリビングに行くと彼の前でお茶を煎れる。
アールグレイの香りが部屋を満たす。
「どうぞ」
「ああ」
彼はそれだけ言うとカップを手に取った。
「お茶煎れるの旨いんだな」
「いえ、実家では侍女もいませんでした。母も病弱で私が早くから家の事をしておりましたので自然とこんな事が身につきました」
私はそう言いながら向かいのソファーに座ってカップを手にする。
「いいと思う。疲れて帰って来た夫にこうやってお茶を煎れてもらえるとうれしいんじゃないか」
「あっ、気が付きませんで…奥様はそう言った事には慣れておられませんですよ。公爵家のご令嬢ですから…」
「すまん。そんな意味ではなかった。子を作るためだけにこんな所に来てもらってすまないと思っている。本当ならもっといい縁談でもあっただろう」
「そんな…私は出戻りですから」
「だが、夫とは死に別れ、それも相手は再婚だったんだろう?そもそもどうして再婚相手と?」
「うちは領地が不作続きで借金があったんです。それで縁談を急いでいましたから…仕方なく」
つい本音が漏れた。決してトーマスが嫌いだった訳ではない。でも、前妻を愛する夫の妻は辛かった。
「それで今回も仕方なく?」
「えっ?」
見上げると彼が辛そうに眉を下げていた。
「いえ、むしろありがたいと…たくさんの援助を約束していただきました。月々のお給金も他とは比べ物になりません。しっかりお勤めを果たすつもりです。もし他の縁談があったとしても出戻りとなれば政略結婚のはずです。一度失敗すると二度目は躊躇するものです。ですから私にはこちらの方がうんと気が楽でいいのです」
私は思った。こんな話聞かない方が、言わない方がお互い気を使わなくて済むはずなのにどうしてこんなことを聞くのだろうと。
「わかった。一応確かめておきたかっただけだ。ミーシャの覚悟は理解した。では、お互い感情を抜きにして身体だけを繋ぐという事でいいんだな?」
「もちろんです。よろしくお願いします」
ネイト様はカップをテーブルに置くと手招きをした。
私は素直に彼の横に座った。
緊張で少しぎこちなかったかも知れない。
彼の手が腰を引き寄せ唇が重なった。
そのまま押し倒されるように彼が上にかぶさって来た。
キスは初めてだった。
だってトーマスはキスは絶対にしてくれなかったから…
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