シャロンはまたしても気づいていなった本物のジェリーフィッシュを見失った事に

はなまる

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 シャロンはレックスの顔を見上げた。

 彼は、鼻腔をひくつかせ、刃のような琥珀色の目でわたしを見据えた。

 わたしはつばをごくりと飲み込んだ。わたし彼の機嫌を損ねるような悪い事言った?こんなレックスは初めてだった。


 「シャロン…ジェリーとよりを戻すだって?君は正気なのか?あんな…あんなくそみたいな奴と?ちょっとばかり売れたからと言って彼の本質が変わるわけじゃないんだ。そのことは君もよくわかってたはずだろう?」レックスのしゃべり方はいつもとはまるで違っていて、信じられないと言う顔をした。



 彼の話はもっともだ。たしかにわたしもそう思っていたのだから。そう、彼曰く、君もよくわかっていたはずだった。でも…



 「でも、わたし勘違いしてたの。彼は浮気なんかしていなかったのよ。わたしはてっきり彼はわたしを裏切っていると思ったから彼を追い出したし、あなたの言う通り別れてよかったとも思っていたわ。でもずっと彼の事が忘れられなかったのは知ってるでしょう?聞いてレックス。ジェリーはわたしが入院している間ずっとわたしの面倒を見てくれたのよ。わたしに毎食食事を食べさせてくれて…」わたしはレックスにわかってほしくて彼の腕をつかんで一生懸命話をした。



 レックスは腕を振りほどくと今度はわたしの顔を包み込んでじっと見つめた。

 「いいかシャロン…君は間違っている。少しくらい食事を食べさせたからってそれがどうしたと言うんだ?それくらい僕だって出来たさ。僕が元気だったら…いいからちょっと待ってて、いますぐ彼が今までどれだけの事をして来たか見せてやる!」レックスは恐いくらい素早く部屋を出た。そして10分ほどすると、たくさんの書類の束をもって帰って来た。



 レックスはわたしのベッドの上にその書類を置くと、その中から何枚も写真を取り出した。

 シャロンは、ベッドに座ったまま、声も出せずにレックスのやることを見つめていた。



 「シャロンこれを見るんだ!」レックスが写真をわたしの目の前に突き出した。彼の冷たい視線が絶対命令のようにわたしを見据えた。

 「これって?…ジェリーじゃ?」まさか…嘘よ。こんなの…

 「ああ、これは君のもと夫のジェリーだ。彼は君と結婚してからもバーでこんな事ばかりしていた。それだけじゃない。君と出会う前だって、どれだけの女を泣かせたか…それに君と別れてからだって…」



 わたしは次々に見せられる写真に、手が震え始めた。

 ジェリーは楽しそうに話をしている。女の人は彼の髪や顔に触れて中にはキスしている写真もあった。彼が女の人と一緒にバーを出て行く写真。腕を絡ませ女は彼に体を擦りつけている。日づけはまだわたしたちが結婚してた頃だった。

 わたしは唇をかみしめた。悔しかった。彼が女の人とこんなに楽しそうにしている姿が…



 「でも、レックスどうしてこんな写真をあなたが?」随分前の写真がどうしてここに?

 レックスは言葉に詰まった。なんて言えばいい?



 レックスはいいことを思いついた。

 「実はジェリーに脅迫状が届いただろう?」

 「ええ、あの件はどうなったのかしら?わたしを襲った犯人と同一人物なのかもわからないし…」

 「ああ、そうだ。でもあの犯人が、この写真を送りつけて来たんだ。それでジェームスから頼まれて専門家に調査を頼むことになった。それでちょうど持っていたんだ。いい機会だよシャロン君も彼の本当の姿を知っておいた方がいい…」

 「犯人が?だとしたらジェリーは相当前から恨まれているって事なの?」

 「それはよくわからないな。犯人の目的が何なのかわからないし、複数犯かも知れないだろう?とにかく彼は恨みを買うようなことばかりして来た。自分の責任さ。シャロンが心配することはないよ。君は巻き込まれたんだから」

 「わたしもそう思ってたけど…」

 ジェリーがそんなに恨まれているなんて…

 でも、女性にだらしないことだけは確かね…



 シャロンは、そんなことをすっかり忘れていた自分にあきれた。浮気していなかったって話も信用できないわ。

 わたしったらジェリーに優しくされてすっかり舞い上がっていたから…



 「さあ、シャロンこれも見たほうがいい。君のためだ」レックスが次の写真を出した。

 落ち込む気持ちに、さらに追い打ちをかけるように彼が手渡そうとする。

 シャロンは背中を丸めて膝の上で拳を握りしめていた。写真を見たくないと脳が拒絶するかのように、目を固く閉じていた。手のひらには爪が食い込んだ。

 わたしは天井を見上げて、息を深く吸い込んだ。息を吐きだしながら体の力を抜いていった。そしてやっと膝に置かれた写真に視線を向けた。



 わたしは衝撃的な写真を見て絶句した。

 「君と別れてからのものだ」追い打ちをかけるようにレックスがつぶやく。



 彼が女性と完璧に交わっている。それもビルの屋上らしい場所、公園の暗がりでも、こっちは地下駐車場かしら?どれも違う女性だった。

 ジェリーはズボンをずらして、女は服を着たまま…まるで動物みたいに…壁に押しつけているものや、後ろから激しく突き立てている写真もあった。甘いささやきも、優しい抱擁もない。ただ雄と雌の交わりみたいに…

 何だかひどく悲しくなった。そんな彼が哀れにも見えた。



 極めつけは数枚の最後の写真だった。日付はわたしがバクスターのところにマシューと顔合わせに行った日だった。

 別れてから初めてわたしと再会した日に…

 もう何てこと…最悪!

 見たくない。わたしはこの瞬間ジェリーの本当の姿を見せつけられる気がした。

 そんな事が頭をかすめると、写真を持つ手がますます震えた。



 一枚目の写真は…

 黒髪の女を引き寄せ連れだってと暗がりの路地に入っていくジェリー…女は嬉しそうに彼にもたれながら…握りしめた手に力が入る。

 今すぐに破ってしまいたい衝動を抑え込んだ。



 次の写真は…

 その暗がりでジェリーは女をひざまずかせていた。女が彼のものをしゃぶっているみたいだ。髪を振り乱して…

 もう気分が悪くなった。吐きそうになる。



 次の写真…もうやめて。心がそう叫んだ。もうわかったから…ああ…神様。

 わたしはその写真をどうしても見れなかった。



 「シャロン君にはつらい事だろう。でもどうしてもそれを見るべきだよ」とレックスが言った。彼の声は悪魔にも思えてくる。



 わたしは顔をしかめてその写真を見た。

 あああ…

 彼はさっき見た写真みたいに女を壁に押し付けて突き上げている。女の胸ははだけて乳房が見えている。そしてジェリーは…女にキスをしていた。それまでの写真はキスシーンはなかったのに…それもかなり激しく…

 もういや!

 どうしてわたしがこんなものを見せられなきゃいけないの?



 ショックだった。こんな事をジェリーがしてたなんて…それもわたしと再会したその日に…



 それがどうしたっていうのよ。あいつなら当然わかってたことじゃない!悪魔は笑いながらささやく。

 わたしは心の中で同じ言葉を憎しみを込めてつぶやいた。



 ジェリーは相変わらずの女たらしで、平気でどんな女とでもやりまくっていたわけで…そんな事ずっと前から分かっていたことじゃない。良かったじゃない。本当の事が分かって、もし明日一緒に帰って彼のものになっていたら?それこそ取り返しはつかなかった。

 わたしは二度も同じ過ちを繰り返したことになる。そう、最悪のジェリーフィッシュに…あんな最低な男に…悪魔よりひどい男の手に落ちるところだった。

 なんてこと…

 なんてばか…

 なんてお人好しなのよ!



 わたしは黙ったまま写真をレックスにつき返した。

 ”レックスあなたの言いたいことはよくわかったわ。わたしが間違ってた。ジェリーとよりを戻すなんて間違っていた。”押しつぶされてぺしゃんこになった脳みそから、はるか海馬のかなたで抹消されそうになっていた記憶を引き戻した。

 

 レックスは眉を寄せてわたしを見やった。

 ”わかっただろう?あいつがどんな男か?”と言わんばかりの目つきでわたしを見る。



 うつむき加減のわたしの頬にひんやりした感触がしたとたん、レックスはわたしの顔を上向けた。

 「もうわかっただろう?君にはつらいことかもしれないが…彼は変わってなんかいない。もう諦めろシャロン…」茶色の瞳は、ずっと奥の方まで温かそうで、それはまるで…わたしを温かく受け入れるみたいに手を広げている。



 泣きたくなんかないのに、涙が頬を伝った。

 レックスの指先がその雫を拭うと、彼の唇が重なって来た。

 彼の唇は冷たかった。でも彼がわたしの唇に吸い付くと温かい熱がわたしを包み込んだ。レックスがうなじに手を這わせてわたしは彼に引き寄せられた。

 キスが深まる。彼は唇を舌でそっとなぞると、わたしは自然と唇を開いていた。彼の舌がするりと入って来ると、わたしはその舌に自分の舌を絡めた。

 今はただ温もりが欲しかった。誰かに支えてもらわないと、糸の切れた凧のように吹き飛ばされてしまいそうだった。




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