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やっとレックスが唇を離すと、わたしは彼に抱き締められた。
「シャロン、ずっと君が好きだった。君は美しくて優しくたくましくて…僕は君とずっと付き合いたいと思っていた」彼はわたしの耳元でささやいた。
「それ本気なの?わたしと?わたしが好きって?」ああ…どうしてわたしはこんないい人を好きにならなかったのだろう。あんなくずやろうなんかを好きになったばっかりに…今もこんなに苦しんでるなんて、ばかみたい!
ジェリーの事をすっぱり忘れられたらどんなにいいだろう?
ハサミでパシッと切るみたいに…
シュレッダーにかけて細かく切り刻むみたいに…
あの犯人みたいにナイフでスパッと切りつけるみたいに…これは論外。
レックスはわたしをほどくように離すと、ベッドのわきに座った。
「驚いた?」
「ええ、ちょっと‥‥」わたしは、レックスがそんなことを思っていたとは考えてもいなかった。
シャロンは黙ったまま考え込んだ。
そう言われれば彼がこんなに優しくしてくれていたのは…
でもレックスのおかげで今までどれだけわたしは救われたか。ジェリーがわたしを救ったことがあった?まるで記憶にない。わたしが彼を救うことはあったけど…今回もそうじゃない?
ああ…なんて愚かだったの。考えればすぐにわかりそうなことなのに。
もしかしてあの暴漢さえ彼の仕業かもしれない。
まさか…それはありえないわ。だって、編集者に脅迫文が来たのよ。
あんなの誰でも送れるわよ。
でも写真は?そうよ。彼の仕業じゃない。
こころの中がまるでルーレットみたいにくるくる回っていた。
考え始めたら、どこまでが本当でどこからが嘘かさえわからなくなっていた。
でもジェリーとよりを戻すなんて愚か者のすることだと言うことだけはわかっていた。
それにジェリーを追い払うのには、レックスと付き合った方がいいかも。でも彼を利用するなんてできるはずないじゃない。
じゃあ、本気で付き合えばいいんじゃない?いい加減次のステップに進まなきゃ。新しい男性と付き合えば道も開けるかもしれないわ。
わたしの中にかすかな希望が見えて来た。
「あの…レックス明日は仕事なの?」
「まあね。でも企画部は急ぎの仕事はないから。そうだシャロン明日迎えに来ようか?」
「ええ、出来たらお願いできる?ジェリーにあんなことを言ったあとだし、一緒に帰らないとなったら、ものすごい理由が必要な気がして…」
「いざとなったら僕に任せればいい。君は僕と付き合っていることにすればいいから」レックスは胸をたたいた。
「あのねレックス。嘘じゃなくて、ほんとに付き合ってみたらどうかなって思うんだけど、どうかしら?」
シャロンはジェリーと一緒に暮らしていたころのような、まるで嵐に会った難破船のような気持ちには二度となりたくなかった。でもレックスとならこの先の未来が手に取るように見えてきそうだった。
今までどうしてそんな事に気が付かなかったのか不思議だった。ジェリーの事ばかりにずっとこだわっていたから、気持ちにゆとりがなかったのかもしれない。
そうよ。ジェリーの事さえ忘れればすべてがうまくいくのよ。
まったく!しつこいジェリーフィッシュだわ!
「シャロン、それは本気なのか?僕は君が本気になるまで待つつもりだった…」レックスは顔をほころばせた。緊張をほぐした彼はすごく素敵だった。
「ええ、わたしを本気にさせて…」すべてを忘れたかった。
「今のは本心?」
「もちろんよ。心からそう思ってる」シャロンはそうすることが一番いい気がしていた。
「すごくうれしいよシャロン。君がそう言ってくれるのを待っていた。じゃあ、明日は何時に来ればいい?」
「そうね…11時ごろじゃないかしら?ジェリーはきっとお昼に来ると思うから…」明日は朝食には来ないわよね。わたしはもうひとりで食事出来るんだから…それが急に寂しい気がして、自分でも愚かだと思わず頬をひっぱたきたくなった。
「じゃあ、もう帰るよシャロン」レックスはもう一度軽いキスをすると帰って行った。
レックスがドアを閉めるとシャロンは急に気が抜けた。たまらないようにベッドに転がる。
真っ白い天井を見ながら、この1時間ほどの事が怒涛のように押し寄せた。
幸せで膨らんでいたハート型の風船は、はえ叩きで叩き潰されたみたいにぺしゃんこにつぶれて、無残な姿で病室の床に転がっていた。
眠ろうとしても夢の中にジェリーが出て来た。彼はわたしの部屋の薄汚れたソファーに座り、騙されたわたしをあざけるように薄ら笑いを浮かべていた。
わたしは何度も飛び起きて悲しみに暮れた。
ああ…ジェリーが憎くてたまらない…
なのに彼の温もりが恋しかった。
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